君ヲ想ヒ國ヲ憂ウー靖国神社の桜ー | 徒然探訪録

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靖国神社の桜も見頃、参拝する人々で境内は賑わっている。


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『これは海軍の人たちのお墓なんですよ。御存じでした?』

境内の様子を撮影していると、見知らぬご婦人に声をかけられた。

『いえ…、知りませんでした。』
『「日の丸」が違うでしょう、お墓の。海軍はあの日の丸を使っていたんですよ。』
『そうなんですね。』
『神社の掲示はご覧になられました?』
『いえ…』
『今回のは海軍の人のでした、あの門のところで配布されていますよ。』
『ありがとうございます。あとでいただいて帰ります。』


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ふと、楽しげな声がする方を見ると、能舞台近くに咲いた桜の前で、大学生らしき男女が写真撮影をし、花見を楽しんでいる。


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『皆桜になってここに戻ってくるって…逝ったんですよ…。若いのに…立派ですよね…』
『……。ええ…。…綺麗ですね、桜…今年は開花が早かったですね。』
『開花もここが一番早かったそうですよ。』
『そうなんですか。…また、この時間帯の桜は綺麗ですね。』
『本当に。貴女とお話出来て良かった。ありがとうございます。』
『いえ…こちらこそありがとうございました。』


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ご婦人を見送り、来た道を振り返れば、境内は淡い花明りに包まれ、穏やかな夕暮れ時を迎えていた。


『決シテ涙ヲ流シテ下サイマスナ

海軍少佐 天野一史命
昭和二十年三月十九日
九州東南方海面にて戦死
奈良県吉野郡黒瀧村出身
二十五歳

御父母上様
私ハ此ノ様ナ拙文デモ、今度戦地ヘ出タラ再ビ御出会出来ヌモノト思ヒ、真心コメテ書ク事ノ出来ル資格ニナッタカト思ヘバ、本当ニ感謝ノ念デ胸ガ一杯デアリマス。
中学以来航空ニ志シ、父母ノ了解ヲ待タズ色々ナ心配ヲカケ、決戦ガ血戦ヲ生ンデ、昨夏全学徒ヨリ飛行予備学生ガ募集サレルヤ、小生ノ応募ヲ許シテイタダイタ時ノ喜ビ、先祖代々ヨリ伝ハル至誠尽忠ノ赤キ血ハ躍ルヲ覚ヘマシタ。
而シテ時ハ早クモ一年ハ流レ、艦爆隊士官トシテ近ク決戦ノ大空ヘ飛立ツ事ト相成リ、本ヨリ生還ハ期セズ。(中 略)
想フニ此ノ年マデ私ヲ教育シテ下サレ、父母ノ慈愛ノ下ニ過シタ生活ハ、私ハ本当ニ幸福デアリマシタ。
私ハ此ノ御恩返シハ、只々一身ヲ国ニ捧ゲテ立派ナ死ニ方ヲスレバ、御両親モサゾカシ喜ンデ下サル事デセウ。
一史戦死ノ報ガアリマシテモ、決シテ涙ヲ流シテ下サイマスナ。
一史ノ写真ニ只一言「良クヤッテ呉レタ」ト言ッテ下サレバ、私モ大手ヲ振ッテ靖國神社ヘ行ケマス。
我々青年士官ガ頑張ラナクテハ、他ニ誰ガ元ノ日本ニ戻ス事デセウ。
想ヒ出ハ尽キズ。又、想ヒ出セバ想ヒ出ス程胸ガ一杯デス。何卒、今マデノ不孝ヲ御許シ下サイ。
御両親様モ御体大切ニ、余生ヲ御送リ下サイ。
  昭和十九年八月二日 
      午後四時半 於 書院
御両親様ヘ
   出陣ニ際シ
                           海軍少尉 天野一史』