嘘を言うな

「弱い」ということは武士にとってたいへん不名誉なこととされていた。
特に、「嘘」に対しては罪悪というよりも、「弱さ」の表れと見られており、社会的身分の高い武士にはより高い水準の誠実さが求められていた。
よって「誠」がある武士こそが名誉ある武士とされていた。

また、「武士に二言はない」という言葉があるが、その名の通り一度断言した武士の言葉は、真実であるということを十分に保障するものであった。
このことから、言葉に嘘がない以上、改めて証文をとる必要がないということで、武士同士の約束はたいてい証文などを交わすことはなかった。
むしろ、証文を書かされることは武士の体面に関わるとされ、不名誉なこととされていた。

このことから、武士という存在が信用に足る存在であるということが十分うかがえる。

さて、現代人である我々も嘘に対するアレルギーは非常に強い。
いつの時代からか、他人の言葉は話半分で聞いた方がいいだとか、疑って聞いた方がいいなど、信用・信頼という言葉が年々薄れていくように感じることがある。

そもそも、日本から武士が消え、自分の言葉に責任を持たない大人が増えたことにも原因があるのかもしれないが、私がもっとも心配していることは「情報の氾濫」である。

インターネットの普及により、あらゆる情報が容易に得られる時代となった。
マスメディアと呼ばれる一方的な多重情報配信によって、何が正しい情報で何が誤った情報か？という判断を鈍らせているようにも思える。

自分の素性を明かさずに、嘘を平気で発信することが可能となったこの仕組みにより、人々のモラルが知らず知らずのうちに低下していることに気付いていないように思える。

そもそも嘘をつくことが根本的な問題だが、現代で暮す我々は正しい情報（嘘）を見分ける能力も持たなければいけないのではないだろうか。

嘘を見分ける能力が備わったとき、それこそ嘘を言わない実直な人間がこれからますます求められるだろうと私は思う。