「俺あん時思ったんだよね。毎日毎日出社して。同じ時間働いて。よくわからんまま帰ってきて。こんなんで俺の人生終わるんだって。
死にてえって。」
あの時、私の死にたい より遥かに重く辛く聞こえたのは何故だろうか。
彼がいわゆる無職だからか。1日1食の不健康な生活に明け暮れた結果得た、細長い身体が私を同情させたのか。蔑ませたのか。
彼の声は間違いなく微かに震えていた。
少なくとも、あの「死にてえ」は本物だ。
綺麗に発音するために進化した咽頭、大きく開く口と動かすことのできる舌、整列した歯があるにもかかわらず、人間は多くの言葉を発すると安っぽく感じるのは何故だろう。
彼は多くを語らなかった。
毎日の仕事をテキパキとこなして、すぐに帰る。
何故ここにいるのか、どうしてこんなにも死にそうなのか、肝心なことは何一つ教えてくれなかった。
「お前オムライス、何派?」
私を指しながら隣でくだらない話ばかり振る。
そんな彼に
「時々生きててもどうしようもない。なんか無力なんだ。」
と弱音を吐いてみた。次の日、私がずっと欲しがっていた扇風機をくれた。
同じような思い、もしくはそれ以上に壮絶な出来事を思い出したのだろうか。
彼と色も形も一緒の扇風機を手にとって、灼熱の太陽の下で風を浴びる。
涼しかった。
ふわっと包み込む風はただただ優しくて
今考えれば
同じだ
同じように「死にてえ」んだ
と励ましてくれてたのだろうか。
あれから2年経った。
真相はまだわからない。