むかし国語の教科書に載ってたこの文がすごくいいって聞いて、私も読んでみたよニコニコドキドキ

私の時はこれ、教科書になかった気がするけど、知ってる人いるかな音譜

いい!
いまの自分の状況にもすごい合ってて、よし!!って気合入ったよ得意げひらめき電球

海が見えるまであと少し頑張るにひひクラッカー
photo:01



いま何かを頑張ってるあなたへ♬
少し長くなっちゃうけど、
時間あったら是非読んでみてねドキドキ

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「小さな町の風景」杉みきこ

あの坂をのぼれば、海が見える。
少年は、朝から歩いていた。
草いきれがむっとたちこめる山道である。
顔も背すじも汗にまみれ、休まず歩く息づかいがあらい。
あの坂をのぼれば、海が見える。
それは、幼いころ、添い寝の祖母から、いつも子守唄のように聞かされたことだった。
うちの裏の、あの山を一つこえれば、
海が見えるんだよ、と。
その、山一つ、という言葉を、少年は正直にそのまま受けとめていたのだが、それはどうやら、しごく大ざっぱな言葉のあやだったらしい。
現に、今こうして、峠を二つ三つとこえても、まだ海は見えてこないのだから。
それでも少年は、呪文のように心に唱えて、のぼってゆく。
あの坂をのぼれば、海が見える。
のぼりきるまで、あと数歩。
半ばかけだすようにして、少年はその頂に立つ。
しかし、見下ろす行く手は、またも波のように、くだってのぼって、その先の見えない、長い長い山道だった。
少年は、がくがくする足をふみしめて、もう一度気力を奮い起こす。
あの坂をのぼれば、海が見える。
少年は、今、どうしても海を見たいのだった。
細かく言えばきりもないが、やりたくてやれないことの数々の重荷が背に積もり積もったとき、少年は、磁石が北を指すように、まっすぐに海を思ったのである。
自分の足で、海を見てこよう。
山一つこえたら、本当に海があるのを確かめてこよう、と。
あの坂をのぼれば、海が見える。
しかし、まだ海は見えなかった。
はうようにしてのぼってきたこの坂の行く手も、やはり今までと同じ、果てしない上がり下りのくり返しだったのである。
もう、やめよう。
急に、道ばたに座りこんで、少年はうめくようにそう思った。
こんなにつらい思いをして、いったいなんの得があるのか。
この先、山をいくつこえたところで、
本当に海へ出られるのかどうか、わかったものじゃない。
額ににじみ出る汗をそのままに、草の上に座って、通りぬける山風にふかれていると、なにもかも、どうでもよくなってくる。
じわじわと、疲労が胸につきあげてきた。
日は次第に高くなる。
これから帰る道のりの長さを思って、
重いため息をついたとき、少年はふと、生きものの声を耳にしたと思った。
声は上から来る。
ふりあおぐと、すぐ頭上を、光が走った。
翼の長い、真っ白い大きな鳥が一羽、
ゆっくりと羽ばたいて、先導するように次の峠をこえてゆく。
あれは、海鳥だ!
少年はとっさに立ち上がった。
海鳥がいる。
海が近いのにちがいない。
そういえば、あの坂の上の空の色は、
確かに海へと続くあさぎ色だ。
今度こそ、海に着けるのか。
それでも、ややためらって、行く手を見はるかす少年の目の前を、ちょうのようにひらひらと、白いものが舞い落ちる。
てのひらをすぼめて受けとめると、それは、雪のようなひとひらの羽毛だった。
あの鳥の、おくりものだ。
ただ一片の羽根だけれど、それはたちまち少年の心に、白い大きな翼となって羽ばたいた。
あの坂をのぼれば、海が見える。
少年はもう一度、力をこめてつぶやく。
しかし、そうでなくともよかった。
今はたとえ、このあと三つの坂、四つの坂をこえることになろうとも、必ず海に行き着くことができる、行き着いてみせる。

白い小さな羽根をてのひらにしっかりとくるんで、ゆっくりと坂をのぼってゆく少年の耳にあるいは心の奥にか、かすかなしおざいのひびきが聞こえ始めていた。