1997年12月10日 マーキュリーよりリリース
前作「COSMOS」から約2年後、レコード会社を移籍しての発売となります今作。
前作が結構ポップで明るい印象だったのに対し、この作品は比較的シリアスな匂いがあり、しかもテクノ…というか、打ち込みが多いです。
「COSMOS」の中に「Living on the Net」という曲がありましたが、この曲から膨らんで「SEXY STREAM LINER」に繋がったかな?という印象です。
まず、全体を通しての感想なんですが、曲は文句なくカッコイイ。
最初から最後まで肉感的では無い…と言いますか。テクノロック(?)でありながら、凄いスぺーシーだったり、和風だったり。
やはり、電子音が多いせいなのか、イメージとしては「近未来」です。
ただ、歌詞に関しては浮世離れ感のあるものもありますが、基本的にその当時の世相描写が多い様に見受けられました。
戦争をイメージさせる詞が2曲程、当時の世の中に対する皮肉とも思える詞が2曲。
残りは精神世界だったり、欲望だったり。
では、一曲ずつ感想参ります。
タナトス
イントロの浮遊感が気持ちいい曲です。その浮遊感を味わっていると、突如現実に引き戻される…というような。
この曲、タメが随所に出てくるんですが、それがまたかっこいい。
一番は間奏部分のタメで、だんだん間が詰まってくるのがイイです。
さて、詞についてなんですが…。
「タナトス」ってどんな意味?そんな花があるのか?
と思いまして、早速ですが調べてみました。
タナトス(wikiより)
ギリシア神話に登場する、死そのものを神格化した神。
ニュクス(夜)の息子でヒュプノス(眠り)の兄弟。抽象的な存在で、古くはその容姿や性格は希薄だった。
ただ、神統記では、鉄の心臓と青銅の心を持つ非情の神で、ヒュプノスと共に大地の遥か下方のタルタロスの領域に館を構えているという。
しかしホメロスは、タナトスとヒュプノスの兄弟が英雄サルペドンの亡骸を トロイアからリュキアへと運ぶ物語を述べ、初めてタナトスは人格神として描かれた。
さらに後世の神話では、臨終を迎えんとする人の魂を奪い去って行く死神として描かれる様になる。
英雄の魂はヘルメスが冥府に運び、凡人の魂はタナトスが冥界へ運ぶともされる。
また、王妃アルケスティスの魂を運ぼうとしてヘラクレスに奪い返された話や、 冥府に運ぶはずのシシュポスに騙されて取り押さえられ、それから しばらく人が死ねなくなった話なども伝えられている。
一説にはレテと兄弟であるとも言われる。 また、ヒュプノスとタナトスの兄弟のモチーフは、ドイツではザントマンとその弟の死神として結実する。
フロイトの用語でも用いられ、神話でのタナトスの役割同様に、攻撃や自己破壊に傾向する死の本能を表す。
ほうほう。ギリシア神話の神様だったんですね。ん?フロイト?心理学の用語にもなっているんですか?
え~っとなになに?「死の欲動」?対局がエロス…。ほへ~…。
さて、この「タナトス」の詞。
なかなか素敵だと思いませんか?
良いなあと思ったのが、
時を止めてみたいと思ったことが?
ですね。すごく面白い所で詞を区切っています。
普通、クエスチョンなんだから、「思ったことは?」ってなるはずなんですが、敢えてそれを「思った事が?」にしている辺り、冷たいというか、詰問っぽくて良いです。
というより、相手が「時を止めてみたいと思ったことが」あると決めつけて(断定して)わざと訊くような感じに捉えられるんですよね。
「私」と「あなた」の「胸」に「タナトスの花」=「時を止めてみたいと思ったことが?」
なんでしょうかね?
SEXY STREAM LINER
インストですが、これがまたカッコいい。
バキバキのテクノでは無いんですが、打ち込み音のリズムの鋭さとは対照的に主題がえらく浮遊感…というか、融合しちゃっている辺り、今井さんはカッコイイんだなと思ってしまいます。
ヒロイン-angel dust mix
「ヒ」と「ヘ」の違い…。
さて、まずは音の方から。
このギターフレーズ。痺れます。カッコいいなんてものじゃない。
こういう印象的なフレーズ、今井さんならではじゃないでしょうか。
わざわざサブタイトルがありますから分かるんですが、先行シングルとは若干違います。
分かりやすい所を挙げますと、初っ端の「おまえとひとつだ」が無い事と、最後のサビの直前、一瞬静かになる所でシングルでは聞こえなかった主題フレーズが聞こえてくる、と言う所が変更されてます。
細かい所は、分かりません。
詞についてですが、冒頭の「ヒ」の「ヘ」の違いがあるそうで、実際は「ヒロイン」じゃなくて「ヘ」の方だったってな事なんですか。
在りもしないものを探し、抱けないモノを抱いている様な描写がある、と言う事からすれば、まあ薬物がどうのこうのって言われて「へー」ってなるんでしょうが、ここは単純に、「お前と一緒に遠い所に行きたいんですよ」っていう詞でも良いんじゃないかなと思います。
後、「サソリ」と「十字」はそれぞれ星の呼び名(サソリは星座)であり、最後の「キミガシン..ダラ」にも出て来ます。
若干リンクしているのかも知れませんね。
無知の涙
この曲の、ファンキーな感じが好きです。イントロのドラムがですね、凄い好きなんですよ。
ギターのリフとかも好きです。
では、詞についてなんですが、タイトルの「無知の涙」。
確か同名の本がありましたよね?それとは、内容的に無関係の様です。
で、この詞は、個人的に思うんですが、某大国を皮肉っているみたいに思います。
大義の炎で 世界中を焼き尽くす
大国で戦争。1990年代と言えば。
以前、この頃(アルバム発売当時位)戦争がなかったか的な事を書いたんですが、1990年に湾岸戦争がありました。
ゲームの様な爆撃画面を見た気がします。暗視スコープかなんかで、爆撃している場所を遠くから撮影していたり、実際の爆撃機の中からの映像を放映してたりしてましたよね?
さてさて、「大義の炎」が焼いた後、残ったものはなんだったんでしょうかね。
何の戦争とは言ってなくても、結局「戦争」っていうのは、国と国の最終的な「外交」手段であり、国に都合の良い「大義」を掲げ争うわけで。
その「大義」の犠牲になるのは、いつの時代も、力無き人々です。
リザードスキンの少女
ミドルテンポの曲ですが、結構ハードですよね。ベースが好きです。
腰に来るし、タメとかもう好き。ギターもそんなに難しい事していなさそうですが、歪んだ音の後にたまに聞こえるアルペジオがイイです。
この曲の詞は、今井さんですね。先の「無知の涙」とリンクしているような。
ただ、「無知の涙」には「怒り」みたいな感情の波を感じるんですが、この曲は本当に冷めているような。シニカルというか。
曲のテンポと相まって、余計にそう考えるかもしれませんが。
痛烈なのは、「僕達は蚊帳の外」ですよ。
確かにその通りなんですが。ただ、よく思うんですけれど、「戦争反対」のデモをやった所で止める国ってあるんですかね?
私達の国は、表面的には平和ですけれど、蓋を開ければ腐ってますしね。
幾ら「戦争反対」と叫んでも、結局は遠い所の話だから「蚊帳の外」ですしね。
そういや、面白い表現がありました。
まず前作「COSMOS」に収録されている「キャンディ」と「チョコレート」が歌詞に入ってますね。
そして、
明日 月の裏側で神隠しにあった
という詞。
主語は未来の事を言っているのに、地球からは見えない場所で「神隠し」に「あった」っていう過去形。
予告は確定されているって事なんでしょうか?不思議。
螺旋 虫
星野さんの曲です。もう、メロディが切ない。浮遊感も堪らないです。
なのに、どこか淡々としてます。後に発売された「月世界」と同じ、現実感の無い無重力の静けさです。
詞に関しても、やはり読んでいても静けさをイメージしてしまいます。
蝶蝶
この曲も星野さんですが、「螺旋 虫」から一転、結構ハードな曲です。
星野さんの曲って、きれいなメロディも印象的なんですが、所々緊迫感のあるフレーズが存在してますよね。
そこがとても好きなんです。いや、今井さんの曲が緊張感が無いって言ってるわけじゃないですよ。
詞についてですが、相変わらず「ブタ」とかなんとか。
サルも出て来ますね、そういや。蝶蝶もそっか。
自分が所属する場所、また世の中について書いている様に思います。
でも、不思議な箇所もあるんですよ。
まず、バタフライは蝶蝶ですよね?そう定義すると、
俺はブタ、エサは「踊る蝶蝶」
→あの子が「奇麗な蝶蝶」を追いかけているのを見ると、悲しくなったりおかしくなったりする
→俺は高くなったり低くなったりしながら、バタフライに生まれ変わる
→しかも、クモの巣で踊るバタフライ
…書いてたらわけ分からなくなりました。
結局「俺」は「蝶蝶」って事ですか?
囁き
生々しい曲ですよ。何でか知りませんが、ドラムにしろベースにしろギターにしろ、えらいセクシーに感じてしまいます。妖しさ満開です。
詞についても、もうエロスとしか言いようがない。しかも、かなりディープな。アブノーマルな。
テーマは、「SM」なんでしょうね。そのまんまで捻りもないですが。
しかも、ちょっと生々しすぎて「汚い」っていう言葉が出て来ますが、確かにダーティというか。けして高尚な詞では無いですよね。
ただ、人は誰でもそういう欲がありますからね。ま、ここまで曝け出してる人いないですけど。
あと、「汚い」っていうのは生理的に受け付けないって言う意味では無いんです。
「生々しい」事って、結構下品で野蛮と捉えられる事って多いと思うんですよ。
それを前面に出してくると、ダーティなイメージが先行してしまうのは私だけなんでしょうかね。
迦陵頻伽 Kalavinka
当り前な話なのかもしれませんが、一発で変換出来ませんでした。
この曲、面白いですよね。素っ頓狂な和メロディなのに馴染んでます。
ボーカルメロディも、結構ベースラインと素っ頓狂リードに合ってないのに馴染んでます。
和風な様で、結構無国籍ですよね。タイトルのせいかも知れませんが、和風で仏教国風。
詞に関して言えば、無常感と現世の欲がテーマ…なんですか?
表現がすごいですよ。
「悲喜交交」を詞として使う、その眼の着け所が凄いです。
さて、「迦陵頻伽」ってなんでしょうか?(出たよ)
一応知ってはいるんですが、浅い知識なんでここでお勉強をば。
迦陵頻伽(wiki)
迦陵頻伽(かりょうびんが、迦陵頻迦とも)
上半身が人で、下半身が鳥だという想像上の生き物。
『阿弥陀経』には迦陵頻伽が、共命鳥とともに極楽浄土に住むとしている。仏教における想像上の生物でサンスクリットの kalavinka の音訳。妙音鳥とも意訳される。
中国の仏教壁画などには人頭鳥身で現れるが、日本の仏教美術では有翼の菩薩形の上半身に鳥の下半身の姿で描かれてきた。
敦煌の壁画には舞ったり、音楽を奏でるものもいた。時にコミカルに描かれる。
一般に迦陵頻伽が描かれていれば、その図像は浄土を表現していると理解され、同時にそれによって如来の教えをたたえることを意図する。
だそうですよ。有難い生き物なんですね。
MY FUCKIN' VALENTINE
来ましたよ。ライブで盛り上がる曲。初っ端のサイレンみたいな音がいい。
電子音バリバリなのに、背後でアコギのストロークが聞こえたりして、だいぶ面白い事をしています。
もちろん「狂った太陽」の「MY FUNNY VALENTINE」とは別物です。
今井さんが表立って長いこと一人でマイク使用するの、この曲が初めてじゃないですか?
この掛け合いがまたカッコいいわけなんですが。
詞については、韻を踏んでいる今井パートと病んでる言葉だらけの櫻井さんパートに分かれています。
やはり、世相の歌。詞をじっくり読んでいると、何やら自分が人間である事が恥ずかしくなってきます。
歌われている状態をどうこうしろとは書いてませんが、今の自分や取り囲む世間について考えてしまいます。
それに答えなんて出やしないんですが。
Schiz・o幻想
ああ…この曲は…。もう、鬱です。曲も暗くて重い。重力感じてしまいますわ。
時たま入り込む電子ピアノの音ですら、なんら救いになりはしないです。
夜のイメージ、というよりは、陽が落ちていく感じですね。ん~「斜陽」というイメージです。
詞について。
もう、えぐり過ぎ。傷をえぐって血が流れているのに更に塩塗って海水かけましたみたいな。
あの世の果てまで逃げ惑う
以前、精神的におかしくなってた時にこの曲聴いて、「生きても死んでも一緒なのかな」と考えた事がありました。
夜、眠る事が出来なくて、眠れても嫌な夢ばかり見てて、でも明日になって欲しくは無かったですね。
生きていたくないけど、生きてる。その事が苦痛でした。全部に否定されているような気分でした。
今は平気でグースカ寝てますけど。
そういや「Schiz・o幻想」の「Schiz・o」って何ですか?(また?)
スキゾですかね?何て書いて調べたら良いんかな?
メンタル面での話とするなら「統合失調症」のスキゾフレニアがありますが、それでいいんでしょうか?
かつては「精神分裂病」として扱われていた様です。
因みに「schizo」とは、ギリシア語で「分裂」の意味だそうです。
うう…、怖い曲ですよ。
キミガシン..ダラ
この曲も、結構無重力というかスぺーシーです。
なのに、サビのメロディがいやに歌謡曲。日本的っていうか、日本人の耳に馴染み易いメロディです。
でも、いたってシンプルです。ごちゃごちゃしていないシンプルさは、歌詞にも表れていると思います。
さて、なぜ、「キミガシン..ダラ」っていう妙な区切り方をしているんでしょうか?
普通、相手が死んだ時の事なんて考えたりしないじゃないですか。
親、親戚、兄弟、家族、友人、恋人、同僚、上司、隣の人。
自分に関わりのある人が、もしも死んでしまったら。
考えたくない事です。結構戸惑うと思うんですよね。
その戸惑いが「..」なんじゃないかと思うんです。
とても素敵な事を書いてます。カタカナ表記の部分なんですが、あなたの中には僕、私の中にはきみという対。
これが、一番櫻井さんの言いたかった事かな、って思います。
そして、ここでも「サソリ」と「十字(この曲では十字星)」が出て来ました。
どうして、「サソリ」と「十字星」なんですかね?調べたけれど、全然わからなかった。
夏の星座繋がり?