こんにちは、ないとめあです。

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 国際決済銀行(BIS)が公表するデータによれば、通貨の総合的な購買力を示す実質実効為替レート(REER)は2026年3月時点で66.33(2020年=100)と、統計開始以来の最低圏に沈んでいる。 この数値は1970年の統計開始時点を下回り、1ドル360円の固定相場制時代よりも「円の実力」が低いことを意味する。

 

REERとは何か:「名目円安」より深刻な指標

 通常の「1ドル=○○円」という為替レートは対ドル2通貨間の数値にすぎない。REERはBISが約65カ国・地域の為替レート、貿易量、物価変動を総合的に加重平均した指標で、円の相対的な購買力の実態を示す。

REERが下落するのは以下の複合要因:
  • 名目円安の進行(他通貨に対して円が全面安)
  • 日本の物価上昇率が貿易相手国より相対的に低い
  • 生産性上昇率の長期低迷(バラッサ=サミュエルソン効果の逆)

 特に重要なのは、2022年以降に国内でインフレが進んでも、海外主要国の物価上昇率がより高かったため、名目円安の下落幅よりREERの下落幅の方が大きくなったという点だ(出所:野村證券投資情報部)。 「物価が上がったのだからREERも持ち直すはず」という期待は、この構造から外れた楽観論である。 (出所:野村證券投資情報部「実効為替レートで見る円の水準」


高市政権の積極財政路線と「財政悪化→円安」の回路

✔ 確認済み事実

 2025年10月に発足した高市政権は「責任ある積極財政」を掲げ、事業規模42.8兆円の補正予算を成立させた。 この規模はリーマン・ショック期に次ぐ歴代6位であり、プライマリーバランス(PB)黒字化目標を単年度で撤回した。 新規国債は補正予算の約64%、11.7兆円に達している(出所:三菱UFJ銀行マネーキャンバス「高市政権が進める『積極財政』の実態」2026年1月)。

REERとの関係について、大和総研の分析(2025年12月)は以下を示している:

「実質政府債務残高が1%増加すると、輸入の増加を通じて、実質実効為替レートが1年後に約0.9%円安になる」
(出所:大和総研 畑中宏仁「高市政権の財政政策は更なる円安を招くのか」2025年12月18日

 つまり積極財政の継続は、景気刺激を目的としながらも、その副作用として円の実質購買力をさらに侵食するという構造的矛盾を内包している。 高市政権発足時(2025年10月)のREERが70.81だったのに対し、2026年3月には66.33と半年で約6%低下した事実がこれを裏付けている(出所:時事通信「円の実力、56年前を下回る」2026年4月)。


燃料補助金政策:「価格麻酔」がREERをさらに歪める

✔ 確認済み事実

 高市政権はガソリン・燃料油への補助金(定額引き下げ措置)を継続・拡充しており、2026年3月時点ではガソリン48.1円/L、軽油65.2円/Lという異例の高水準の補助が投入されている。 中東情勢悪化を受けた「緊急的激変緩和措置」として開始された本措置は、財政支出をさらに押し上げる要因となっている(出所:資源エネルギー庁「中東情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置」)。

〔推論〕

 この補助金政策は国内消費者の体感物価を人工的に抑制する。その効果は以下の二重構造で円の実力を侵食すると考えられる。

【構造①:財政悪化→円安圧力】
補助金の財源は国債。国債増発は財政信認を下げ、円売り圧力を高める。

【構造②:物価抑圧→REER押し下げ】
補助金で国内物価上昇を人工的に抑えると、相対物価比較上、日本の物価上昇率が低くなり、REERの計算式においてさらに下押し方向に作用する。

 端的に言えば、補助金は価格の痛みを短期的に隠蔽しながら、REERをさらに歪めるという逆説的な効果を生んでいる可能性が高い。


④ 日銀の「慎重利上げ」路線:金利差が埋まらない

〔推論〕

 高市政権が掲げる金融緩和継続姿勢は、日銀の利上げペースに対して抑制的な圧力として働く。 市場が「積極財政+低金利継続」というセットを織り込む限り、円はキャリートレードの売り対象であり続ける。 これがREERを名目・実質の両面から継続的に押し下げるメカニズムの核心である。

現政策継続シナリオ下のREER低下ループ(推論図):

積極財政継続
 ↓
国債増発・PB悪化
 ↓
財政信認低下 → 円売り(名目円安)
 ↓
輸入物価上昇 → 補助金でカバー
 ↓
補助金追加支出 → 再び国債増発
 ↓
日銀利上げ抑制 → 日米金利差維持
 ↓
REER さらに低下(名目安+相対物価低下の複合)

⑤ 国民生活への実質的影響

✔ 確認済み事実

 REERの低下は「輸出競争力の向上」という文脈で語られることもある。しかし、エネルギー・食料を輸入に依存する日本においては、その「副作用」が直接的に家計を直撃する。

影響領域 内容
輸入物価 食料・エネルギーの円ベース価格が上昇。補助金で表面上は抑制されるが、財政負担として還流する。
実質賃金 名目賃上げが実現しても、輸入インフレで購買力が相殺される。「賃上げ→生活改善」の好循環が成立しにくい。
ドル建てGDP 円の実質購買力低下により、一人当たりドル建てGDPの国際比較順位が低下し続ける。
資産価値 円建て資産を保有するだけでは対外購買力が毀損。外貨建て資産・実物資産(金など)の重要性が増す。

まとめ:現政策が続く限り、REERは下落圧力にさらされ続ける

本稿の主張を整理する。

  • BIS公表のREERは2026年3月に66.33と、統計開始時点(1970年代初頭)を下回った。【確認済み事実】
  • 高市政権の積極財政路線は、財政悪化→円安→REER低下という回路を内包している。【大和総研の実証分析に基づく推論】
  • 燃料補助金は物価の痛みを一時的に覆い隠しながら、財政悪化とREER計算上の物価抑圧という二重の歪みを生む。【推論】
  • 日銀の慎重な利上げ姿勢が続く限り、日米金利差は埋まらず、名目円安がREERを下押しし続ける。【推論】

 「成長すれば財政は健全化する」という政権の理論が正しければ、長期的な生産性向上によってREERが反転する可能性はある。しかしそれは現政策の成否次第という条件付きシナリオであり、現段階では実現を裏付ける具体的な構造変化の証拠は乏しい。

 通貨の実力が56年前を下回った今、問われているのは「補助金で何円下げるか」ではなく、なぜ円はここまで弱くなったのか、その構造を直視できるかという問いである。

【主要参照情報】
BIS 実質実効為替レートデータ(2026年3月)| 大和総研「高市政権の財政政策は更なる円安を招くのか」(2025年12月18日)| 野村證券「実効為替レートで見る円の水準」(2025年10月)| 資源エネルギー庁「燃料油価格定額引下げ措置」(2026年4月)| 三菱UFJ銀行「高市政権が進める積極財政の実態」(2026年1月)| 時事通信「円の実力、56年前を下回る」(2026年4月27日)

※本記事内の「推論」は筆者の分析・解釈であり、確定的な予測ではありません。

 

では、また!