過去を思い出して「ああ、あの頃が良かったなあ」と惜しむ気持ちについてよく取り上げられる。
実際はどの時代も何かしらの良さがあって、それに気づかずに道を進んでいく
いざ振り返ったときに過去のどの時代も楽しかったことに気づくというような、いわゆる過去美化的な考え方だ
社会人になる手前で毎晩恐怖が押し寄せてくる
SNS越しに何度も面会した先輩たちが気付けば姿を消していた
立派な賞をとったあの素晴らしい人も歳だけ食らったくだらない人間に「センスねえな」と罵倒される日々を送っている
よく社会人は
「学生の頃はよかったなあ〜」とか「学生のうちにたくさん遊んどきなよ!社会人はジゴクだから」とか
トイレから常にオシッコの匂いが漂う電球の切れそうな薄汚い飲み屋の片隅でほざいている
これが結果なのかもしれない
どちらにせよ、彼らにも平等に過去があったのだ
お世話になったアルバイト先での最期の日、フリーターの女性に出会った
学生かどうか尋ねると切なそうに
「みんなそれ、聞きますね」と答えた
「前の会社辞めて、転職中です」と答える彼女の過去は苦しそうで、私はわざと明るい声で会話を繋げる
「もうなんか、面接が、面接が…怖くなっちゃって」
彼女はふと手を止めて、確かな眼差しを私の方に向けてそんなことを呟いた
一瞬だけ時が止まったような感覚が肌をつつく
振り返った過去が美しいという話はあまりにも一般化されすぎて、いつの日か今が美しいことに気づいてしまった
学生と社会人の狭間で
これほど社会人に対する恐怖感が植え付けられているのは
学生時代が過去になって美化されてしまった社会人のせいなのか
先でも過去でもなく
今が一番良いと気づいてしまった勘の鋭い自分自身の問題か
これまで無意識にも肯定していた未来が
未知の世界に行く恐怖で真っ黒になってしまった。
とどまりたい
ここにいたい
私はこんなにも変化を恐れているのに
反比例的に
時代は、社会は、流行は、動向は目まぐるしく変化していく
この矛盾は何なのか