3匹の昆虫とアリ  | 藤波心オフィシャルブログ『ここっぴーの★へそっぴー』Powered by Ameba

3匹の昆虫とアリ 

ある森の木でカナブンがチューチュー樹液を吸っていました。


そこへ突然クワガタが「俺にも吸わせてくれ!」とやってきました。


「あー腹減った。僕にもちょーだい」しばらくすると今度はカブトムシもきました。


でも先に樹液を吸っていたカナブンは言いました。

「元々私が吸ってたのよ。あなた達にはこれっぽっちも譲れないわ。」


「なんだって?カナブンのぶんざいで!」

これを聞いたクワガタはアゴをガタガタさせながら、カブトムシは角をブルンブルン震わせながら怒りました。


でも、カナブンも負けじと羽を思いっきりバタつかせながらこう言いました。
「後から来たクセに、その態度は何なのよ! まずは カナブンさんどうかあなたのその樹液を少し分けてもらえませんか?とていねいにお願いするのが昆虫としてのマナーでしょ?」


それを聞いたクワガタは言いました。
「おまえがいくら樹液を吸っても、たとえばカブトムシさんみたいに立派な角はいつまで経っても生えてこないし、俺みたいな立派なアゴを持つことも出来ねぇ。はっきり言ってお前がこれ以上樹液を独り占めするなんて自然の恵みの損失なんだよ。意味がない。身の程を知れ!」


カブトムシも言いました。
「だいたい先に見つけたとか、吸ってたからとか、この木はカナブンおまえさん1匹のモノじゃないだろう。さすが、体も小さいけど言う事も小さいな。あんまりしつこいと、僕のこの大きな角で、草むらに振り落しちゃうぞ。」


カナブンは続けて言いました。
「ほら、そうやってすぐ相手を蔑み、力づくで奪おうとする。私は今まで何度も騙されてきた。そういう態度ではますます貴方達を信用できない。私がもしどうぞって気を許したら、貴方達は私を、どうせ、木の下に突き落とすんでしょ?」


3匹はそうやって、それぞれ一歩も引かず、険悪なムードが流れました。



そこへ、離れた所から様子を見ていたアリがひょこひょこやって来て言いました。

「まあまあ、みんな、落ち着いて。落ち着いて。やがてこの森にも秋が来て冬が来れば皆死んじゃう運命。残された命ケンカぜすに仲良くいこうよ。樹液はみんなで分け合って吸えばいいじゃない?。たとえば、そこの木の皮を、クワガタさんのアゴでめくって、カブトムシさんがその角で放り投げたら、もっと樹液の穴は大きくなって広がるでしょ。それをみんなで分け合って吸えば、カナブンさんだって今よりもっと沢山の樹液が吸えるとおもいますよ?どう?私のアイディア?? 」


一瞬3匹はお互いの顔を見合わせましたが、でもすぐ我に返ったようにこう言いました。


「君みたいな地面をずっと這いまわって空も飛べないようなチッポケなアリに何がわかるっていうんだ。」
「まず、内容はともかく、アリのクセにその口のきき方が気に入らないわ。」
「俺達には俺達のやり方ってもんがあるんだ! 何もわからないクセに、大きなこと言うんじゃねえ!! 黙ってろーーーー!」


そうやって3匹は、アリの提案を無視して、お互い睨み合いを止めませんでした。


「あ、そ。3匹が皆得をする、良いアイディアと思ったんだけど。でもそこまで言うなら仕方ないね。じゃ、私は冬支度があるのでこの辺で失礼させてもらいます。さようなら~。」
アリはそう言って木の下の自分の巣に帰って行きました。



さて、どれくらい時間がたったでしょうか。



いきなり大きな大きな網が、睨み合っている3匹の上にかぶさってきました。


「しまった!」
3匹の昆虫はにらみ合いをやめましたがもうすでに手遅れでした。



そう、昆虫採集の少年がやってきたのです。



3匹はお互い睨み合いをしていたために、少年が近づいて来る足音をすっかり聞き逃していたのでした。


「うわー!おじいちゃん!カブト・クワガタ・カナブン、一度に3匹も採れたよ! どお?僕すごいでしょ?」
少年は大喜びしています。


虫取り網の中でからまっているカナブンが言いました。
「おい、クワガタ! あんたの頑丈なアゴでこの網を切ってよ!」
「おい、カブトムシ!あんたのその大きな角で少年を倒してよ!」


クワガタは言いました。
「無茶言うなよ。人間の作ったこの網は俺のアゴではどうする事もできねぇ」

カブトムシも言いました。
「僕の角で少年を倒すなんて、無理だよ。」


カナブンは言いました。
「大きなアゴと角があるくせに、まったく、2匹とも役立たず! 。フン。」 

そんなカナブンの言葉を聞いて、カブトムシが言いました。
「カナブン君、きみはぼく達に文句ばっかり言うけど、じゃあ、君は、この状況下でいったい何ができるというんだい・・??」



3匹は、少年の持つ虫籠の中に放り込まれてしまいました。


そしてどこか遠くへ遠くへ、連れて行かれました。


アリは巣穴の入り口からその様子を見て
「結局一番トクをしたのは、昆虫採集の少年だったなんて、なんか悲しいね。でもこれが現実かぁ。はあ。」
と、1回大きなため息をついて、拾ってきた氷砂糖のひとかけらをぺろりと舐めながら

誰も居なくなった木をずっとひとり見つめていました。



朝晩だいぶ肌寒くなってきました。




この森にも間もなく秋が来て、やがて寒い寒い冬がやってくるのです・・・。




藤波こころ 作。    オシマイ。




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