ワークライフバランス(WLB)という言葉は、社会的にだいぶ定着してきたように思います。「働き方改革」が注目される中、あらためてこのWLBという概念もまた見直されているように思います。
さて、ベストなワークとライフのバランスというのは、どれくらいのものなのでしょうか?5対5だとベストなのか、7対3だとベストなのか。週40時間は「ワーク」で、のこりの週128時間が「ライフ」だとベストなのでしょうか?
「そんなの人によるよ」
これは一つの真理ではないかなと思います。
週80時間でも働いていたい人もいるでしょう。起きている時間のほとんどは自分の仕事に費やしたい、というような人。例えば現役のプロ野球選手などは「食べるのも仕事」「筋トレも仕事」「練習も仕事」「読書も仕事」「もちろん試合も仕事」といったことになるのではないでしょうか。
逆に「週に2日(16時間)も働いたら、あとは働きたくはないよ」という人もいるでしょう。
村上アシシという人がいて「年の半分働いて、年の半分はサッカーのサポーターとして生きる」という人生を送っています。村上アシシさんにとっては、それが「ベストなワークライフバランス」ということになるのでしょう。
ですから、そもそも「残業を規制する」とか「総労働時間を規制する」といったことは、本質的なワークライフバランスの向上には、ほとんど何も寄与しないのではないかと考えています。一方で、なぜ残業時間などが問題になるのかについては後述します。
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■ ワークライフバランス(WLB)が悪いとはどういう状況なのか?
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「自分のワークライフバランスは悪い」と思っている人の多くは、恐らくは「ワークの方が多すぎる」と感じているのでしょう。だからこそ「ワークの総量を規制しよう」といった発想が出てくるのだと思います。
しかしこの「ワークの方が多すぎる」と感じるというのは、どういう状況なのか、考えてみないといけません。
1.仕事に誇りややりがいを感じられていない
「ワークの方が多すぎる」という人は、そのワークが楽しくない、やりがいが感じられていない、からなのですね。
私の知人のビジネスパーソンは、今は経営者をやっていますが、会社員時代から「朝は7時から仕事して、夜は23時くらいまで仕事する」というのが普通でしたが、とても楽しそうでしたし、充実感を持っていました。彼は、自分の仕事に誇りとやりがいを感じていたのです。だからこそ、土日も「仕事のための勉強」に自分の時間を費やしていても、何の苦も感じなかったのです。
そういう人は「ワークの方が多すぎる」とはあまりならないのです。
もちろん、そのビジネスパーソンも結婚して、子供が生まれて、環境が変わり、以前ほどは働かなくなりました。しかし依然として平日は朝から晩まで働いていて、その状態に対して満足しているのです。(家族の仲も非常によいそうです)
繰り返し言いますが、この人の場合は「自分の仕事に誇りとやりがいを感じている」ということが大きいのです。
だとしたら「ワークライフバランスが悪い」ということの問題は、「ワークの時間が多すぎる」ということではなくて、「ワークに誇りややりがいを持てずにいる」ということになると思うのです。これは、とても重要な問題です。私は、働き方改革の本質の一つはここにあるように思っています。
2.社員が経営・会計の仕組みを充分に理解していない
もう一つの観点があります。それは「ワークライフバランスが悪い」と感じた場合に「これだけ働いて、これだけの給料かよ」という意味合いが含まれている場合です。
この点に関しては非常に多くの論者が「仕事時間の総量規制なんてアホらしい。生産性を高めなければ、働き方改革なんてできない」ということを主張しているなと思いますし、私もその面において多分に賛成するところです。
ただ「生産性を高める」というのは、簡単なことではありません。これは資本主義社会の構造の中で常に「競争」ということがあるからです。そして「富と時間の奪い合い」が起こっている構造があります。
生産性を高めようというのは、簡単に言えば「100万円稼ぐのに100時間かかってたけど、80時間でできるようになったら、20時間余暇として使えるよね」ということですね。そしてこれを実行しようとして例えば「便利なITツール」を活用したとします。なんと確かに今まで100時間かかっていた仕事が、80時間でできるようになりました!
そして、その会社は「よし90万円で売り出そう。その方が競合より売れるから。仕事時間は80時間だしいいよね」とやります。
ところが競合の会社も黙ってはいません。同じ「便利なITツール」を導入し、80時間で90万円どころか、80時間で80万円で売り出すことにしたのです。。。
生産性というのはつまるところ「時給」ということです。確かに初めの会社は、時給1万円を、時給約1.1万円に高めることに成功しました。しかし、市場競争の影響で、あっという間に時給1万円に戻ってしまったのです。
これが「生産性を高めよう」という主張の限界であると私は思っています。つまり、生産性なんてそんなに簡単に高まらないのです。市場競争が、労働者に「常に限界の生産性」を求めてきてしまうからです。(よりよいものを、より安く買おうとする市場原理においては、これは当然起こることです)
一部の天才的な起業家などを除けば「生産性を高める」ということの恩恵など、ほとんどの労働者にとって享受できない構造に、社会そのものがなってしまっているのです。(社会構造そのものをどう変化させていくべきかは、経営の問題ではなく、政治の問題と考えるので、ここでは詳述しません)
では、本当に「社員が、ワークライフバランスがよいな」と思えるには、どうしたらよいのでしょうか?「こんなに忙しく働いて、これだけの給料かよ・・・」という思いを払拭するにはどうしたらよいのでしょうか?
それは「生産性を高める」というようなことではなく、「経営・会計の透明性を高めて、社員の会計リテラシーを高めて、みんなの“納得感”を高める」ということでしか、できないのだろうと思います。
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■ 企業における実例
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私がご支援していたある企業では、会計の透明性を非常に高くしていました。どれくらいの売上で、どれくらいのコストで、どれくらいの利益が出ているか。そこから労働分配率をどれくらいにして、内部留保をどれくらいにしているか。これらをほぼオープンにしていらっしゃいました。
ただ残念なことに社員の方の会計リテラシーが追い付かずに、折角情報は開示されていても「その意味が分からない」というような状態でした。そこで、会計リテラシーを高めるための勉強会を社内で実施していきました。
そうなると、その会社の「ワークライフバランス」は劇的によくなったのです。市場競争の激しい業界で、油断はできない経営状態です。ですから、相変わらず総労働時間は多い(日常的に残業が発生している)状態でしたが、社員の方は「これが自分たちのベストなワークライフバランスだ」と認識するようになったのです。
もちろん、もっと休みたい。けれど競合も頑張っている中で、油断したら自分たちの会社は倒産してしまう(ちなみに会社のことは好きで、倒産などさせたくないとみなさん思っている会社でした)。
もちろん、もっと給料は欲しい。けれど人件費として払い出してしまうと、研究開発などにお金を割けない。来年以降の業績がより危うくなってしまう。それはつまり自分たちの給料や雇用も危うくなるということ。それに、内部留保を厚めにしておかないと、市場環境の急激な変化があったときに、対応しきれない。
そういったことを社員の方が理解し、会社の情報公開に触れた時に「なんてフェアな会社なんだ」ということが分かったのです。
なお、少し特殊な例ですが、私が組織マネジメントを支援したあるベンチャー企業では「月に3日だけ働く社員」という存在がいます。これを、月6日働くようにすれば、彼の年収はたぶん倍になるのでしょうけれど(笑い)。
でも彼は「給料が安い」という不満を持つことはありません。自分で「これくらいの給料を選んでいる」という納得感があるからです。そして「残りの27日をボランティア活動に充てる」ということが、本人にとってはベストなワークライフバランスなのです。
ここまでの内容について、いかがだったでしょうか。少しでも皆さまのご参考になりましたら幸いです。
長くなってきましたので、また明日、ワークライフバランスを真に向上させる、真に働き方改革を実現する、ということのポイントをお伝えしていきたいと思います。
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