江戸のあかりと灯用植物 | 徒然探訪録

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『国立科学博物館 筑波実験植物園』で開催されていた『江戸のあかりと灯用植物』という展示をみてきました。
 
 石油、ガスや電気が登場する前は動植物からとった油や蝋に火を灯し、『あかり』としていたわけですが、かつて『あかり』に使われていた植物は百種類を越えるといいます。

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 アブラナはその代表格です。9世紀には渡来していたと思われ、このころはまだ野菜として栽培されていたようですが、『延喜式』にアブラナのことだと思われる植物の名が記載されています。元禄10年にはもうすでにあかり用の油として使用されていたようで、宮崎安貞『農業全書』に『其葉かぶらな、水かに同じ。能くこやしてもその根大きにはならず。又其味もおとれり。されども田圃に蒔きて栄へ安く、虫も食はず、子多し。油を搾るには利多きゆへ、農民多く作る』とあります。アブラナは栽培が容易で、その油は灯油として向いていたため、江戸時代には、栽培、搾油、流通、小売が発達し、一大産業となりました。

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 ゴマやエゴマはもっと古く『大宝令』や『延喜式』の頃から、アブラナの油が大規模に生産されるまで、灯り用の油として使用されていました。品川区に荏原という地域がありますが、この地名は『エゴマの茂る原』に由来しているといいます。『焼き肉のたれ』で有名なエバラ食品の社名も、創業初期に生産を行っていたのがこの荏原であったため、その地名に由来してつけられたそうです。

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 土方氏一族によって祀られてきたとうかん森にはカヤの巨木がそびえ立っています。このカヤの実油も灯用として使用されていました。
 
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筑波実験植物園のカヤの林

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筑波実験植物園のカヤの木

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筑波実験植物園のイヌガヤ

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 カヤの実は食用となりますが、イヌガヤは食用にはなりません。イヌ=役に立たない=食用にならないということなのだそうです。

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▲有明行灯

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 行灯の灯りを初めてみましたが、火の大きさはご飯粒程度…こんなに暗く小さかったのかと驚きました。時代劇の花街の灯りの描写とは全然違います。

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 油をよく吸い上げるものを油に浸し、油面から出ている所に火を付けると、安定して火を灯すことが出来ます。灯心です。江戸時代にはイ草のズイがよく用いられていました。

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灯台。台座の上に一本の竿を立て、その上に受皿を置きここに油皿を載せて火を灯します。

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 ヒデ鉢。乾燥させた松の割木を石や鉄製の台に乗せて燃やし、あかりとして使用した灯火具です。油を多く含んだ松の幹や根が明るく燃えることは古くから知られており、コエマツ、アブラマツ、ヒデやシデなどと呼ばれ、明治の初め頃まで使用されてきました。

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 燭台。台座の上に一本の竿を立て、その上に蝋燭を立てて火を灯します。室町時代以降、蝋燭の国産化に伴って普及してきました。灯台よりも明るいとされています。

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▲短けい

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短けいは茶の湯の夜噺や暁などの茶事にも用いられる室内用の灯火具です。

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▲丸行灯

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下の油入れから少しずつ油を注ぎながら火を灯します。

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▲八間。天井から吊るして使う広間用の灯りです。

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現在の和室用照明器具に似た角型の紙の傘の下に油皿や多灯のカンテラを吊るして使います。

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 一番左の長細いのは小田原提灯。道中携帯用の小型提灯で、小田原で作られてことからこの名がつきました。その隣は釣灯篭。神社・仏閣、公家や武家などで、軒に吊るして使われていました。左から3番目は蔵提灯。土蔵に入る時などに使用され、金網が張ってあるので、防火性が高く、持ち歩いたり、掛けて使用するのに適した提灯です。

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 中央の文字の書いてあるのが雪洞手燭。炎が揺らぐのを防ぐために紙が張ってあります。その隣の丸い提灯は馬上提灯。柄が鯨の髭などで作られていて弾力があり、馬上でも使えるように工夫されています。一番右はがんどう。中に立てた蝋燭は火覆いをどの方向に向けても常に垂直に立つようになっています。

 行灯の灯りや昔ながらの火起こしを初めて見られたり、貴重な昔の灯用具を拝見出来、とても興味深い展示でした。このような身近な視点からの展示だとわかりやすくて楽しめます。次の展示も楽しみです。




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