1993年6月23日 ビクターよりリリース


「狂った太陽」から「殺シノ調ベ」を経て、格段に表現力を増した彼らの、もっとも暗いアルバムでございます。
中坊の私を打ちのめした最鬱曲「キラメキの中で」を始め、今作には様々な絶望や葛藤、そして恐怖や死と言った、文字通り「負のパワー」全開の曲が目白押しです。
しかし、曲に関して言えば、例えば星野さんがピアノやシンセサイザーを奏でていたり、樋口さんがジャジーなベースを披露していたり、生の音と電子の音を組み合わせた面白い試みも成されています。
詞に関して言えば、今回櫻井さんが9曲、今井さんが2曲作詞しています。
この、両者の言葉の使い方が見事に分かれています。
そんな事も含めて、一曲毎に感想を書かせて下さい。


キラメキの中で…
以前書いた「太陽ニ殺サレタ」の感想文中に、この曲の主人公に通じるものがある、みたいな事を書きました。
その考えは今も健在です。
とても不思議な歌ですね。
「ケロイドの男」イコール「ケロイドの僕」。
この、「ケロイド」なんですが、自分を醜いと思い込んでいる、もしくは化粧をしている自分の表面を表しているのではないでしょうか?
でも、舞台の中で「裸」になっている「僕」。
どちらも自分である…という事でしょうか。
そして、キーワードが「キラメキ」。
「キラメキ」って聞くと、輝かしいものの様に感じますが、それが「来る」んですよね?
逃れられないもの。
「死」の事ではないでしょうか?
さて、曲についてですが。
この曲のイントロ、めちゃくちゃ怖いです。
なにか、恐ろしいモノがやってきそうな。
ドラムの音が、少し古めかしくて、連想したのは大道芸人。
絶叫する大道芸人は、「ケロイドの男」。
怖い。


Deep Slow
キラメキの中で」から一転、突如として現れるハードな音。
この落差に驚きます。このハードさが突き詰められると、Six/Nine」になるのでしょうか。
初っ端から「リズムはひどく狂ってきた」と歌う、その音程からしてわざと外してんじゃないのかと思うほど、跳ねてます。
ちょっと、エロティックな香り。
でも、何の「答え」が見えているのでしょうか?
そういえば、この曲、歌詞カード見ないと何歌ってるか分からなくなります。
エコー効きまくってませんか?
そして、早口な気が…。
珍しい…。


誘惑
ジャズ…。
もう、場末感ばりばりですよ。
ジャズバーで演奏しても、あんまり違和感無いんじゃないでしょうか?
樋口さんのベースが素敵ですよ。
ピアノの音が軽やかなのを、このウッドベースみたいな音で低音をカバーしている様に思います。
そう、ギターっぽい音が聞こえませんが、今井さんはサックス音をギターで出しているのでしょうか?
ドレス」のピアノ音が今井さんのギターから出てきたのはすごいなあって、前から思ってたんですが。
でも、詞が痛いですね。
目覚めには きっと忘れるだろう
とか、
そして今夜も誘っている 死という名の恋人
とか、あげたらキリ無い。
ただ、分からないのは、「僕」は死を「恋人」と名付けておきながら、「何処へ逃げようか?」と思案してみたり、
「早く逃げなきゃ」とあせってみせたりしている所なんですよ。
「死」を甘美なものとして扱いながら、それから逃げようとしている「僕」。
そして、終いには、「僕を殺サナクテハ イケナイ 君のもとへ」。
「君」とははたして誰なのか。
「死」なのか、それとも「僕の愛した天使達」なのか、「死んでしまったマリア」なのか、それとも…。
そういえば、こんな部分がありましたよね。
「君の大切なものは何?」
一夜の恋の相手なのかもしれないし、もしかしたら、「自分自身」の事かもしれませんね。


青の世界
イントロの「青の世界へようこそ」は、マジでビビりもんです。
しかし、またもやハードな曲に戻ってますよ。
歌詞の通りに吠えまくってる櫻井さん。
しかし、歌詞に「ああああ」だの「はっはっはっは」だの書く人って珍しくないですか?
いや、その二年後には、「うおおお」とか書いちゃって、しかもその通りに歌ってますからね。
彼にとっては普通の事なんでしょうね。
結構自虐っぽい事書いてますね。
俺は俺さえ裏切れた
とかね。
このころからなんでしょうか。
自分の存在意義、というか理由が分からなくなってきた…というか、周りの期待する自分と素の自分との境が分からなくなってきた感が漂うのは。
あと一つ。
「青の世界」とは?
さくら」にも出て来ますが、「青い部屋」と「青い世界」は同一なのでしょうか。
「部屋」と「世界」とでは規模が違いますからね。
比べるのもおかしな話かもしれませんが。
薄暗くなると、電気付いてない部屋って青くなりませんか?
それの事なのかな?
端的に、「暗い部屋」とは書かずに「青い部屋」とか。
若干明るいわけですし、真っ暗闇ではないけれども、寂しい感じがしないでもない。
あくまで、私の考えですが。


神風
この曲は、カッコ良過ぎる。
伝説の「ドボチョン一家」ってこれじゃなかったでしたっけ?
今井さんの感性の凄さを垣間見る曲ですよ。
カミソリのような夜の上を
なんて、普通は考えたりしないでしょう?
「センスが狂いそう」だの「センスが暴れそう」だの、凄いですよ。
インパクトとしては、「芸術は、爆発だ」並ですよ。
にしても、今井さんは1999年の事を、アカシックレコードで既に知ってたんでしょうかね?
神風が吹いたわけじゃないけれど、何も起きませんでしたからね。
あ、今井さんが超一流のハッカーになっちゃったんかも知れませんね。
イタイこと書いてごめんなさい。


ZERO
曲がとてもカッコいいんですが、歌詞がもう…。
絶望しているような感じでしょうか?
この曲では、途中がラップっぽいですよね。しかも、掛け合いで歌詞に載っていない部分も歌われています。
一番痛烈なのが、「唄う事をやめた獣 帰る家もない」の部分でしょうか。
例えば、Six/Nine」においては、似たような(歌を歌う彼を)表現でも、もう開き直っている感じがするんですよ。
でも、この時点では「唄う事でしか能が無い自分」に落胆しているような気配を感じます。
月に化けた君は…きっとお母様なんでしょうね。
その後に続く歌詞が、「(もう)明日はいらない」。
なぜ、もうにかっこをつけたのかは謎ですが、どうとでも読める歌詞ですね。
月に化けた君を愛して眠るから、もう明日はいらない…のか、
月に化けた君を愛しながら眠るなら、そんな明日などもういらない…のか。


ドレス
切ないですね。曲も美しい。
お気に入りは、アルバムバージョンです。
リズムから始まる方ですね。
しかし、ギタリストが、まるまんま一曲シンセ弾いてるってのも面白いんじゃないでしょうか?
まあ、BUCK-TICKさん。ギター持ってても弾いてない人(しかもまともに)いますからね。
なんでもありな感じで良いのではないでしょうか?
曲の途中、間奏部分で櫻井さんが何を言っているのか昔から分からなかったわけですが、最近解決しました。
最初、なんか英語かなんか言ってんのかな~程度にしか思ってませんでしたけど、あれ、ちゃんと日本語だったんですね…。
申し訳ない。「行かなくちゃ 早く」でしたか?
櫻井さんって、「ドレス」って言葉をよく使いますよね?
キラメキの中で」でも出てきましたが、「ドレス」って私の感覚からすると、裾の長い服っていうイメージなんですよ。
でも、実際英語では「衣服」そのものを指すわけです。
櫻井さんの場合…というか、日本人の意識として「ドレス」って言うのは、「特別な時に着用する衣服」ってなってるんだなって思います。
あ、そういえば。
この曲のサビの中で、「羽が無い」って出て来ますけど、どうも生えたみたいですね。
「風切り羽の 黒い翼」が。


LION
自虐の歌が。聞こえてくるよ。
ただ、重苦しい感じがしないのは何故なんでしょうか?
ZERO」と、歌ってることってあんまり変わってないと思うんですよ。
なのになぜ?
曲は、もう、本当に獰猛な獣そのものといった感です。
吠える声も獣。
なのに、なんとなくセクシーな喘ぎっぽい声も入っている。
肉っぽい。
相反する気持ちって、誰でもありますよね。
愛したいとか、言葉悪いですけど殺したいとか。
で、そんな相反する凶暴な気持ちを「心」の檻で飼っている自分に嫌気がさして、「天国へ行くのさ」とやけっぱち。
ただ、死は近いなんて言っておきながら、だめさなんて二度と言わないで。
くだらないぜと吐き捨てておきながら、だめさなんて二度と言わないで。
ああ、最初は生きる気満々だったのが、途中から面倒になったと。
あ、分かる気がします。
空虚っていうか、心の中空っぽになると、全てが面倒になるし、くだらんて思う。


Madman Blues-ミナシ児ノ憂鬱-
怖い曲だあ…。
これはもう、櫻井さんと今井さんの、デュエット(?)ですよね?
たしか、エイズやエボラ出血熱等、出所不明のウィルスの事を書いてるみたいな話を聞いた事がある様な気がします。
しかし、ここでもやっぱり今井節は炸裂しているわけで。
200%の負のパワー
100%では足りないんですよ。限界突破という意味ですよね。
この曲の「ミナシ児」って、さっきのウィルスの話からすると、確かに母体はあったでしょうが、何から派生した(もしくは変異した)かはわからないわけですよね。
だから、系統樹は一致しないし、あらゆる機能は不可抗力(やりたくてやってんじゃないんよね、勝手にやっちゃうんだよね)なわけですか?
この、「あらゆる機能は~」の最後に「ミナシ児タチガワラッテイル」と「Welcome to my territory」の怖さは異常ですよ。


die
曲は優しい。
途中ノイズが入ってはいますが。
しかし、単刀直入に「死」を書く。
しかも、それを素敵な事のように書くって。
確かに、憧れはありますよね。本当の意味で、理解できないわけですから。
死ぬまで。そして、死んでも。
ただ、この曲は、死の先に見えるものを、もう少し明るく描いているような気はします。
その死が、肉体的ではなく、例えば、自分の弱さだったり精神的な負の部分だったりするとすれば、今作中一番明るい曲になる訳ですけど。
でも、初めから「真実なんてものは 僕の中には何もなかった」なんて書いてますからね。
最後が、「サヨナラ 全てのものよ」ですし。
救いようがない。
ただ、「死」が本当に訪れる時は、この曲の様に優しくあってほしい…とは思いますが。


D・T・D(daker than darkness)
え~。私。この曲を、買って一年後に知りました。
わざわざ「style 93」って入れてる理由がよくわかった気がします。
この曲のノイズがちょっと苦手なんですが(耳がかゆくなる)、曲は一番好きです。
重厚なオープニングから、「愛の歌を」直後のテンポアップ。
鳥肌ものです。
この曲にはサビが無い…のかBメロが無いのかちょっと分かりませんが、不思議な作りをしてます。
でも、飽きる事無く聴けますね。
詞に関しても、儚いものを歌う醜く歪む自分のエゴとの葛藤が垣間見えるようです。
「黒く赤い」とか、「天使のように 愛に飢えた」とか。
対比を駆使した…って言ったら変ですが、生と死、光と闇のように、片方が存在しなければ意味を成さないものを、巧みに表現しているような気がします。
本当に、生で聴きたかった。
そういえば、この曲の歌詞に「僕は3才のまま」っていうところがあります。
これを隠しトラックにしたのは、まあ、斬新でかっこよかったからっていうのもあるんでしょうが、本当は、この曲が「核」だからなんだろうなと。
「三つ子の魂百まで」じゃないですけど。