テーマパークに行く準備をする母は
数週間前から入念に準備をして
るんるんとした様子で洋服を見せてきた
そんなあどけない母が可愛らしく愛らしい
強い母であろうと、許容を繰り返した母は
搾取されている
母はそれを気づかないふりをして
今日も人工物の入った身体を痛めながら洗濯物を干す
そそくさと家を出て遠い場所に消えてしまった兄がふと帰ってくることがある
母はいつでも豪勢な寿司と手料理で出迎える
私は母が日中一人で大量の布団を干し、買い出しで重い荷物を持って、手を冷やして洗い物をする姿を知っている
兄はそれを知らない
急に帰宅する父に文句を言いながらも、ハンドクリームを塗った手を綺麗に洗って野菜を切る母を知っている
父はそれを知らない
母は
搾取されている
順風満帆な家庭を築いたはずの兄が帰宅したときに
家庭を持つのが辛いと弱音をはいた
「心配。あの子はそういう子だから。」
と兄が帰ってからしきりに私に話しかけていたとき
少なくともそこに少しの笑みがあったことを私は見逃さなかった
実家暮らしだったもう一人の兄は
1ヶ月後に家を出るそうだ
帰宅してからすぐに弾き始めるギターの音色
私と母が大喧嘩をしても
雰囲気を朗らかにしてくれる鋭い鈍感さ
器用に場を和ませる兄が
いなくなってしまうのは寂しい
「これは前向きな門出だよ」
と言った小柄な母の小さな小さな背中からは涙が溢れているように見えた
母は
間違いなく
搾取されている