12月23日(月)
野球に例えると、いよいよ9回の攻防に突入です
最後の一週間が始まりました。
元々、この最終となる4コース目の入院を一週間早めたのは、3コース目の副作用が大きかったので、4コース目に更に大きな副作用が出た時の備えるため、というのが一番の理由でした。(詳しくはコチラ)
私が地固め療法で使っているトリセノックスという薬は体に蓄積することによって、副作用が重くなる可能性があるからです。
実際、血液検査の結果を見てみると1コース目や2コース目と比較して3コース目の方が白血球の減少が強く出ました
しかし、この4コース目。
最終週に入る直前の血液検査で、3コース目とほぼ同じ数字が出ました。つまり・・・副作用は前回同様のレベルに留まっている。
前回、3コース目の治療時の先生との会話が思い出されます。恐らく、余程のことが起こらない限り、前回同様「治療はやり切ってしまいましょう」という事になる筈です。
多少血球が下がっても、好中球が1,000くらいあったら退院して家で大人しくしておいてくれ、と。
個人的な次回採血の目標は白血球が2.5です。恐らくそれ以上なら年内の退院は間違いない。
そんな中、治療がスタートするわけですが。
月曜の朝は看護師さんとのこんな会話からスタートしました。
看「今日はC先生がお休みですから~」
と「へ?じゃ、誰が点滴ルート取ってくれるの?」
看「先生じゃない?」
と「おぉー、この終盤になって初めて先生自ら!楽しみやねぇ」
・・・実際は先生は新しい研修医の女性を連れてきました。やはり後進を育てないといけないんでしょう。
見た目も若いし、名札に「研修医」と明記してあります。
多分、今までの若い先生は1年目だったんだと思います。名札に「研修医」とは書いてなかったので。
さてこの研修医のI先生。非常に堂々としています。過去3人の誰よりも。腕に自信があるのか?案外、こういう人が上手なのかな~と思いましたが、期待はすぐに裏切られます
出来るだけ上にしてね、と声を掛けましたが・・・迷わずむっくりと盛り上がった血管に狙いを定めます
いやいや、そこ手首に近すぎるでしょ、と言う間もなく!サクッと針を刺します。先生も何もする暇もない一瞬の出来事でした
そしてテープを張ります・・・がテープに気がいって、針がおろそかに・・・引っ張られて思わずイテテテッ!!と声をあげました。
んー・・・太い血管に入ったのでキレイに逆血してますし漏れたりはしてないんですが・・・手首に近いと神経も多いんですよね。動かす度にチクチク痛い
これだったら新先生に2回やられた方がマシだった・・・C先生のありがたみが身に沁みます。。
先生もI先生を詰所に戻らせた後に「こ今回の針は2日で抜きましょう、すみません」と必死のフォロー。いえいえ、日本の医療を背負う若き医師の経験値アップに貢献出来たと自負しておりますよ…
さて。
1日前の日曜日には感慨深い出来事がありました。
ベサノイドの内服終了です。
私は4月25日の緊急入院以来、この薬にお世話になってきました。
急性前骨髄球性白血病(APL)の患者でこの薬を内服しない人はいません。
薬との相性が悪くて内服をやめる人はいるかもしれませんが、必ず一度は飲みます。
以下、ちょっとマニアックな記事です。APLを詳しく知りたい方以外は読み飛ばした方がいいかもしれません
少し前の記事に「がんとは遺伝子異常である」ということを書きましたが、APLは「PML-RARα(ぴーえむえるらら)」という遺伝子異常によって起こります。
過去の記事でも何度が触れましたが(例えばコチラやコチラ)具体的には染色体の15番の「PML」と17番の「RARα」がちぎれて入れ替わってくっつく、という遺伝子異常が起こって「PML-RARα」ができます。
この「PML-RARα」がAPLの白血病細胞です。
ちなみにこの染色体の一部が入れ替わることを"転座"と言います。これは別にAPL特有のものではなく、例えば慢性骨髄性白血病(CML)だと9番と22番がくっついて「BCR-ABL」を作るケースが多い、とか白血病に限らず色んなケースがあります。
APLでは圧倒的に15番と入れ替わる「PML-RARα」が多いのですが、5番と入れ替わる「PLZF-RARα」や11番と入れ替わる「NPM-RARα」といったものを併発するケースもあります。
つまり、17番の「RARα」が悪さをして別の遺伝子とくっつくことが多い。困った浮気性のララちゃんです
この「RARα」に働きかけるのがAPLの特効薬ベサノイドです。
細胞は定められた脚本の通りに生まれて死んでゆく=代謝を繰り返していきます。皮膚は皮膚、胃は胃、血液は血液です。
白血球はいきなりバイ菌をやっつけられる状態で生まれるのではなく、いわば赤ちゃんから成長していって一人前の白血球に成長していきます。そしてやがて死んでゆく。
ところが、「PML-RARα」になると幼稚園児くらいで成長が止まって、無限増殖を始めます。本来、捨てないといけないものが捨てられないのです。
仮にこの”捨てなければいけないもの”を「幼児のワガママ」としましょう。これが捨てられないから、「あれヤダ、これヤダ、これがイイ!」とワガママ放題の白血病細胞が増え続けます
ベサノイドはこの「幼児のワガママ」を強制的に捨てさせます。両親による愛のあるしつけのように。ワガママを捨てさせられた白血病細胞は我に返り、成長を始めます。
ふてくされてばかりの10代を過ぎ分別もついて年を取り・・・やがて老人となって自然死します。
この
ワガママ放題の幼児=PML-RARα遺伝子を持つ前骨髄球
です。
もうちょっと踏み込むとベサノイドは「RARαにくっついて成長の停止を解除する」のですが、まぁ細かい理屈はともかく好中球にまで成長させて自然死させる
約30年前に中国で発見されたこの薬のお陰で沢山のAPL患者の命が救われました。
もちろん、私の命もこの薬によって救われました。
緊急入院した4月25日からずっと・・・もちろん、休薬している期間はありますが、飲み続けました。
そしてもう、二度と飲むことはありません。
難治性の白血病細胞はベサノイドに対して耐性を持つことがわかっているので、再発した時には使えないのです。
4月25日からの日々を振り返ると、感慨深いものがあります。
最後の最後まで、唇をガサガサにして、口角炎を作って口の両端を見事に切ってくれるという副作用はあるものの、私が年を越せるのはこの薬のお陰です。
ベサノイドは世界初の分子標的薬(=がん細胞を狙い撃ちする薬)で、これが誕生することによって「何でそうなるの?」とAPLの研究が進みました。
白血病にも、もちろん世の中に存在する数多くの病気にも有効な治療薬が見つかってないものが沢山あります。
ベサノイドのような薬が一つでも多く見つかって、沢山の命が救われますように。
医師や研究者の皆さん、是非頑張っていただきたい。
今日も皆様が健やかでありますように!