「シャーロキアン」(シャーロッキアンともいう)って、シャーロック・ホームズシリーズの熱狂的なファンで、めちゃめちゃ詳しい人のことを言うのだと思っていたのだが、ただファンというだけではないことを最近知った。

 

堀江貴文氏が刑務所に収監中に読んだ本について書いた『ネットがつながらなかったので仕方なく本を1000冊読んで考えた そしたら意外に役立った』の中で紹介されていた『シャーロッキアン!』(池田邦彦)という漫画を読んだからだ。

 

 

 

 

 

 

シャーロキアンとは、シャーロック・ホームズを、コナン・ドイルが書いた小説の登場人物としてではなく、実在の人物とみなし、書かれている事件を実際に起こった事件と捉えて研究したりする熱狂的ファンのことを言うのだそうだ。聖書に書かれている出来事を実際に起きたことと理解するキリスト教原理主義みたいだな、と思ったら、シャーロキアンは聖書研究を意識的にパロディ化していて、コナン・ドイルが書いたホームズシリーズの9冊は「聖典」と呼ぶらしい。

 

で、研究するって何を?と思うが、内容は多岐にわたるのだそうだ。(研究内容はWikipediaを参照した)

 

たとえば、ホームズの収入はどれくらいか?とか、バスカヴィル家の特定とか、モリアーティ教授が書いたとされる論文の内容はなにか?とか、モリアーティとライヘンバッハの滝に落ちて死亡したとされた『最後の事件』から、『空き家の冒険』で生還するまで(この期間を「大空白時代」という)ホームズはどこで何をしていたか?だとかを考えるのだそうだ。

 

大空白時代について、作者のコナン・ドイルが、歴史小説など他の小説も書きたいのに、人気のあるホームズものばかり書くことを要求されることに嫌気がさし、ホームズを殺すことでシリーズを終わらせることにしたのだが、もはや世間がそれを許さず、ファンの要望に応えるため復活させるしかなかった、という現実的な説明をシャーロキアンにしても、

 

「ちょっと何言ってるかわかんない」

 

って言われるだけだ。ホームズは実在し、書いているのはワトソンなのだから。

 

要するに、ホームズは実在するという前提に立って、いかにつじつまの合う説明ができるか、いかに斬新な新解釈を提示できるか、ということを考える知的な遊戯なのだ。しかも、事情をよく知らない部外者に対しては、自分たちがホームズを実在の人物であると本当に信じ込んでいるかのように装ってからかう傾向にあるらしい。ペダンティックな世界なのだ。

 

 

漫画はまだ1巻しか読んでいないが、ホームズと切り裂きジャックの関係(なんと切り裂きジャックの正体も書かれている!)とか、ワトソンの奥さんがワトソンを「ジェイムス」と呼ぶのはなぜかとか、大空白時代の真実とかを、ホームズっぽい大学教授と女子大生のコンビが、2人の周囲に起きる出来事にからめて解いていくというもので、なかなか興味深い。

 

ホームズっぽい人物と女子大生のコンビが日常の謎に挑むという形式は、北村薫の「円紫さんシリーズ」に似ていると思った。シリーズ1作目の『空飛ぶ馬』を初めて読んだときはあまりにおもしろくてびっくりしたので、こちらもおすすめ。

 

 

 

 

聖典とされる9冊について、ルース・レンデルやアガサ・クリスティやスティーブン・キングやジャック・ロンドンの翻訳でなじみのある深町眞理子(あるとき「あれ、最近私が読んでる本って翻訳ほとんど深町眞理子って書いてあるじゃん」と気づいたのだ)が新訳していてKindleででているのを最近たまたま気づいて買い直したところだった。これからまた読み直して、シャーロキアンめざそうかな。