毎日父親が怒鳴り散らす姿を見て育った子供達は幼い頃から本当に大人しかった。
ビクビクしていた、と言った方が正しいな。
特に息子は父親にまさに目の敵のような扱い方をされていた。
男の子、ということが気に入らなかった?
それとも私の方に似ていたからかな?
よちよち歩きの頃から蹴飛ばしたり怒鳴ることは当たり前。
そして大きくなっても言葉による暴力が続いた。
夫はいつもイライラして息子を見ていた。
息子が何をしても何を言ってもいつも怒っていた。
それこそ一番可愛い時期でさえ。
当時の夫の口癖は、『男のくせに』
私はいつも思っていた。
『女子供相手にしかすごめない自分のことですか?』と。
息子は成人してから友達に
「俺は父親に虐待されてきた」
と話していたらしい。
私の中で初めて、そうかあれは虐待というものだったんだ、という認識になった。
そして私には、守ってくれなかった、と言った。
夫は背も高く体格もいい、私は背も低くどちらかというと痩せ型。
子供をただ抱き抱えて離れることしかできなかった。
向かっていくことが怖くてできなかった。
自分の身を挺してでも夫にそれをやめさせることが母である私が本来取るべき行動だったのに、とそこでも後悔の念に苛まれた。
(モラルハラスメントパーソナリティーを知った今となっては別れることでしか自分も子供も守ることなどできるはずもなかったのだと理解している)
そのため、特に息子のことを過保護に育ててしまった。
(息子も今は色々なことを理解して、それは仕方がなかったのだということで飲み込んでくれているよう)
だからこそ子供達を救い出す為に高校を卒業してから二人とも遠いところに行かせた。
反対する夫を必死で説得して、その時の私は自分のことをよくやったと思っていた。
そしてそれぞれの場所で二人とも教育を積みキャリアを積んだ。
後から振り返り子供達は二人とも言っていた。
「家を出て10年ほどしてやっと自分は自分に自信を取り戻し心の闇を克服したと思っていた」と。
でもそれほど簡単なことではなかった。
娘は何年か前に夫と子供一人を連れて私の元に帰ってきた。
息子も数年前に私の元に戻ってきた。
夫の兄弟は多かれ少なかれ皆モラハラ体質。
それぞれの子供達も30代以上となった今、その影響を感じさせる。
『同じような体質になっていっている子』
そして
『心を病んでいる子』
そして
『そのどちらも併せ持っている子』
その違いを観察するに、母親の性格が多少なりとも関係しているのかと思う。
同じように人前で怒鳴りつけられても受け止め方に違いがあるのかもしれない。
もちろんモラハラ具合も様々なので一様には言えないとは思うが、人前で怒鳴られた時の兄嫁達の表情を見ていると少しづつ違う。
1、顔を歪めながらもフンッと鼻で笑うように受け流す人。
2、控えめに夫を諌める人。
3、とたんに顔を曇らせ何も言えずズーンと落ちていることがはっきりわかる人。
2番目の兄嫁と私の場合は明らかに3のパターンだと思う。
たぶん3のパターンが一番重症だと思うのだけど。
母親がきつい性格だと同じような人間になっていくことが多いのかもしれない…
3のパターンは心を病むことが多いように思う。
その母親の姿を見て余計に心を病んでいる子もいる。
優しい男の子は幼い頃から、毎日父親が母親をいじめていると受け止めることが多いから。
もちろんそのモラハラが妻だけに向いている場合と子供にも向いている場合もあるから、その辺りも複雑に絡み合う。
しかし、どっちに転んでも不幸だ。
父親のモラハラによる影響を受けて多かれ少なかれそれぞれの子供たちもとても生きづらさを感じているのではないだろうか。
時代背景や色んな事情があって簡単に離婚することもできず、みんなそれなりに我慢をして生きてきた。
いや、たぶん誰もが離婚などという発想にも至らなかったと思う。
モラハラなのだという認識も誰も持っていなかった。
誰も悪くない。
ましてや子供達は被害者だ。
意識しているかいないかの違いはあるだろうが、こうしてモラハラ体質も脈々と受け継がれていくのだと思う。
そう考えれば夫も被害者、ということになる。
そしてその親も、またその親も。
この負の連鎖をせめて自分だけは断ち切りたいと思っている息子が聡明だと思う反面、これからあったかもしれないたくさんの幸せを受け取らずに生きていかなければならない理不尽さを強く感じる。
つづく