恋のかけら・3
「―…んで?」
どの辺が苦手なんだ?
勤務外時間に自店に来る従業員の数は、おそらくコンビニが一番じゃないだろうか。
俺はそんなどうでもいいことを思いごちつつ、目の前でおにぎりを頬張る青年に尋ねる。
彼は数分前、この職場で一人のある彼女との勤務が苦手だと言った。
恐らく勤務云々よりも彼女自身が、だろうがそこはまあ返答を待つとして。
彼、玉置祐也はペットボトルのお茶の蓋を器用に指で回転させて、視線を俺から逸らせたまま答えた。
「、…何つうんですかね」
「うん?」
「何か話しかけても、僕とは会話したくないって返されてる気分っていうか」
「…うん」
「返事が本当にただの返事っつうか…」
別に仕事中なんでそこまで話さなくてもいいんですけど、と彼が続けるのを遮るように俺は、うん言いたい事はわかるよと重ねて頷いた。
「だから僕のこと苦手だと思うんですよね」
「そうかな?」
「いや、そうですよ。じゃなかったら好きか」
「っははは、」
前向きな考え方を持ち合わせる目の前の若者が羨ましい。
と同時に腹立たしい。
だが当然口にも態度にも出さないまま、俺は置いてあるタバコへ手を伸ばした。
「…そういや今、彼女いんの?」
「いますよ、まあ二人ですけど」
「うおーい、俺いないよ持て余してねえの?」
「あはは、じゃあ次が来たら」
「お、頼んだよ玉置くん」
「店長合コンとかします?」
「、行きます行きます」
「ははは、じゃ声かけときます」
―…ああ、それでか。
俺は会話を流しながら、彼女がそんな態度になる理由がわかってしまった気がした。
玉置祐也はまあ典型的な遊び人で、本人曰く「今を生きる」がモットーらしい。
容姿は柔らかくやや童顔に見える顔立ち、昔雑誌のスカウトにもあったと言うのも頷けるくらいの長身だ。
今は大学に通いながらこの店へ、俺の異動とほぼ同時期に入ってきた。
―…やっぱり、好きなんだろうな。
今更、別に落胆することもない。
ただ、再確認させられただけだ。
この恋に未来がないってことを。
そんな一方通行の恋たちをどこか客観的に見据えながら俺は、とりあえず彼女が彼にしているであろう勘違いをどう解くべきかと考えつつぼんやりタバコに火を点けた。
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