消えていたのは氷河よりも氷床、「前例のないレベル」と研究者

 

 

グリーンランドは大量の氷に覆われている。しかしこの状態はいつまでもつだろうか。(PHOTOGRAPH BY MICHAEL MELFORD, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

 

 グリーンランドの氷が、これまで考えられていたよりも速いペースで解けていると警告する研究が1月22日、学術誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に発表された。

 

しかも驚くべきことに、消えているのは氷河よりも、むしろ陸に定着した氷床であるという。

 

 研究によると、2003年初頭から2013年なかばにかけて、継続的かつ大規模に氷が消失した地域は、大きな氷河がほとんどないグリーンランドの南西地域と判明した。

 

 世界最大の島であるグリーンランドでは、2002年か2003年ごろに氷の消失ペースが重大な転換点を迎えていたと、論文の筆頭著者である米オハイオ州立大学の地球科学者マイケル・ベヴィス氏は考える。

 

その後、消失ペースは加速していき、2012年の年間消失量は2003年の4倍と「前例のない」レベルに達したと、ベヴィス氏は言う。(参考記事:「2018年の海水温が観測史上最高に、研究発表」

 

毎年、本州と九州を水浸しにする量

 グリーンランド南西地域の氷がこれほど速いペースで解けているとは、従来は考えられていなかった。

 

科学者らが注目していたのは、氷河から巨大な氷が大西洋に流れ込んでいるグリーンランドの南東地域と北西地域だった。

 

「氷河から大規模な氷が流れ出すペースが上昇していることは、大きな問題として認識されていました」とベヴィス氏は言う。

 

「しかし今回、2つ目の深刻な問題があることがわかったのです。この先、氷床からさらに大量の水が解け出し、海に注ぎ込むことになるでしょう」

 

 

 NASAの人工衛星GRACEやGPSによるデータから、2002年から2016年にかけて、グリーンランドが年平均およそ2800億トンの氷を失っていたことがわかる。

 

これだけの氷が解ければ、1年分で日本の本州と九州を腰の高さまでの水で埋め尽くせるだろう。

 

 グリーンランドの氷床は、場所によっては厚みが3キロに達し、海面を7メートル上昇させるだけの水量を含んでいる。

 

20世紀の間にグリーンランドは計9兆トンの氷を失い、その結果、海面は2.5センチ上昇したとされる(世界の海面を1ミリ上昇させるには3600億トンの氷が必要となる)。

 

 それでも、グリーンランドの氷床は南極のそれに比べればささやかなものだ。南極の氷床は、もし完全に融解すれば海面を57メートル上昇させるだけの量がある。

 

恐ろしいことに、氷の融解速度は南極でも加速しており、その消失量は40年前の6倍になっているという。

 

過去10年間における氷の消失量は、平均で年間2520億トンにのぼる。(参考記事:「南極に出現した真四角な氷山、どうやってできた?」

 

 

写真家のビクトル・リャグシュキン氏が、クリオネ、ワレカラ、ヒトデなど、氷点下の幻想的な海に暮らす生きものたちを撮影した。(写真=VIKTOR LYAGUSHKIN)

 

 

原因は温暖化+北大西洋振動

 地球の気温がたった1℃上昇したことが、こうした世界の氷の大規模なメルトダウンを引き起こした主原因だ。

 

グリーンランドでの調査では、地球温暖化と北大西洋振動(NAO)とが相まって、夏の急速な氷床融解につながったことがわかっている。

 

NAOとは、大気圧が不規則に振動するように変化することで、これが負のフェイズにあるときには、グリーンランドの西側に暖かい夏がもたらされる。

 

ベヴィス氏によると、2000年より前ならNAOが負のフェイズでも大規模な氷の融解につながることはなかったが、それ以降は氷の融解が大幅に増えるようになったという。

 

 これはエルニーニョ・南方振動(ENSO)サイクルとサンゴの白化との関係によく似ていると、ベヴィス氏は言う。

 

1997~1998年にかけて発生した強力なエルニーニョ現象は、世界の熱帯地域の大半において大規模なサンゴの白化を引き起こした。

 

それ以前には、エルニーニョがサンゴ礁に影響を与えることはほとんどなかったが、1997年の時点で、気候変動によって温められた熱帯の海水温は、エルニーニョによるさらなる水温の上昇にサンゴが耐えられなくなるほどのところまできていたのだ。

 

現在では、エルニーニョが起こるたびにサンゴに被害が出ている。(参考記事:「グレート・バリア・リーフの93%でサンゴ礁白化」

 

 

グリーンランドのどこまでも白と灰色が広がる世界は荒涼として見えるかもしれない。しかし、氷に覆われた北極圏の海には生命が潜んでいる科学者たちはいう。(写真=JEAN GAUMY)

 

 

地球温暖化と大気のサイクルが重なったとき、氷床はその影響をもっとも強く受ける場所であることを、ベヴィス氏の研究は示していると、グリーンランド地質調査所の氷河学者、ジェイソン・ボックス氏は述べる。そして氷の消失量は、氷河から流れ出すよりも、氷床表面から解け出したものの方が多いことは明らかだと、ボックス氏は言う。

 グリーンランドの氷床は、表面温度が1℃を超えると日光をあてるだけで解けやすくなる。「かつては、氷床上の温度が0℃よりも高くなることはほとんどありませんでしたが、今は事情が違います」。そして1℃を超えれば、そこからは1℃上昇するごとに、解ける氷の量は倍増する。

この先に待つものは?

 化石燃料の使用を大幅に減らすために迅速に行動しなければ、グリーンランドの氷はすべて、あるいはその大半が解け、海面は7メートル上昇するかもしれないと、米ペンシルベニア州立大学の氷河学者、リチャード・アリー氏は警告する。

 

これは数世紀というタイムスケールで起こることだが、温暖化が限界点を超えるタイミングはこれから数十年以内にやってくる可能性があり、高温の時期が長く続けば、グリーンランドのメルトダウンは元には戻せなくなるだろうと、アリー氏は言う。(参考記事:「地球温暖化の影響は想定より深刻、IPCCが警告」

 

 

 もうひとつの大きな懸念は、氷床が解けて海に流れ込んだ大量の水がメキシコ湾流のスピードを弱めていることだ。

 

メキシコ湾流、より正式には大西洋南北熱塩循環(AMOC)と呼ばれるこの海流のおかげで、西ヨーロッパには温暖な気候がもたらされる。昨年、『ネイチャー』誌には、AMOCの勢いが20世紀半ばに比べて15パーセント弱まっているという研究結果が発表された。

 

 気象学者らは、この鈍化は、近年のヨーロッパでの夏の熱波に関係していると考えている。

 

『ネイチャー』論文の共同執筆者である、独ポツダム気候影響研究所のステファン・ラームストーフ氏によると、湾流鈍化の原因はグリーンランドから流れ出す大量の融氷水にあるという。

 

ラームストーフ氏はワシントン・ポスト紙に対し、こう述べている。「これが今起こっている現実だと、わたしは考えています。そしてこれは悪いニュースです」(参考記事:「未曾有のペースで進む グリーンランド氷床融解」

 

 

あー

もう引き返せない~

人類自滅

近いかもーーーーーー

 

 

出典=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/012300052/