成人式の思い出はいっぱいある


でもなぜか今でも覚えているのは、サンドイッチ屋だ


早朝から眠気も取れないまま車に乗ったあの日


ベテランの女性にホテルの一室で着付けしてもらう


毎日運動に明け暮れていたあの頃は今より細かったと思う

細いですね、とニコニコ言われたとき嬉しかった記憶がある


出来上がった振袖姿は、重く、きつく、これが大人になることなのかと一種の通過儀礼のようなものを感じた


とぼとぼと歩く私と朝からイライラしていた母

そしてまだ元気だった祖母が玄関先で満面の笑みを浮かべる。写真を撮る


駅は振袖姿の人もちょこちょこといて、でも同時にそれはマイノリティにも感じた


高いものを身につけている、このあと着崩れしないで出席しなければならない行事がある、汚したらいけない


普段のデニムからは想像できないほど気配りしなければならない状況と、いつも通りデニムを履いている電車の人々


一人で移動してるとき、猛烈にマイノリティと孤独を感じた


駅に着いて空腹を満たすためサンドイッチ屋になんとなくよってみた


何を買ったのかも覚えていない

なんなら、空腹を満たすためだったのかすらも本当にそうだったか覚えていない


ただ覚えているのは、サンドイッチを渡すときに女性が私の目を見ながら、素敵ですね。成人おめでとうと言ってくれたことだ


あのとき寂しさから解放され、一気に心が柔らかくなる感覚があった


今もあのサンドイッチ屋はあるのだろうか。


あったら、今度寄ってみよう。