土星と環との「共鳴」から自転の周期を計算、最新研究
土星の環の一部に本体の影が落ちている。NASAの探査機カッシーニが2016年10月に最後に撮影した数点の画像を合成したもの。(PHOTOGRAPH BY NASA/JPL-CALTECH/SPACE SCIENCE INSTITUTE)
土星を取り巻く繊細な環。美しいのはもちろんだが、魅力はそれだけではない。
信じられないような科学的な事実も打ち明けてくれるのだ。
このほど天体物理学の学術誌「The Astrophysical Journal」に、環に生じる波を利用して、土星の1日の長さを解明した論文が発表された。
論文によると、土星の1日は10時間33分38秒であるという。
科学者たちはこれまで、土星の1日の長さがわからないことを何十年も歯がゆく思っていた。
これは重要な発見だ。「太陽系のどの惑星についても、1日の長さは根本となる特性ですから」と、NASAの土星探査機カッシーニのミッションに参加していた米アイオワ大学の物理学者ビル・カース氏は言う。
惑星の1日の長さを知ることは、その重力場や内部構造を解釈するのに役立つ。(参考記事:「金星の自転速度が低下?」)
「自転の測定が困難な惑星は土星だけです」と言うのは、SETI研究所の上級研究員マシュー・ティスカレーノ氏だ。
地球のような岩石惑星なら、表面の特徴を追跡すれば自転速度がわかる。
また、木星、天王星、海王星はガス惑星だが、自転軸に対して傾いた磁場を持ち、自転とともにそれがふらつくため、それを利用して自転速度を計算できる。(参考記事:「天王星、傾いた自転軸の謎が明らかに」)
対して、土星は非協力的だ。まず、土星はガス惑星なので、追跡できるような表面の特徴はない。
また、複数の観測により、土星の磁軸は回転軸とほぼ完全に一致していて、自転による磁場の変化が検出不可能なほど小さいことが確認されている。
土星入門
土星を取り巻く環はどのようにして形成されたのだろうか? 土星の衛星は何個あるのだろうか? かつてクリスチャン・ホイヘンスやジョヴァンニ・カッシーニも観察した巨大なガス惑星のすばらしい画像の数々を紹介する
太陽系のドラムセット
この難問を解く方法はなかなか見つからなかったが、米カリフォルニア大学サンタクルーズ校で天文学と天体物理学を学ぶ大学院生のクリストファー・マンコビッチ氏らの研究チームが名案を思いついた。
氷と塵からできた土星の環は、静かな場所ではない。
土星のまわりを回る衛星が近くを通り過ぎるときには、その引力により大小の波が立つ。
環の波は、土星の深部にある物質が振動するときも生じる。
質量の移動により、土星の重力場に変化が生じれば、環に及ぼす引力も変化するからだ。(参考記事:「土星の環、不安定で激変の状態と判明」)
これは、ドラムセットのスネアドラムが、ほかの楽器に共鳴して音を立てる現象に少し似ている。
「その振動を音として聞くことはできませんが、土星は楽器によく似ているのです」とマンコビッチ氏。
「楽器のように、土星の『音』は、大きさ、形、組成、温度など全体の構成によって決まります」
土星の環を波立たせるのは、さほど難しくない。
土星の周囲や内部で、中ぐらいの衛星ほどの質量が移動すると、環の一部をぐらつかせる。
この振動に環が共鳴する場合、小さなぐらつきがはっきりした「らせん波」になる。
らせん波の性質は、それがどこを伝わっていて、どのような原因で生じたかによって異なる。
マンコビッチ氏のチームはこのことを念頭に置き、土星の環にできる波を使って土星の内部構造を推定する数値モデルを作成した。
このモデルは土星の内部の仕組みの一部を解き明かしただけでなく、1日の長さもはじき出した。
ティスカレーノ氏は今回の研究を「慎重で、信頼できるもの」だと評価する。
土星の環の微妙な自然の色合い。2009年8月にカッシーニが撮影。(PHOTOGRAPH BY NASA/JPL-CALTECH/SPACE SCIENCE INSTITUTE )
土星の環の上方に見えるのは衛星タイタン。タイタンは土星の衛星の中で最も大きい。2016年にカッシーニが撮影。(PHOTOGRAPH BY NASA/JPL-CALTECH/SPACE SCIENCE INSTITUTE
偉大な土星探査機カッシーニの功績
土星の1日の長さを特定するのに、ここまで時間がかかったのはなぜだろう?
ティスカレーノ氏によると、土星の内部の質量とその不規則な振る舞いが環を波立たせる可能性が最初に証明されたのは1990年代初頭だったという。
そして、米アイダホ大学のマシュー・ヘドマン氏のチームの最近の研究により、土星の環にできる波を使って土星の内部で起きていることを明らかにする「土星地震学(kronoseismology)」ができあがった。
なお、この概念が最初に提案されたのは1982年のことだ。
NASAのゴダード宇宙飛行センターの惑星科学者ジェームズ・オドナヒュー氏は、謎解きが可能になったのは、2017年に土星に突入して役割を終えた偉大な土星探査機カッシーニのおかげだと言う。(参考記事:「さよならカッシーニ、写真で振り返る輝かしき偉業 19点」)
土星を訪れた探査機は多いが、カッシーニは13年にわたり土星のまわりを周回し、先例のない高い解像度で環の観測を行った。
その結果、地上の望遠鏡では見ることのできない詳細を見ることができたとオドナヒュー氏は言う。(参考記事:「土星の環から「雨」が降っていた、予想外の事実も」)
巨大なガス惑星の内部にある「何か」が環を波立たせていることはわかったが、その正体は不明である。
マンコビッチ氏は、出版前の論文を投稿するサイト「arXiv.org」に発表された1本の新しい論文を引用して、はるかな昔に土星に天体が衝突したせいで、今も内部はカオス状態になっており、定期的に振動しているのかもしれないと言う。
「とはいえ現時点では、土星の内部を振動させているものの正体はまったくの謎です」
カッシーニが土星の軌道に入る9日前に撮影された、美しい環の写真。(PHOTOGRAPH BY NASA, JPL, CASSINI)
土星の中身どうなってるんだろう?!
カッシーニ偉いなー
やがて謎は解明される~
出典=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/012800062/