NASAの土星探査機カッシーニから送られてきた近赤外波長のカラーモザイク写真。土星の衛星タイタンの北極海に太陽光が反射する。(IMAGE BY NASA/JPL-CALTECH/UNIVERSITY OF ARIZONA/UNIVERSITY OF IDAHO)

 

 

 モーガン・ケーブル氏は、実験室にミニチュアサイズの地球外の環境を作っている。

 

そのなかで、ショットグラス大の湖をかき混ぜたり、穏やかな雨を降らせたりして、土星の衛星タイタンの地表を再現するためだ。

 

はるか遠いタイタンの気温はおよそマイナス180℃。水の氷でできた地表には液体のメタンやエタンの川が流れ、谷を作りだしている。(参考記事:「タイタンの赤道付近にメタンの湖」

 

 

「ある意味、私たちはこの実験室でタイタンに触れることができます。

 

たとえ何億キロと離れていてもね」とNASAジェット推進研究所(JPL)宇宙生物学・地球外海洋グループの科学者であるケーブル氏は話す。

 

 氏らは以前から様々な地球外環境を実験室で再現してきたが、最近取り組んでいるミニ・タイタンが波紋を呼んでいる。

 

というのも、タイタンに豊富に存在すると考えられる炭化水素のアセチレンとブタンを新しい方法で混ぜたところ、これまで知られていなかった「有機鉱物」を作りだすことに成功したからだ。

 

成果は12月3日付けで学術誌「ACS Earth and Space Chemistry」に発表された。

 

 ただし鉱物は、一般的に「地質学的な作用により形成される、天然に産出する固体」と定義されているため、正確にはまだ鉱物とは呼べない。実際に自然に形成されるかどうかは、今のところ未確認だ。

 

 専門的に言うと、今回の発見は「共結晶」と呼ばれるものに当たる。

 

この奇妙な物質は、おそらく地球上で自然に形成されることはない。

 

だが論文によれば、炭化水素に満ちたタイタンの地表には豊富に存在しているかもしれない。

 

そうだとすればこの新発見は、タイタンという衛星の進化や環境を研究する新しい方法を提示したことになる。

 

また、地球には存在しえない生物を育む可能性を探ることもできる。(参考記事:「土星の衛星タイタンに「ビニル製」生命の可能性」

 

「何か面白いことが起きますように、と祈っていました」とケーブル氏は実験を振り返る

 

お風呂の水垢のような謎の物質

 ケーブル氏と共同研究者たちは数年前、タイタンの地表に存在する炭化水素の湖について、興味深い報告を読んでいた。

 

NASAの土星探査機「カッシーニ」から送られてきたデータによれば、湖が干上がったあとに、まるで風呂の湯を抜いたあとの水垢のような、謎の物質が残るらしかった。

 

これは一体、何でできているのだろう、とチームは疑問に思った。(参考記事:「衛星タイタンの湖は地下の爆発でできた 最新研究」

 

 研究者たちはまず、メタンとエタンの湖に最も溶けにくい物質だろうと考えた。

 

そこで、水と油のように混ざりにくい、エタンとベンゼンの関係に目をつけて実験を開始した。液体のエタンが蒸発したのなら、まずはベンゼンが残るはずだと推測した。

 

 実験してみると、この2つはやはり結晶を形成した。

 

さらにデータを得るべく、結晶に光を当てて分子間の相互作用や化学結合を調べる「ラマン分光法」という手法を用いた。

 

「チームの一人がデータを見て、ほう、これは変だな、と言いました」とケーブル氏は当時を思い出す。

 

ベンゼンがエタンを取り囲むような、見慣れない結晶ができていた。

 

この結果に励まされたチームは、タイタンに存在する他の物質の組み合わせも試してみることにした。

 

 今回の論文のために行ったのが、アセチレンとブタンを使った実験だ。

 

いずれも常温・常圧では気体なので、混合気体を小さな冷凍庫のような空間に送り込み、冷えた顕微鏡のスライドガラスに触れるようにした。

 

そこで気体は凝縮し、新発見の共結晶が作りだされた。

 

タイタンに豊富に存在すると考えられるアセチレンとブタンが、どのように混合し結晶化するかを調べることで、未知の「鉱物」がタイタンに存在する可能性が出てきた。3分の間隔で撮影された2枚の顕微鏡写真は、新発見の結晶が時間とともに変化する様子を捉えている。(IMAGE BY MORGAN L. CABLE AND TUAN H. VU)

 

 チームはまた、この妙な物質が、タイタンの地表と同じ条件でどの程度安定しているのかに関心を持った。

 

実験の結果、かなり安定していることがわかった。タイタンで雨が降った状況を想定し、液体エタンを共結晶にかけてみたところ、そのままの姿を強固にとどめた。

 

不気味なほど地球に似ているタイタン

 今回の発見は、科学者たちが遠い世界のことをより複雑に考えるようになってきている傾向を反映していると話すのは、米ワシントン大学のバティスト・ジュルノー氏だ。

 

なお氏は今回の研究に関わっていない。

 

「化学的、鉱物的な多様性を考慮に入れなければ、地球は理解できません」と氏は語る。

 

「そうでなければ、なぜ山や火山ができるのか、なぜ異なる種類の地殻があるのか、なぜマントル対流が起こるのか、わからないのです」

 

 これは他の惑星や衛星でも同じだ。特にタイタンは、その環境の複雑さゆえ、地球に住む我々には不気味なほどに親しみが感じられてしまう星だ。

 

赤道付近には砂丘がうねり、地平には凍った「石ころ」が散らばっている。

 

湖や海が地表を覆い、湖の端が泡立つこともある。しかし、タイタンの化学組成は地球とはまるで違っている。

 

タイタンでは、有毒な有機物が循環しているのだ。(参考記事:「タイタンにたたずむ探査機ホイヘンス」

 

参考ギャラリー:まるで地球、衛星タイタンの驚くべき写真8点

高度10kmから見たタイタンの表面。ホイヘンスからの画像をつなぎ合わせて作成した画像。(PHOTOGRAPH BY ESA, NASA, JPL, UNIVERSITY OF ARIZONA)

 

 もし、この「有機鉱物」が本当にタイタンに存在するのなら、タイタン特有の物理的特徴がどのように形成され進化してきたのかを知る手がかりを得たことになる。

 

さらには、アセチレンをエネルギー源にする微生物が地球にいるように、もしかするとタイタンにも、今回提案された鉱物を食料とする地球外微生物がいるかもしれない。

 

 とはいえ、そもそもタイタンに生命が存在するかもしれないという話はすべて憶測に過ぎない。

 

NASA宇宙生物学研究所にも籍を置くジュルノー氏は、生物が生息可能な環境だからと言って、実際に生息しているとは限らない、と注意を促す。

 

「すごく興奮していますよ。すごい研究だと思います」と話すのは、スウェーデン、チャルマース工科大学で理論化学の助教授を務めるマーティン・ラーム氏だ。

 

「こうした研究をしている人は少ないですし、これから多くの共結晶が新たに発見されるのだろうと思います」

 

 NASAはタイタンを探査するミッションとして、「ドラゴンフライ」計画を進めている。

 

2034年には、8枚の回転翼をもつドローンがタイタンに着陸する予定だ。研究者たちは、そう遠くないうちに新たなデータを得られるはずだ。

 

 研究チームはそれまでの間、タイタンに存在する有機物を今度は3種類混ぜるなどして、より複雑な組み合わせを試す予定だ。

 

さらに、これらの奇妙な共結晶の特性も調べたいと考えている。もしかしたら、自然に形成されると予測できる共結晶が、いずれ見つかるかもしれない。

 

「まだ時間はかかります」とケーブル氏は話す。

「今は、実験室でいろいろなものを混ぜてみてどうなるのかを調べるのが、楽しくてしかたがないという段階です」(参考記事:「土星に20個の新衛星を発見、太陽系で最多に」

 

出典=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/121000716/?P=1

 

 

 

有機鉱物???????

アセチレンとブタンの結晶?????

アセチレンは酸素溶接機に使ってるやつ

ブタンはガスライターの中身

それが鉱物?????

驚きを通り越して不思議~