「少年のピストルギター」
ギターを初めて手に入れたのは中学2年生、14歳の冬だった...
そもそも俺がギターを初めて間近で見たのは
いとこのお姉ちゃんの部屋
遊びにいったのに、お姉ちゃんは居なかった...
帰って来るまで部屋で待ってな!っておばさんに言われ
ジュース飲みながら部屋で待ってた
そこにあんまり高そうじゃない、アコギが1本立て掛けてあった...
お姉ちゃんの宝物だ
俺はこの先、絶対このギターと呼ばれる楽器は弾けないだろうな...
指でポロローンと開放弦をはじきながらそう思った
急に、部活が無くなったので学校の帰りに
学級委員長のハラケンの家に遊びに行く事になった
ハッセと一緒に...
ハラケンの家には初めて入るな
その頃の俺たちの話題は、好きな女の子の話やタバコのはなし
ハラケンも吸っているらしい...優等生だと思ってたのに...
いきなりハッセが言った
「持ってるんだろ?」
「エレキ...」
「お、誰からきいた?」
ハラケンはベッドに近づきながらそう答えた
ザーって音をたて、何かをベッドの下から引きずり出した
茶色くて大きなケース
ん?ん?なんだなんだ?
ハラケンは俺とハッセが座るテーブルの上にそのでっかいケースをドンと置き
慣れた手つきで金色の沢山ついている留め具をパチン、パチンと外していった
息をのむ俺たち...
もったいぶりながらハラケンはフタを持ち上げた
そう、海賊が宝箱を開ける瞬間に放たれる、金色の光がその時の俺には見えた...
「ジャーン!」
まさしくジャーンっだった
お姉ちゃんの部屋で見たのとは全く違うギター
エレキ...
すごく高そうで、すごく光っていて、めちゃくちゃ格好良くて、大人の匂いがした
何かショックだった...
カルチャーショック?
自分がみじめなガキに思えた...
ハッセがハラケンに向かって言った
「何か弾けよ!」
ハラケンは人差し指一本でトレードマークのメガネを直しながら
「いま兄貴に習ってるんだ、そのうちな」
完全にやられた...
弾けなくても持ってるだけで凄いと思った...
日曜日の朝、俺は必ず聞いていたラジオ番組があった
アメリカって国のヒットチャート
毎週ガラッと変わるわけではないので
上位の曲はお馴染みだ
俺の住んでる町よりでかい町にある楽器屋さんがスポンサーだった
ローカル番組ではあるが途中に流れるCMの曲が好きだった...
今日は部活が休みだ
同じバスケ部のマンカンと遊ぶ約束をした
2人でコーラを飲みながら先週テレビで見た映画の話になった
「みた?」
「見たよ!」
「すっげー感動しなかった?」
「した!した!」
そこへハッセから電話
「マンカンも連れて一緒に来いよ」
ハッセの家は学校をはさんで向こうにあった
ちょっとためらったけど
俺たちにはチャリがある
当時チャリは走る以外にいらない部品をできるだけ外し
軽量化されていた
マンカンと俺はそれを「マシン」と呼んでいた
マンカンと俺は立ちこぎで一気に坂を上って
紫ヶ丘にあるハッセの家に到着した
ハッセの家は仲間の中でも新しかった
引っ越したばかりだった
階段を上がって左のドアが姉貴の部屋
右の部屋がハッセの部屋だ
同じバスケ部のハッセと俺とマンカンは当時凄く仲良かった
部活の帰りもいつも一緒に遊んでた
ハッセの部屋には小便が入ったコーラの瓶がいっぱいある
しかも1列に綺麗に並べてある
小便を飾るのが好きなわけではない
1階の便所にいちいち行くのがめんどくさい!ってのがハッセの考えだ
俺もマンカンも見慣れてるせいか汚いと感じなくなっていた
当時バスケは隣の光東中学が一番強かった
「光東の大木さん、次で引退だよな...」
「やっぱ東西高校いくのかなぁ」
バスケの話が終わるとハッセは立ち上がり
いきなり押し入れの中をガサガサし始めた...
振り返った右手には黒いエレキを持っていた
「えー!」
「マジー!」
ピッカピカの黒いエレキ
俺もマンカンも身体をくねらせた
ハッセはラジカセにギターをつなぎ
テープに合わせて立ったままロックを弾いた
座ってる俺とマンカンの目の前に立っていたのは
もはや偉大な男だった
1曲弾き終えてハッセはニカって恥ずかしそうに笑った
聞けば姉貴の影響で3ヶ月くらい前に手に入れて
密かに練習していたそうだ
ハラケンの家に行ったのも偵察だったらしい...
俺は度重なるエレキショックに、頭ん中がぽわーんとしていた...
ハッセはエレキやエフェクターの事を熱く聞かせてくれた
今まで言わなかったのは俺たちを驚かせるためだった
帰りの下り坂、マシンのペダルを踏むのを止め
マンカンと俺は「俺もエレキやってみたいな」と
同じ事を言った....
中坊の小さく熱い決心だった
エレキは楽器って言うより拳銃のようなイメージがした
勉強とかの反対の存在、酒やタバコや単車に近い存在...
親には絶対買ってもらえないと思った
テレビでエレキを持ってる奴をみて
母親が「わたし、これ嫌い!」
そう言ってたのを思い出した...
当時の最大の財源はお年玉だ
正月は3ヶ月以上先...
まずは情報集めだな..
俺の住む町には楽器屋さんがいくつかあった
でも一度も入った事が無かった...
ハッセだってハラケンだって入ったんだ
俺だって...
拳銃のような匂いのする楽器を売ってる店に出入りするには
母さんと一緒じゃダメだ猛反対されるに決まってる
そしてこの計画は他の奴には知られたくないとも思った
しかもマンカンの兄貴はベースを持ってるって言ってたので
俺にはプレッシャーがかかっていた
今度の部活が休みの日に行ってみよう
カタログだけでも見てみたい...
そしてその日がやってきた
一番安全そうな店にしよう
選んだのは町のど真ん中にある新しくできた店、神坂楽器
スタンドの付いていないマシンを黄色いガードレールにもたれかけ振り返る
自分でドキドキしているのがわかった...
たくさんのポスターが貼られた重たいガラスのドアを開けた瞬間
大音量の音楽が聞こえてきた
店の手前半分はレコードで埋め尽くされている
目指す楽器コーナーは奥だ
中央突破は危険か?
一番右の通路だ
なぜか早歩きだった
奥にガラスで覆われたリペアルーム
その前に店員を囲み笑いながら話している5~6人の奴ら
あ、光東中学の奴らだ!
しまった、こっち見てる...
足が止まり急いで右を振り返った
壁一面にいろんな形と色のエレキが飾られていた
格好いい...来て良かった...
しかし時間が無い!
光東中学の奴らに絡まれたくない
急いで左上から目を運んだ...
げ、10万?
あ、4万....
色々あるんだな
あ、これはハッセのギターと同じ形だ!
格好いいなぁ~
6万か、夢のようだなぁ~
うかつだった...
背後に人がいるのを気がつくのが遅れた
「エレキの方が好きなのかな?」
店員さんだ!
「いや、その、どんなのかなって、見てただけです!」
「レスポールが気に入ったのかな?」
「いえ、ほんとに、あの何も知らなくて、ただ格好いいなって...」
「こっちの白いギターはジェフベックモデルで人気あるんだよ!」
ジェフベック?マンカンが前に言ってた名前だけど聞いたこと無いや(汗)
「あ、はい、へ~ふ~ん」
やばい、光東中学の奴らに笑われてるかも(汗)
「あ、あのカタログってありますか?」
「あるよ、ちょっと待ってね」
ハッセのギター、レスポールって言うんだ
「はい。」
「あ、ありがとうございます!」
一瞬、光東中学の奴らを見て
早足で店をでた
マシンにまたがり
立ちこぎで走った
左手に拳銃のカタログ
店と家の真ん中くらいまで走った頃
サドルにケツを落とした...
6万かぁ、レスポール...
CONTINUE!!
一度入ってしまえば、楽器屋に入るのは好きになってた
他の店にもどんどん入った
高校生がいる店にも入れるようになった...が
あの、神坂楽器だけは苦手だった
なぜか光東中のたまり場の様な気がしたからだ
ほんとは、あのギターがもう一度見たかった...
楽器屋さん巡りのおかげでカタログもずいぶん集まった
グレコ、トーカイ、ヤマハ、フェルナンデス...
仕様のことはよく分からないので
ひたすら写真と値段を見まくった
名前と形が一致するようになるまで
そんなに時間はかからなかった
それにしてもカタログのギターの写真は
どれもこれも格好良く見えた...
最近の俺のお気に入りは
ハッセが姉貴のレコードを編集して録音してくれた
ビートルズ
それには俺の嫌いなジョンレノンの曲も入ってる
ポールの曲が好きだった
そのテープは枕元に置いてあって
ラジカセに入りっぱなしになっていた
今度の休みはハッセにギターを教えてもらおう
触らせてくれるかな?
土曜の午後は授業がない
それに今日は部活もない
マンカンが俺とハッセに、こう言った
「レコードパラダイス・ヨーコにイーグルスを見に行かないか?」
レコードパラダイス・ヨーコは黒狸市にある大きなレコード店だ
前にバスケ部のみんなで黒狸にあるスポーツ・ショップに行った帰りに寄ったことがあった
「おう!行こうぜ!」
「金足りるかなぁ?」
「何とかなるって」
電車に乗り3人は向かった
その行動自体が楽しかった...
ハッセと俺とマンカンは
誰もいない車両を探し
頭の上の荷物棚に仰向けになって寝ながら乗っていた
「ハンモック、ハンモック!」
「あぁ~すっげー服が汚れた!」
「ぎゃははは、ほんとだ!汚ねー」
「ハゲチャも連れてくれば良かったな」
「ハゲはイーグルス知ってんのか?」
「ま、今更だ」
「今度はみんなで来ようぜ!」
「俺、ケンタッキー行って見たい!」
「今日は金無いからダメだ!」
「そっか、イーグルス見に行くんだもんな」
「あ、この辺にセブンイレブンあるって聞いたことある」
「マジ?、じゃぁ7upも売ってんの?」
「たぶんな...」
「行ってみてー!」
黒狸までは約1時間
あっという間に着いた
地下鉄なんか乗らない
ジュースなんかも飲まない
ひたすら3人は歩いた...
「着いたぁ~」
「やったな!」
土曜の午後、お客さんはまばらだった
1階は邦楽のコーナー
目指すイーグルスは2階の洋楽コーナーだ
開放的な階段を上がっていく
ちょうど真ん中くらいの踊り場に
上から吊されているでっかいポスター...
ジョン
ポール
ジョージ
リンゴ
ビートルズだ
俺はそのポスターに見とれてしまった
格好いい...
2階の隅にテレビが一台
いつもはここで、ロックアーティストのビデオが流れてる
今日は2階はガラガラだからテレビは真っ黒
マンカンがレジのお兄さんに何か話してる...
マンカンがエプロン姿のお兄さんを連れて戻ってきた
「何が見たいんだい?」
「イーグルスのホテルカリフォルニア!」
「ちょっとまってなぁ」
お兄さんは沢山のビデオテープが入った棚から
1本抜き出した
それを銀色の大きな機械に入れて
ボタンを押した
ザーっていう音の後
始まった...
イーグルスのライブ
曲はホテルカリフォルニアだ
3人は立ったまま真剣に見ていた
これを見るのは今日で2回目
格好いい...
ホテルカリフォルニアが終わってハッセは店内の物色をはじめた
マンカンはまだビデオに釘付けだ
さっきのお兄さん優しそうだったな...
俺はレジのお兄さんの方へ歩き出した
「あの...階段のところに飾ってあるビートルズのポスター
かっこいいですね」
「ビートルズすきなんだ?」
「ハイ!」
「あれって飾り終わったらどうするんですか?」
「ん~まだ決めてないなー」
「あの、その、飾らなくなったらもらえませんか?」
「いつ外すかわからないぞ!」
「ハイ、それでもいいです!」
「わかったよ」
俺はルンルンでマンカンの所に戻った
それから店を出て金が無いからブラブラしながら
駅に向かった
「イーグルスってSGのダブルネックとテレキャスターなんだな」
「ダブルネックなんてすげーよな!」
「格好良かったなー」
俺はギターの名前が言えるようになっていたのが
嬉しかった...
「また行こうな!」
「おう!」
「今度ドゥービー見ようぜ」
マンカンが言った...
CONTINUE!!
俺たちの教室には足踏み式のオルガンがあった
1年の頃は笛とかオルガンとかは
俺の中ではかっこ悪いイメージ
カスタネット、ピアニカ、木琴、トライアングルもそんな仲間
ハラケンは小さい時にエレクトーンを習っていたらしい
だからハラケンがオルガンを弾いているのを何度か見たことがあった...
ハラケンがエレキを隠し持っていることを知ってからは
学級委員長の仮面をかぶった不良のイメージがした
タバコをくわえながらエレキを部屋で弾いているのを知ったら
女子の人気もがた落ち...
先生が知ったら内申点もがた落ち...
そんなハラケンは俺の中では
かなりのイメージアップ!
メガネの学級委員長は偽りの姿なのだ
その日、いつもは近づかないのに
オルガンを弾いているハラケンに近づいた...
するとハラケンが
「ちょっと、こっち側に来いよ...」
「あ、ああ」
「でも俺、なんにも弾けねえぞー」
「いいから、いいから」
するとハラケンは、人差し指1本で弾き始めた
そして言った
「今のを今度はお前が弾け!」
「え?」
「憶えてねーよ」
「ゆっくり弾くから、よく見てろよ!」
「うん..」
「やってみろ!」
俺は人差し指一本で同じ場所を押さえた
「ちがう、フレーズは音でおぼえろよ」
「あ、わかった」
「そう、そう」
ハラケンが高い方の音で一緒に弾いてくれたので
俺にも理解できた
「今度は、お前1人だぞ」
「おっけ」
同時にハラケンは和音を弾き始めた
「あぁ~これ、スモークオンザウォーターじゃん!」
俺が弾かされていたのはベースのフレーズだと、すぐに気づいた
ハラケンはニヤリと笑ってメガネを直した
「かっこいいー!ロックじゃん!」
「もう一回やってみようぜ!」
「おっけ」
それは誰が聞いてもディープパープルのスモークオンザウォーターだった...
斜めに傾いた椅子...
教室の後ろでバッシューのソールに詰まったゴミを
楽しそうにシャープペンシルの先で掃除してたハッセが
「なに、なに、なーにー」
と近づいてきた。
ハッセは嬉しそうだった
ハッセが言った
「よし、ペダルは俺が踏んでやる!」
ハッセはマシンを漕ぐ時のように思いっきり踏み続けた
音が異常にでっかくなって
ちょっと歪んだ音になった
さっきよか、ロックになった...
「いーじゃん、いーじゃん」
3人はニッコニコの笑顔になった
ボロボロのかっこ悪いと思ってたオルガンから
ロックがでてきた...
これが楽器なんだと、初めて気がついた...
なんか良かった
音楽の授業より
何倍も音楽に近づけた...
CONTINUE!!
11月に初雪が降った
マシンに乗れるの、今年もあとわずかだな...
そしてそれはお正月も近いってことだった
その頃、俺には神坂楽器に行く、攻略法を思いついていた
光東中学の奴らに絡まれにくい方法だ
考えてみると、何故そこまで光東中学の奴らが嫌だったのだろうか...
まず、5人くらいの人数
常連客にも見えた
店員さんと仲がいい
楽器やロックにも詳しそうだ
一番は自分が初心者だからだった...
しかし今はエレキ用語も少しは話せる
レスポール?
いいねぇ
グレコ?
いいんじゃない?
やっぱハンバッキングでしょ~
この程度だが...
よし、明日は神坂楽器攻略法を試してみるか!
その1
開店と同時に入る
5分早く着いちゃったな
青の閉ざされたシャッターに白い文字で神坂楽器と書かれてある...
ん?今日は日曜だから休み?
店の前で少し待ってると
ガチャって音がした
シャッターが50センチくらい上がった
あ、開くな...
ガラガラガラーって音とともにシャッターが全開になった
ヨシ、一番乗りだ
その2
レコードを買いに来たふりをして、楽器コーナーのスキを窺う
まずは一番入り口に近いレコードの棚を
まったく楽器には興味ない感じで見ていた
ん?ビリージョエルだ...いいなぁ
ビートルズもこんなにあるんだ~
あ、何のために来たのか忘れるところだった
楽器コーナーが見える位置に行かなくては...
思った通りだ、店員さんも近くにいない
真っ直ぐ向かった...
俺の目にはハッセと同じ、黒いレスポールしか見えてなかった...
これを見たかったんだ
ん~かっこいい!
でもちょっとハッセのと違う...
違った方がいい
俺にとってもハッセにとっても...そう思った
一応、他のギターも見たけど...
やっぱこれだ...
最初に見た時の一目惚れなんだろうな
じっくり見るとマイクの色がハッセと違う
このレスポールは上のマイクがクリーム色
下のマイクが黒...
ハッセのは両方とも銀色だった
他のレスポールも銀色だった
こまった...
店員さんにも、光東の奴らにも気がつかれないうちに帰りたいのに
知りたいことができてしまった...
それにメーカーもフェルナンデスと書いてある
ハッセのはグレコ...
それはいいんだけど
カタログではフェルナンデスのレスポールは全部、バーニーって書いてあった...
これはダメなエレキかもしれない
マイクも変だし
でもスキなんだけどなぁ
仕方ない、予定通り帰るか...
肩を落として歩きながらそう考えた
もし、ハッセやハラケンに相談したら...
俺もエレキを買う計画をしていることが
バレてしまう...
いずれわかるんだし、高い買い物なんだし
ちゃんと相談すべきか...
でも驚かせたいし...
確かハッセは4万5千円だったって言ってた
これは6万もするのにダメなわけないよな...
あ~頭ん中がぐっちゃぐっちゃだ!
よし、こうなったら店員さんに聞いてみるか!
作戦変更だ
店員さんみんな忙しそう...
段ボールを開けたり、伝票みたり
この前とは全然ちがう
それに、お金持ってないのに聞けないよな...
ふぅ~やっぱ帰るか...
楽器コーナーから離れ
レジのある出口の方にゆっくり向かった...
レジにはMaxonって書いた赤いエプロンのお姉さんがいた
ダメもとで
「あの~」
「はい?」
「あの~エレキについて教えて欲しいことがあるんですけど、いいですか?」
「まってね!」
「大野く~ん! お客さ~ん」
わっ、男の人呼ばれちゃったよ
どうしよ
お金もないのに...
お姉さんが言った
「今来たひとが担当の人だよ」
「あ、はい、ありがとうございます」
「何かお探しですか?」
「あの、エレキのことでちょっと聞きたいことが...」
「なんでしょ?」
「あそこの黒いギターなんですけど...」
「あぁ、レスポールね!」
「何を聞きたいのかな?」
「マイクが他のレスポールと違いますよね?」
「そうだね、ディマジオのスーパーディストーションだからねぇ」
「え?」
「オープンタイプのピックアップで出力が高いんだよ」
「いいピックアップだよ」
「あーそーなんですか...」
心が楽になった
「フェルナンデスのレスポールってバーニー以外にもあるんですか?」
「たまにあるよ!」
「じゃ~悪いギターじゃないんですね?」
「これはオススメだよ!」
「へ~」
「中学生?」
「はい、2年です」
「光東?」
「いえ、陵南です」
「あ、そっか~じゃぁ、光東のウルフや古林とかは知らないっか」
「あ、はい」
「光東の生徒はよく来るんですか?」
「時々、学校帰りにくるよ」
「この前も、その中の1人がジェフベックモデル買ってくれたしね」
あ、ほんとだ無くなってる...
「あの、これも売れちゃいそうですか?」
「かもね~値段の割にはしっかりしてるし、ディマジオ付いてるしねぇー」
ドキドキ...
「あ、そうなんですか」
「6万円なんですよねぇ...」
店員さんはポケットから電卓を出して
「4万8千円にしてあげられるよ」
「え?、ほんとですか?」
「うん、2割引にしてあげるよ」
「だから、今度はお父さんかお母さんと、おいでよ!」
それは無理...
「あ、はい」
「あ、どうもありがとうございました!」
もう、心の中ではあのギターが、かなり大きな存在になっていた
そして、お正月まで待っていると売れてしまうかも...
次回完結! CONTINUE!!
少年のピストルギター最終章
「母さん、なんか手伝う事ある?」
「なんだい急に」
「いや、別に...」
「なんか企みあるんだろ!」
「ないって!」
「相談はあるけど...」
言い出せなかった...お年玉の前借りなんて...
その頃は神坂楽器に行ってあのレスポールを見るのが習慣になっていた
ところがその日とんでもない光景を見てしまった...
神坂楽器の店内で俺のレスポールの前に背が高い学ランの男が1人
「岩崎...」
同じクラスの岩崎だ
岩崎はいつも万田と2人で連んだりじゃれ合ったりしてる長身の男
成績は万田と最下位を争う様な奴で部活にも所属していない
音楽に興味があるって話も聞いた事がない
「なぜ?」
俺は岩崎が気づく前に店を出た...
いつもの休み時間
俺がハッセと音楽やエレキの話をしていると
急に岩崎が机の間を走り抜けて近づいてきた
「へっへ~俺、エレキ買うんだ~」
「もう決めてるんだぜ!」
「フォ~!」
俺とハッセにそう言い残して廊下に向かって走り去って行った...
「バカか?あいつは」
ハッセが笑いながら言った
俺は笑えなかった
あいつは俺のレスポールを買おうとしている
先日の光景が脳裏に浮かんだ
そう確信してしまった...
ヤバイ...
大事件だ
俺はずっと前から狙ってたんだ
昨日今日気に入った奴にあのレスポールは渡せない!
「母さん、頼みがあるんだ...」
「何さ」
「俺...その...行和兄ちゃんやノッコちゃんみたいにギター始めたいんだ!」
言っちまった
「あはは、弾けるのかい?あんたに」
「いや、だから早く手に入れて練習したいんだ!」
「ふ~ん」
親父より母さんの方が理解してもらえると思った...
「この前からなんか態度が変だと思ってたよ!」
「で、いくらくらするのさ、ギターって」
「欲しいのがあるんだ...」
「4万...八千円」
「ずいぶん高いね!」
「うん...」
「まぁ~血だね、行和やノッコもそうだったらしいからね」
「フォークじゃないんだ...」
「ん?」
「エレキが欲しいんだ...」
「...」
「...」
「...」
「母さんの若い頃も流行ったんだよ」
「え?」
「母さんはエルヴィスプレスリーが好きだったんだ」
「誰?」
「グループサウンズも好きだったな~」
母さんは濡れた手をエプロンで拭きながらそう言った
「お年玉、お年玉で返すからお金貸して欲しいんだ!」
「あら、お正月もうすぐだし、それまで我慢もできないの?」
「いや、その、ずっと前から欲しいのがあって、それがすぐに買わないと売れちゃいそうなんだ!」
「いやその色々あって説明すると長くなるんだけど聞く?」
「お父さんが良いって言ったらね!」
親父かぁ...
ヤバイなぁ~
絶望的だな...
親父とは最近ちゃんと話してないしな...
仕方ないな...
「お父さん帰ってきたよー!」
「話あるんでしょ~?」
おいおい俺に言えってか...
「話ってなんだ」
「うん、実はギターが欲しくてさ...」
「母さんにお金貸してって頼んだんだ」
「...」
「やっぱダメかな?」
「...」
「お前は古賀政男は好きか?」
「ん?」
「古賀メロディー聞いたことないか?」
「うん、いや無い...」
「あれはいいぞ!」
「あれくらい弾けるようになれよ!」
「え、マジ?いいの?」
や、や、や、やったー!!!
親父には欲しいのはギターはギターでも
黒光りしたレスポールだとは絶対言えなかった...
俺のピストルのようなギターだとは
この時のピストルギターはその後、色々な改造を施され二十歳まで使っていたが
色まで変えられて、挙げ句の果てに売ってしまった...
そして長い年月を経て、最近それを買い戻した...
酷い改造をされ音も出なくなっていた少年のピストルギター
今、俺はそのピストルギターをもう一度、楽器として生き返らせる計画を進行中である
ピストルのような尖ったロックを演奏するために...
END