厳しい時代を生き抜くための研修ねぇ~。(~_~;)



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 困難に直面しても決してあきらめず、必ず解決法を考える精神を植えつけようと、大手化学メーカーのカネカは新入社員に過酷な研修を課している。25年も続く伝統の研修は通称「ハイテク研修」と呼ばれる。しかし、先端技術のハイテクではない。「はいつくばってテクテク歩く」を縮めたもので、知恵と根性を頼りに、ひたすら山道や海岸を歩く。さて、いったいどんな研修なのだろう。



 4月、新入社員約90人が淡路島に集結した。ここが「ハイテク研修」の場だ。同研修は昭和62年にスタート。大阪府北部にある剣尾山のふもと、能勢町の府立総合青少年野外活動センターが拠点だったが、同施設が昨年春に閉鎖されたため、今年から淡路島に舞台を移した。



 「ハイテク研修」は山道や海岸など計15キロのコースを、指定されたチェックポイントを通過しながら、約3時間かけて歩く。



 新入社員は10チームに分かれ、チェックポイントが書かれた地図と定規、たこ糸を渡される。重要なのは前日に開く作戦会議。まず、各チェックポイント間の距離を割り出さなければならない。曲がりくねった道はたこ糸をはわせ、それを伸ばして定規に当てて距離を割り出す。距離や等高線が示す道の傾斜を考えながら、各チェックポイントの到着目標時刻を設定していく。



 これだけでも相当頭を使うが、正味大変なのは当日になってから。時計や携帯電話は没収され、磁石(コンパス)を持つのも禁止される。頼りは自分たちの知恵だけだ。設定した各チェックポイントの到着目標時刻に、いかに近い時刻で通過するかを競う。それだけに事前のの作戦会議が重要になる。



 人事部人材開発グループリーダーの畑昭さんは、ちょうど研修が始まった年に入社した“1期生”。「この研修を企画したのは、当時、社員教育に情熱を持っていた人たちです。そのころ、『ハイテク』が流行語になっていた影響もあるようです。研修は日常業務に欠かせないプランニングや議論、コミュニケーションの大切さを知ってもらうのが目的で、内容は25年前からほとんど変わっていません」と話す。



 とはいえ、危険な側面も否定できない。「遭難しないよう、万一に備えて道順を知っているスタッフが各グループに同行しますが、方向を見失って、コースからどんどん離れてしまうグループも当然出てきます」と畑さん。各グループの知恵も見物の1つ。「歩幅を一定に保って、歩数から距離を確認したり、あらかじめ目盛りをつけて、底に穴を開けたペットボトルの水が減った量で時間を計る『水時計』を作ったり…。参加者は毎年知恵をしぼっています」という。



 「以前、歩きながら自分の脈を数えて、そこから時間を計算する人もいましたが、山道を歩いているうちに、だんだんと脈拍が速くなっていくので、これは効果はなかったようです」といった笑い話も。チェックポイントをすべて通過し、ゴールに到着しても、それで終わりではない。



 各グループで「なぜ計画した時刻通りに通過できなかったか」「役割分担は機能したか」「安全性は守れたか」、さらに「落としたごみなどを回収したか」といったことまで検証し、成果を発表する。「計画と結果にギャップが生じたとき、次はどうすれば成功につなげられるのるかを考える。ここが大切なんです」と畑さん。



 「僕自身も計画通りにいかず、しんどかった。でも、剣尾山の山頂にたどり着いて、広大な風景を見たときの達成感は忘れられません。みんなでとことん議論して、苦楽をともにした仲間との絆も深まります」と振り返る。チームワークを核とした計画と行動。そして、失敗を成功につなげる精神-。厳しい時代を生き抜くビジネスマンに求められる素質である。そして、それは豊かなモノに囲まれた“便利な環境”では、身につかないものかもしれない。(宇野貴文)