夫と付き合う前に3年ほど交際していた彼はとても優しく私を大事にしてくれた。

何より彼のお母さんには本当に大切にしてもらった。

会うたびに

「絶対にうちのお嫁さんにきてね。絶対だよ」と言っていたお母さん。

母が倒れ大学を中退した時も

「少し落ち着いたら私が大学に行かせてあげる。そして卒業したらおばあちゃんの塾の隣でピアノ教室を開こうね」とまで言ってくれた。


でも運命としか思えない偶然が重なり、今の夫に交際を申し込まれた。

夫とは高校生の頃に知り合ってはいたが付き合ってはいなかった。

当時彼がいたが夫は彼と違い、物凄く強引に猛アタックしてきた(古い?)

彼とは全くタイプの違うヤンキーのような夫のことをバカな私はちょっとカッコいいと思ってしまったんだね。

(恥ずかしすぎます)

自分と全く違う世界に生きているような夫に惹かれてしまったんだね。


そして私は彼に別れを告げた。


「あいつは評判が良くないから、もしも傷つけられるようなことがあったらすぐに戻ってこい」

そう言って去っていった。


そして夫と付き合い始め一年もしないうちに私は違和感を感じ始めた。

いつもどこに出掛けていても夫は私を探し回っていた。

そしてちょっとしたことで泣かされることが多かった。

喧嘩をして知らない場所で車を下ろされたこともあった。

すぐに連れに来るのだけど、何度目かに私は別れを決めた。

いつも不安定で一緒にいても落ち着けなかった。

もちろん前の彼のところに戻れるとは思っていなかったけど、夫との未来に不安を感じたから。


夫に別れを告げると、その時は

「もういい!」と怒って帰っていった。

それから2週間ほどすると夫は私の家に来て、泣きながら

「どうしてもお前しかだめなんだ。好きで好きでどうしようもないんだ。だから考え直してほしい。悪いところは直していくから」と言った。

その涙と言葉に絆され私は考え直した。


それからしばらくすると前の彼のお母さんから電話をもらった。

「あの子はあなたのことが本当に好きで好きで仕方がなかったの。あれからご飯も食べられなくなりすごく痩せちゃって見ていられないの。私も本当にあなたがうちにお嫁さんに来てくれるのを待ってたのよ。だから何とか戻ってきてやってくれない?」

そう言われたが私は

「ごめんなさい」としか言えなかった。

その後その彼は、私のことを待っていてくれたのかどうかはわからないが9年ほど一人でいた。


ちなみに姑に初めて会った日の最初の言葉も未だに忘れていない。

「はじめまして」と私。

開口一番に

「あんた、そんな頭似合うと思ってやってるの?!」

その後は口を開くこともなかった。

当時流行っていたソバージュという髪型。

みんなにとっても似合ってると言われてたけど、その後姑と会う時には髪型を変えた。

私はたぶん気に入られようと思ってしたのだと思うけど、どうやっても気に入られるわけもなかったのにその時にはわからなかった。

だって、世の中にはいい人しかいない、とまだ信じていた頃だったから単純に、似合ってないのか〜と思ったんだね。

あんなに険しい顔で突っぱねるように言われたのに、今日は何か気分でも悪くなることがあったのかなぁくらいにしか思っていなかった。



私は夫と結婚をしてから辛い思いをするといつも思い出していた。

あんなに私を大切にしてくれた2人を、あんな形で裏切ったことにバチが当たったんだと。

私はこの40年間ずっと罰を受けているんだと思い続けた。

そして懺悔し続けた。


でもやっと最近、もう十分に罰は受けたのだから自分を許してやってもいい、と思えるようになった。


それと同時に思った。


私は女として生まれてこんな年になるまでただの一人の男にも心底愛され大切にされることもなく惨めに死んでいくのか、と思っていたことが深い悲しみの大きな要因となっていた。


でもその彼のことを思い出すと、まだ若い頃だったが私のことを本当に愛し大切にしてくれた。

おまけに彼のお母さんにまで大事に大事にされてその頃の私は本当に幸せ者だった。


だから、惨めに思う必要はない。

きちんと私だけを心から愛してくれた人はいたのだから。


そう思うと少し心があったかくなった。



こうして私は自分の罪を赦し、何も出来ない、何もない自分を丸ごと受け入れ、もうこれ以上苦しまなくていいよ、とやっと心から自分に言えるようになった。