お兄ちゃんは小学生の頃からかっこいい。


顔がいいとかではなくて、例えば勉強は何でもできるし、お兄ちゃんの言ったところを押さえておけば抜き打ちテストで困らなくてすむ。


運動もそこそこできて、それに学級委員なんかもしてたっけ・・・。


勉強できる奴って、なんだか嫌みな感じのするやつが多いと、勝手に僕は思っているが、お兄ちゃんはそうでもないらしい。


休みの日で練習がない時は、友達とよく外に遊びに行ったりしてたし・・・。


僕の中では少しだけ、・・・ほんの少しだけだけど、お兄ちゃんは憧れの存在であった。


本当に、ほんの少しだけだが・・・。


なんでもできると思ってるし、実際そうだ。


それこそ、マンガの主人公のように・・・。


「・・・んげ!!」


「おいこら起きろ!!・・・ったく、返事がないと思ってたら寝てやんの。晩メシどうする?なんか食いたいもんあるか?」


いつの間にか寝ていたらしい。


「なんでもいいよ。・・・ピザでいいんじゃない?」


「おまえ、好き嫌い結構あんだろ?てきとーに頼んどいて、後でぐちぐち言われても嫌だかんな。」


「普通のでいいよ。・・・ってか、叩くなよ。起こし方もうちょっとやさしくてもいいんじゃない?」


「普通に言っても起きなかったからだよ。とりあえず起きて下に来い。普通のって言っても、結構種類あるんだから・・・。・・・早くしろよ。」


お兄ちゃんが部屋から出ていく。


頭をかきながら、上体を起こす。


傍らには開きっぱなしのマンガは、さっきまで読んでいたページがうつぶせになっている。


借りたやつだから、折れ曲がってたりなんかしたらお兄ちゃんにおこられるな・・・。


恐るおそるひっくり返してみると、奇跡的にも折れ曲がってはおらず、僕はほっと胸をなでおろした。


どたどたと階段を下りると、テーブルの上にデリバリーピザの一覧を開いたまま、コップに移したスポーツドリンクを飲みながらテレビを見ている。


カランと音を鳴らしながらコップを置くと、僕を確認して少しだけメニュー一覧を僕の側にずらして差し出す。


「早く選べよ、すぐにかけるから。」


「お腹すいてんだよね、ごめん。適当に・・・。」


僕は、“当店のおススメ!!”なんていうキャッチフレーズに自らつられるために、広告にでかでかと載せられてるいかにもピザと言うような商品を指差す。


それを確かめると、お兄ちゃんは僕の指先とテーブルの間からそのメニューをすっと引き抜き、片手に持ちながら電話をかけ始める。


テレビでは相変わらずのニュースが流れている。


政治家がテレビで熱弁をしている。


『今の政治には、・・・いや、国には!!国民の生活を考え、守り、そして国民を引っ張って行くリーダーが必要なんです!!それこそ古い時代を一蹴するほどの!!それには新たな世代のヒーローのような引率者が必要になるのです!!皆さんの事を真に考えられる次世代のリーダーを皆さん自身の手で選んでいただきたい!!皆さんの積極的な政治への参加と、清き一票を投じられることを私は心から望んでやみません!!』


ヒーローなんて・・・そんなのいない、と心の中で反論してみる。


言ったところで、こういう遥か上の人には届かない。


ふんぞり返って足を組み、足元でせっせと働く国民を薄い笑みを浮かべながら見下ろしているんだよ、きっと・・・。


チャンネルで番組をひとつ変えて笑い声の絶えないクイズ番組にすると、注文し終わったお兄ちゃんが、受話器を置いて椅子に座った。