ドクターChoの診察室 【オムニバスSF短編小説】 -10ページ目

ドクターChoの診察室 【オムニバスSF短編小説】

ドクターChoの診察室。それは誰にも言えない悩みを持つ「患者」が最後にたどり着く場所。そこで明らかになる事実は、誰の心の中にも、ほんの少し潜んでいるかもしれない真実・・・。シニカルでブラックでユーモア溢れて、ホロリ。貴方もどうぞ、診察室へお入り下さい。

こんばんは。ドクターChoです。

私の所には不定期に患者さんが訪れます。

どちらかというと女性患者が多いのですが・・・

私は何の専門医かというと、自分でも分らないのです。

正規の教育も受けていませんし、いわゆるもぐりの医者です。

結局、単なる相談役として患者さんの悩みを聞いてアドバイスを送っているだけかもしれません。

外科手術も出来ないし、薬の調合も出来ませんので・・・


そういえば、つい先日も変わった女性患者に遭遇しました。



「こ、こんにちは・・・」

「緊張してますか?リラックスして下さいね。
ところで何処が悪いんですか?」

「・・・・・あ、あの~~~」

「・・・・・・・・・・・・はい」

「わ、私、凄く変なんです・・・」

「・・・・と、言いますと?」

「・・・体がすぐに火照ってきて何かカッカカッカしてくるんです。
そして気付いたら自分でも信じられない事をしていて・・・
何でそうなるのか・・・何が何だか分らないんです・・・」

「余り自分を責めないで、リラックスして話を続けて下さい。」


「・・・ハイ・・・気付くと・・・うどん屋さんとかそば屋さんで、
見ず知らずのお客さんのうどんやそばに、頼まれてもいないのに、
急に七味唐辛子を一杯勝手に入れてるんです・・・それも・・・」

「どうしたんですか?何か特殊な状況でも?
・・・無理に話さなくていいですよ。
自然に話したくなったらまた来てくれればいいし・・・」
 

それから約15分位沈黙が続きました。

彼女は一度も顔を上げる事は無くうつむいたまま、

ずーっと言うべきか言わないでおくか考えている風でした。


「ドクターCho!これから話す事信じてくれますよね?ねっ!?ねっ!?」

「信じますよ!!」

「よ、ヨカッタ・・・じ、実は知らない内に私が着ている服が・・・こんな風に」

彼女は恥かしげに着ていた黒のコートを脱ぎました。


するとコートの下には全身真っ赤なボディスーツの様なコスチュームが・・・

そしてボディスーツの前には大きな文字が書かれてありました。

『七味唐辛子』!!

うどん屋等でよく目にする七味唐辛子の瓶に貼られてある

あのロゴ体そのままの文字が・・・


「その独特の服は一体?」

「知らない間に何を着ても気付けばこの服に変わっているのです・・・」

「それで、こんなに暑いのにコートを着ていたのですか・・・」

「・・・それだけじゃないんです・・・信じてもらえないと思うけど・・・」

「大丈夫。信じます。良ければ話を続けて下さい。」

「・・・うどん屋さんとかで、見ず知らずの人のうどんやそばに
七味唐辛子を入れたくなった途端、勝手に体が動いて、
気付けばその人のうどんの上で頭を振っているんです・・・
すると頭の上から赤い粉が・・・唐辛子が一杯出てきて・・・
知らない人のうどんをあっという間に真っ赤にしてしまって・・・」


そこまで言って彼女は泣き崩れてしまいました。

泣きじゃくりながら彼女は断片的に言葉を発していました。



「・・・皆に・・・何すんねん、ボケっ!・・・こいつおかしいちゃうか???

信じられへん・・・き、気色悪~~~あっち行け!!シッシッ!!・・・
罵倒されて、気持悪がられて・・・店にはそれ以上居れないし・・・

私一体どうなってるのか・・・どうしたらいいのか・・・」

「でも、凄いじゃない!頭から七味唐辛子が出てくるなんて!」

「え~~~?!」

意外そうにやっと顔を上げた彼女に向かって私は続けました。


「その七味唐辛子どんな味がするんだろうね~?

誰か一人だけでも食べた人はいなかったのですか?」

「・・・ひ、一人だけいました・・・」

「で、その人は何て言いました?」

「最初は怒って何すんねん!って言ってたんですけど、

シャーナイな~急いでるしこのまま食べるワ!
何口か食べてから、おっ、これうまいやん!

なかなか辛味の効いたうまい七味やん!と言って続けて食べてました・・・」

「それを聞いてあなたはどうしたんですか?」

「私、何だか涙が止まらなくなってしまい・・・

嬉しいような複雑な気持でその場を去ろうとしました。
するとその人が、ところで君なんていう名前なの?と聞いてきたのです。
急な問いかけだし・・・本名も言えないし・・・」

「何か自分の事を名前にして言ったのですか?」

「ハ、ハイ・・・とっさに思いついて・・・

私は発火女と申します・・・とだけ言ってその場をあとにしました・・・」

「発火女・・・」


彼女の話は終わりました。

私は煙草に火をつけ、深く一服してから話し始めました。



「発火女、いい名前じゃないですか。
それにあなたの頭から出てくるその赤い七味唐辛子の様な粉も、

いい味をしているんですよ。

皆状況に驚いて口にも入れないんだろうけど、

口にすると予想外のいい味がするんです。
私も食べてみたいです。

あなたは自分で知っているんだと思いますよ。
あなたの中にある抑え切れない情念を・・・

気持を抑え過ぎてはいけないと私は思います。

押さえつけられた気持が時々赤い粉となって

頭から出て来ると考えてみてはどうですか?
そしてあなた自身がとっさに命名した発火女を

自覚してみてはどうでしょうか?

内燃する気持が一杯になった時、

発火女であるあなたからは、赤い粉が出てくる。
そしてその粉はいい味がする・・・

即ちあなたの気持、想いのピュアさと素晴らしさを証明しているのです。

発火女である事を恥じてはいけません。
素直に事実を受け入れて上げて下さい。
そしてこれからは少しだけでも自分の気持や想いに
正直に生きてみてはどうでしょうか?
多分発火女も余り出てこなくなるかもしれませんよ。

もう二度と出てくるな!と発火女を否定するんじゃなくて、

いつ出てきてもいいよ!と優しい気持で発火女と付き合って下さい。
自然に。そして少しづつ、自分に正直にやりたい事をやっていって下さい。
まるで発火女の様にね(笑)」



彼女は私の話をうなずきながら熱心に聞きました。

そして何も言わず、少しだけ微笑んで帰って行きました。

その後彼女は私の診察室に現れていません。

---【第1話】 発火女 (終)---