雨が降っていた可能性も、大河の証拠を複数箇所で確認

 

 

NASAの火星探査車「マーズ2020」の着陸予定地、直径約45kmのジェゼロ・クレーターは、かつて湖だったと考えられている。これはNASAの火星探査機マーズ・リコネッサンス・オービターに搭載された2つの機器による観測データを合成した画像。ここに見える太古の三角州の跡からは、かつて微生物が存在した証拠が見つかることが期待されている。(PHOTOGRAPH BY NASA/ JPL/ JHUAPL/ MSSS/ BROWN UNIVERSITY)

 

 火星の表面には、失われた水の記憶が残っている。

 

今でも火星には、季節によって染み出してくる塩水や、かろうじて地下に残った湖や、氷の層などの形で水が存在するが、その量はわずかしかない。(参考記事:「【解説】火星の地下に湖を発見、太古の海の痕跡?」

 

 だが火星の岩がちな赤い表面には、深い谷があり、その近くには干上がった湖底や、扇状地や、滑らかな小石が見られる。

 

これらは過去に大量の水が流れていた証拠だ。(参考:「火星に巨大津波の痕跡見つかる、異論も」

 

 科学者たちは長年、火星の気候が暖かく湿っていた時期は比較的短かったと考えてきた。

 

しかし、3月27日付けで学術誌「Science Advances」に発表された研究によると、火星に大きな川があった期間が、これまで考えられていたよりずっと長かった可能性があるという。

 

 新たな分析の結果、太古の火星の川幅は、現在の地球で見られる川幅よりも広かったことがわかった。

 

そのうえ、34億年前から20億年前には火星のあちこちに大河があり、大量の水が流れていたという。

 

従来、この時期の火星は湿潤だった時代の末期で、すでに乾燥化が始まっていたと考えられてきた。

 

「火星は暖かく湿った気候から冷たく乾燥した気候へと変化した、というのが従来の考え方でした。

 

ですが今回見つかった証拠は、火星の気候の変遷がもっと複雑だった可能性を示しています」。

 

NASA火星気候モデリングセンターのキャスリン・スティークリー氏はそう語る。なお、同氏は今回の研究に参加していない。

 

 

 火星の水の話になると、どうしても期待が高まる。

 

水があった場所には、私たちがよく知るような生命がいた可能性があるからだ。

 

しかし、火星人の化石にどんな名前を付けようかと夢を膨らませるのはまだ早い。

 

この時期の火星に何が起きていたのか。大きな川があったのはなぜなのか。

まだ多くの疑問が残されている。(参考記事:「【解説】火星に複雑な有機物を発見、生命の材料か」

 

「初期の火星を暖かく湿った気候にしていた要因は何だったのかというのは、ただでさえ難しい問題でしたが、今回の発見はそれをいっそう難しくしてしまいました」。

 

論文の著者で、米シカゴ大学の惑星科学者エドウィン・カイト氏はそう話す。

 

火星にはかつて、多くの衝突クレーターが氷に覆われていた時代があり、周期的な気温の上昇と下降に伴ってしわやひび割れが形成された。(PHOTOGRAPH BY NASA/ JPL-CALTECH/ UNIV. OF ARIZONA

 

大きな川が流れるためには

 

 現在の火星の大気は薄すぎて、太陽からの熱を十分に蓄えられないが、昔は火星にも湿った気候を保てるだけの濃い大気があったと考えられている。

 

とはいえ、熱帯のリゾートとは程遠い場所だった。当時の太陽の光は今日より25~30%も弱かったからだ。

 

「火星の表面を液体の水が流れるかどうか、ギリギリの環境でした」と米アリゾナ州にある惑星科学研究所のアラン・ハワード氏は言う。

なお、彼は今回の研究に参加していない。

 

 それでも水が流れることを可能にした要因は、いくつか考えられる。

 

私たちの地球では、内部の「外核」で液体の鉄が流動しているため、地磁気が発生する。

 

その地磁気が大気を守り、太陽風に剥ぎ取られるのを防いでいる。

 

これと同じ現象が、初期の火星でも起きていた可能性が高い。

 

そして、当時の火星の大気組成も、現在とは違っていた可能性がある。

 

例えば一部の専門家は、火山の噴火により大気中に大量の温室効果ガスが放出されていたのではないかと提案している。(参考記事:「火星の謎のクレーターは巨大な噴火跡」

 

 だがそれでも、火星の温暖で湿潤な時代は終わってしまった。

 

火星の大気は失われ、それと一緒に湖や川の多くも失われた。

 

カイト氏らは当初、この時期以降、川はかろうじて低地に残るだけになり、激しく流れていた水の勢いも弱まったと考えていた。

 

「それが仮説でした」とカイト氏は言う。「ですが私たちは間違っていたのです」

 

新しい火星探査車に期待

 研究者たちは、火星探査機に搭載された高解像度カメラ(HiRISE)などがもたらす鮮明な写真を使い、200カ所以上の太古の河床を分析した。

 

その結果、河床の大きさ、蛇行の大きさ、周辺の地形の相対的な年代から、これまで考えられていたよりも遅い時期まで大きな川が流れていたと思われる証拠を発見した。

 

 そんな時期まで水が大量に流れていた理由はまだはっきりしない。

 

カイト氏らは、気圧が低い場所では水の氷からなる雲ができやすいのではないかと考え、調査を行っている。

 

そのような雲は現在の火星にもまだ存在するが、雲がもっと厚かったら、雪や氷を解かすだけの熱を蓄えられたかもしれない。

 

あるいは、川が形成されたそもそもの年代の推定が間違っていたのかもしれない。

 

つまりもっと前の、厚い大気に蓄えられた熱が火星の雪を解かしていた時代にできていた川だった可能性もある。(参考記事:「火星では夜に激しい雪が降る、研究成果」

 

 カイト氏自身、河床の深さや堆積物の大きさがまだよくわからない現段階で、そこを流れていた水の量を正確に推定するのは難しいと認めている。

 

ハワード氏も、河床の幅からすべてがわかるわけではないと言い、今回の研究では見積もりがやや大きすぎる可能性があると指摘する。

 

川の流れはいつも河床の幅いっぱいに広がっているわけではない。

 

 それでもハワード氏は、現時点の情報に基づけば、「研究チームが主張する基本的な前提と、かなりの流れがあったという結論は、現実的だと思います」と言う。

 

 

火星の水が作り出した美しい風景

サッカー場ほどの長さの黒い筋は、当初、科学者たちを当惑させた。詳細な分析の結果、火星の表面に黒い筋を描いているのは、季節によって流れる塩水かもしれないとわかった。(PHOTOGRAPH BY NASA/ JPL-CALTECH/ UNIVERSITY OF ARIZONA)

 

カイト氏は、近いうちにさらなる手がかりがもたらされることを期待している。

 

NASAの火星探査車「マーズ2020」の着陸地点に決まったジェゼロ・クレーターには、遅い時期に川の流れがつくった三角州があるからだ。

 

火星探査車が堆積物の写真を撮影すれば、クレーター内に流れ込んだ水の量の推定に役立つだろう。

 

この問題をすっきり解決する唯一の方法は、時間を遡って数十億年前の火星に探査機を送り込み、その表面を調べることだが、もちろんこれは非現実的な話だ。(参考記事:「第4回 ここがすごい!「マーズ2020」火星探査計画」

 

「それが実現すればあらゆる論争が終結しますが」とハワード氏は笑って言った。「手持ちの限られた証拠をつなぎ合わせて真実を明らかにする醍醐味も失われるでしょう。

 

そうなったら、科学はあまり面白いものではなくなります」(参考記事:「さよならオポチュニティ 記憶に残る火星探査機」

【この記事の写真をもっと見る】ギャラリー:水がつくった火星の美しい風景 写真あと5点

 

 

素晴らしい!!!

火星に川があったなんて

ひょっとすると地下水脈があったりして?!

さらに解明されるでしょう

 

出典=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/032900192/