あれは燃えしきる暑さが辛い夏だったのか、手足が凍る冬だったのかも覚えていない
私と彼女はカラフルな絵の具付きのテカテカしたニスが目立つ木の丸椅子に座って、私語をしながら適当に絵を描いていた
なぜだか芸術科目の時間、美術を選択する者は本当に一握りで、大学受験のために勉強を重ねるため数学科目を取る者や幼い頃から慣れ親しんだ書道を選択する者が多かった気がする
ただ覚えているのはあの独特の油絵の具の匂いと、使い古した果物の被写体を目の前にひたすら適当に絵を描いていたことだ
美術室は上の階の隅っこでグラウンドがよく見える場所だった
ゆさゆさとたまに揺れる木の音もスルスルと抜ける筆の音もなんだが耳に残っている
彼女は美しかった
透き通る肌と印象的な狐目は人をとらえて話さない
第一印象で絶対仲良くなれないタイプだ、と心に誓った彼女を、私は先日東京駅で見送った
遠い地に住んでいる彼女は帰ってくると絶対に連絡をしてくれる
いまだになぜこんな仲なのか分からない
ただ覚えているのは油絵を描いたあの日は隣に彼女が座っていたということだ