権力者と民


言論出版妨害法にねじ曲げられた

 じつは、改正住基法の賛成条件として、「民間部門をも対象にした個人情報保護法を作れ」という主張を、突然、公明党政審会長(当時)だった坂口力が初めて会見で明らかにするのは、99年5月25日のことである。

 ところが、なかなか興味深いことに、そのわずか三日前の5月22日付け京都新聞朝刊の記事によって、京都府宇治市のほぼ全人口分に匹敵する約21万人分の同市の住民基本台帳(住民票)が外部に流出し、民間のインターネットで販売されていた事実が発覚している。

「住民票流出」という深刻なプライバシー侵害に、世論も非常に敏感になっており、全国紙もただちに後追いした。5月24日の自治省事務次官の定例会見の場でも取り上げられ、自治省サイドは「(住基ネットの)システムは完全に元の台帳データから切り離し、ネットワークの中から情報は漏れない」と述べるなど、何としてでも改正住基法案を成立させたい政府・与党としては、弁明におおわらわだった。

 こうした動きに公明党はすかさず乗っかる形で、「プライバシー保護の観点から、個人情報保護法を作らなければ、われわれは住基法の改正には反対する」と切り込んでいったのである。

 そして、何とも狡猾であるが、公明党が規則の対象にせよと主張していた「民間部門」に「新聞社、放送局、出版社」を入れ、さらに保護すべき「個人」の中に、統治権力の座にいる「公人」も含めることで、「マスコミ報道によるプライバシー侵害から、池田大作に象徴される権力者を守れ」という、言論出版妨害法にねじ曲げられていくのである。

 事実、99年6月10日の小渕の国会答弁を受け、さっそく、同23日に自自公三党によるプロジェクトチームの初会合が、マスコミを完全にシャットアウトした非公開の形で開かれているが、その場で公明党の議員からは池田の名前こそ出してはいないものの、はっきりと「報道被害によるプライバシー侵害を何とかしろ」と主張している。つまり、当初からこの法案は「言論出版妨害」を強く志向していたのである。

 当時の事情をよく知る大手紙のベテラン記者は次のように内情を明かす。

「公明党の議員は、旧新進党時代の池田大作証人喚問に、国会内でピケを張って、絶対反対を訴えたように、池田を守ることを常にに義務づけられているわけでしょ。とはいえ、明治時代の讒謗律や新聞紙条例のように、ストレートに言論を取り締まる法律はなかなかできない(笑)。だから、こうやって住基ネットの成立にかこつけ、何とか搦手から週刊誌を縛ろうとしたんだよね」

 また、現役の自民党国会議員は、今度の法案が「公明党主導」であるとしたうえで、こう指摘している。

「自民党の中で、人権尊重だ、個人情報保護法制定だなんて声高に言ってる連中を見てみなさい。みんな、創価学会から票をもらっとる連中じゃないですか。彼ら(=公明党・創価学会)の言う『人権尊重』や『個人情報保護』とは、要するに『池田大作の人権、そして個人情報を守る』ということでしょ」



池田大作保護法化させないために

 創価学会・公明党は、69年から70年にかけて藤原弘達、内藤国夫の著作に対して「言論出版妨害事件」を引き起こし、さらに76年に池田の女性問題を書いた『月刊ペン』の隈部大蔵編集長を、警視庁に根回しして逮捕に持っていかせているなど、もともと批判意見を封じ込め、抹殺しようとするファッショな体質を持っていた。

 しかし、それは、池田大作自身が「今、世の中は個人主義、自由主義になっているが、本当は全体主義が一番理想の形態だ」(72年7月15日の社長会)とはっきりと言い切っているように、そもそも彼自身のキャラクターに由来するものだ。

 そして、野党・新進党時代の96年、『週刊新潮』の二月二十二日号で、元創価学会婦人部幹部・信平信子の「私は池田大作にレ◯プされた」との告発手記が掲載されたことにより、例の聖教新聞の中傷座談会を見てもわかるように、自らを批判し続ける雑誌媒体、とりわけ『週刊新潮』に対する池田の憎悪は、決定的に高まっていくことになる。

 つまり、こうしたメディア規制を狙った個人情報保護法案とは、「公明党・創価学会=池田大作」という、全体主義的な政治勢力が、「九九年体制」で政権中枢に入ったがゆえに、出るべくして出てきた法案なのだ。

 ただ、この法案も修正案では、メディア規制の根幹になると厳しい批判を受けた「基本原則」を全面削除するなど、だいぶ当初案よりはマイルドになってはいる。

 それゆえ、今後、運用の面で、この法律を池田大作保護法化させないためには、厳しく公明党・創価学会(=池田大作)の動きを監視し、批判を続けることにより、政権中枢への影響力を削ぎ落としていかなければならないだろう。その中で、法律の抜本的な改正を行い、池田大作に象徴される「権力者」ではなく、「民」のプライバシーを守る本来の個人情報保護法に変えていくことが必要である。(文中・敬称略)


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