先日「シン・仮面ライダー」を鑑賞してきました。
テレビドラマシリーズの「仮面ライダー」はV3までリアルタイムで見てきた世代です
そして、石ノ森章太郎先生の漫画も、デジタルコミックスで読破済み。
仮面ライダーの基礎知識はバッチリ。
という事で、今回も「映画の情報はほぼ皆無」状態で、ダンナ同伴でシネコンに行って参りました。
ゴジラやウルトラマンと比べるとイマイチ盛り上がりに欠けますが、「シン」シリーズの中で一番楽しめましたよ。
「打倒!ショッカー」に絞ったストーリー展開
限られた尺の中で表現しなければなりませんから、展開としては「ショッカーとライダーの闘い」に集約されるのは必然。
もう、最初から「打倒ショッカー」のスローガンのもとに進んでいきます。
いきなりショッカーから逃走するシーンから始まります。
しかし、猛のバイクの後ろに乗っているのは、緑川博士ではなく娘のルリ子。
崖からバイクごと転落したのちライダーに変身した猛が、蜘蛛男率いるショッカーを蹴散らし、助けるるという流れは同じですが、なんでルリ子さんがもう出てくるの?
のっけから「お前が知っている仮面ライダーではないのだよ。フハハハハ」攻撃を食らいました。
つまり、猛をショッカーの元から逃したのは博士ではなく、ルリ子。
ショッカーを倒すためのパートナーとして猛を選び、改造手術を施したのは緑川博士。
ショッカーと戦うための参謀役はルリ子さんが担っていて、猛は彼女の手駒というポジション。
そして、性格はドラマに出てきたルリ子さんとは真逆。
可憐な「巻き込まれ系ヒロイン」の影も形もありません。
庵野監督が大好きな、気が強くてなんでもズバズバ言う、アスカちゃんタイプ。
実はショッカーの科学技術によって人工的に作られた存在で、この方も改造人間のようです。
父親が殺されたというのに、全く気にした様子もなく、亡くなった父親を悪しざまに言う姿は、「父親のことを憎んでたのかな」と思うほど。
ショッカー生まれのショッカー育ちなので、素直に気持ちを表現するのが苦手なだけだったということが、物語後半くらいから分かってきました。
親や兄に対する愛情は、しっかり持ってます。
「兄」とは、この作品のオリジナルキャラ「緑川イチロー」です。
この方がラスボス。
イチローとカタカナ表記しているところが、まるで「キカイダー01」
そして、このイチローさんのコスチュームとかシチュエーションが、「鋼の錬金術師」のお父様みたいだなーと、オタクは私は思ってしまったのでした。
そうそう、この作品中に彼らの闘いを見守る存在として「K」というキャラが登場するのですが、これが東映特撮ヒーローの「ロボット刑事」にそっくり。
この作品も石ノ森先生が原作。
そして、ドラマでは「悪の秘密結社」だったショッカーが「幸せの秘密結社」というのも、庵野流の捻りですね。
不幸のどん底を味わった人間が求める「幸せ」を得るための手助けをするというのが、このショッカーのコンセプト。
ショッカーに籍を置く科学者や、オーグと呼ばれる幹部が求める「幸せ」は、突き詰めると「誰も幸せにはなれない」という結論がはじき出されるというのも、皮肉ですね。
行き過ぎた「幸せの押し売り」を阻止すべく、ルリ子さんと猛はショッカー壊滅に動くのです。
贅沢すぎるキャスティング
ドラマでは、何の後ろ盾もない本郷猛が立花のおやっさんなどの協力を得て、漫画では、親の莫大な遺産を全て投じて秘密基地を作ってショッカーに対抗。
私は、漫画の設定が好きです。
映画ではゴジラやウルトラマン同様に、政府や情報機関がバックアップにつきます。
特撮ヒーロー物で誰もが突っこむ「これだけの悪党を国は野放しにしてるのか、そんな事ないだろう」の答えですね。
政府や情報機関の配役が、竹野内豊や斉藤工だなんて贅沢すぎる。
本当にこの作品、こんな人がこの役でというキャスティングだらけなのも魅力です。
ラスボスであるイチローは森山未來さん、KのCVに松阪桃李さん、サソリオーグに長澤まさみさん、KKオーグに本郷奏多さん。
メチャクチャ声がカッコッ良かった、クモオーグのCVは大森南朋さん。
長澤さんのサソリオーグは、見ている最中は全く気が付かなかった。
カタカナ言葉を連発してキレッキレなのが、いかにも庵野作品のキャラらしいと思っていたら、シンウルトラマンでヒロイン演じたいた方だったとは。
庵野監督で、東映作品だからこそのキャスティングですね。
現代だからできるライダーの戦闘シーン
政府のバックアップのもと、次々とショッカーの幹部とそのアジトをつぶしていく猛とルリ子。
その幹部の中でも、ルリ子と仲が良かったというハチオーグの本名は、「ひろみ」。
はい、ルリ子さんの親友と同じ名前です。
これも、庵野流のお遊び。
そして、ラスボスであるイチローのもとに行くのですが、そこでイチローが用意していた刺客が、のちに仮面ライダー2号になる「バッタオーグ改良型」。
一文字隼人を演じるのは、江本佑さん。
猛は生真面目、隼人は飄々としたキャラクターを踏襲しているところは、往年ののファンには嬉しいところ。
完全にショッカーに洗脳されていないけれど、仮面ライダーを倒す目的て作られているので、猛に全力での勝負を求めてきます。
この、仮面ライダー同士の戦闘シーンがものすごい。
CG技術が進ん現代だからこそ、表現できる演出。
戦闘シーンといえば、ただ敵を倒しているんじゃない、とてつもない破壊力で相手の命を奪っているんだと分かる演出で、画面が赤くなることも。
これが、この映画にR指定がかかっている理由。
ライダーの闘いにリアルさを加えたことで、初期の頃に猛が抱える、自分の力に対する恐怖と苦悩がより鮮明に伝わります。
そして、ライダーの力の源は「風」であるという設定がよく分かる、疾走感あふれる演出。
とにかく、サイクロン号が速い速い。
そして、戦闘シーンの激しさと言ったら…
スーツアクターによるアクションにCGも加え、当時のドラマスタッフが表現したくてもできなかったことを、いま、庵野監督がリベンジしたという感じです。
10人ライダー(ひょっとしてもっといたかも)とダブルライダーの対決シーンの迫力は半端ないです。
「もう誰も失いたくない!」
ドラマの「仮面ライダー」では、本郷猛の家族のこととかあまり触れられていませんでしたね。
とにかく「天涯孤独」という事だけで、大学の学費はどうやって工面しているのかなど(レースの賞金で賄っていたんだろうか)、どんな家に住んでるのか今一つ謎なところがありました。
映画の猛は、父親が殉職した警官で、頭脳明晰・身体能力抜群だけどコミュ障で定職もつかず、バイクで日本全国を回っているという設定。
父親が殉職したのは、人質を取っていた凶悪犯を説得中に、殺されてしまったのだとか。
最期まで、同僚の銃で撃たれた犯人と人質の安否ばかりを心配し、妻や子の事を気にかけてはいなかったそうです。
猛はそんな父の優しさに憧れながらも、使う事が許されている「力」を行使しなかったことに納得がいかず、わだかまりを抱えていました。
そして、緑川博士とイチローも、目の前で通り魔に妻であり母親を殺されています。
「理不尽なことで家族を失う人をなくしたい」というのが、緑川親子がショッカーに所属した理由。
そうしてイチローが考え付いた「救済策」というのが、人類補完計画、もしくは「コードギアス」のラグナレクの接続のようなもの。
うーん。ハガレンの「約束の日」の方が近いか?
ルリ子さんが遺した計画を頼りに、猛と隼人は再びイチローと戦います。
イチローのエネルギー補給を断っても、2人がかりでやっと互角という力の差。
まさしく血へどを吐きながらの死闘。
満身創痍になりながらも、力を使い果たし動けなくなったイチローの頭に、ライダーの仮面をかぶせます。
そこに、ルリ子さんの意識があるから。
兄妹で戦うことになってしまった2人が対面し、お互いを思いやる会話を交わします。
結果としてこうなっちゃたけれど、根底にあるのはイチローが言ったセリフなんだよなー。
と、ショッカーに属する人間たちの想いは普通のことなんだとしみじみ思いました。
フツーのことなんだけど、それを実現させるためのやり方が、ぶっ飛び過ぎてる。(笑)
漫画版の「仮面ラダー」では、本郷猛は物語途中でショッカーによって絶命し、基地の科学者によって脳髄だけが生きている存在になります。
映画の猛もイチローと共に、泡となって消えてしまいます。
ヘルメットだけを残して。
猛とルリ子さんは、2号ライダーのヘルメットの中でその意識が生きていて、隼人と意思疎通ができるという設定。
隼人と猛が会話しながら、海岸沿いの道路を走るというラストシーンは、石ノ森先生が描いた漫画版のワンシーンそのもの。
最後をこのシーンで締めたという事は、石ノ森先生リスペクトの証明ですね。
そうそう、「立花のおやっさん」と「滝」が出てこないんだなあ、と思っていたんですが…
ちゃんと登場していましたよ。
そして、エンドロールのバックに流れるのは「レッツゴー ライダーキック」をはじめとするライダーソング。
何が嬉しかったかって、これが一番うれしかった。
思わず、劇場内で歌っちゃいました。
3曲ほど流れますが、ぜんぶ歌えました。
キャラの設定など、ドラマとも漫画とも違いますが、押さえるべきところきちんと押さえてありました。
むしろ、ドラマや漫画のいい所をぎゅっと凝縮した感じ。
とにかく「カッコいい仮面ライダー」でした。