ヤマモト アサミ物語
--- ワタシ物語〜コレカラ ショートver〜 ---
作者:ワガミチユウコ
昔々あるところに、
アサミという女の子がいました。
アサミは【翼】をおみやげに、
この世界にやってきました。
〜人は皆、
この世界に生まれてくる時に、
その手に何かおみやげを握っているそうです。
ですが、このおみやげの存在を、
人はしばしば忘れがちです。
このおみやげの意味を、
とらえなおしたり
見つめ直したりすることが、
【人生】
という冒険の目的なのかもしれません。〜
アサミのおみやげは、
握りしめた手の中ではなく、
背中にありました。
その【翼】の存在は、
時にアサミを悩ませました。
【翼】を持っているワタシは、
変な子なのかな?
これを使ったらだめなのかな?
自分の思う通りにしたらだめなのかな?
自分の好きなところに行ったらだめなのかな?
こんなワタシの味方はいるのかな?
アサミは、
【翼】をそっと折りたたんで、
「普通」を目指しました。
「いい子」でいることを覚えました。
いつの間にか、
アサミは【翼】の存在を忘れていました。
それはそれで、平穏な毎日でした。
アサミは、少しずつ成長し、
自分でできることや
行けるところが増えてきました。
例えば、車の免許を取って、
今までより行動範囲が広がった時。
自分の選んだ、望む環境で、
自分の思うままに働けている時。
自分のやりたいことばかり、
自由に妄想を楽しんでいる時。
アサミのタマシイは喜びました。
そして、背中の【翼】はうずきました。
もう、アサミはその【翼】を
隠すのをやめました。
今、アサミは【翼】を広げて、
大きく伸びをしています。
バサバサとその動きを確認して、
その羽にたくさんの風を含ませています。
まだ飛んでいないのは、
行きたいところが
見つからないからではありません。
行きたいところが
たくさんありすぎるから、です。
アサミが目指した方角に、
何かおもしろいものがありそうと
みんながわくわくします。
アサミが空を飛びながら
口ずさんだ鼻歌は、
どこか遠くの誰かもご機嫌にします。
アサミがひろげた【翼】の陰で、
ゆっくり休む人もいるでしょう。
アサミと一緒に飛ぶ人もいれば、
アサミが降り立つのを
待っている人もいるでしょう。
アサミは、
もう自分のタイミングで飛んでいけるし、
一人でもみんなといても、
嵐に遭っても、ケガをしても、
予定とは違うところに降り立っても、
ぜーんぶ大丈夫なのです。
アサミは、どんどん身軽になります。
もう、平穏は求めていないから。
ただ、自由でいたいから。
きっと、アサミは、
コレカラそんな存在になっていくでしょう。
アサミの物語は、まだまだこれからも続く。