今日も私はセックスのために爪を研ぐ

セックスのために無駄毛の処理をし

セックスのためにいつもと違うトリートメントをし

セックスのためにピンク色の下着を着る。


セックスのためにドライヤーを念入りにかけ

セックスのためにいつもは塗らないジェルを顔につける

全てセックスのためだ


半径2mで行われる父と母による夫婦喧嘩はどんなテレビ番組よりも、どんなSNSよりも面白いものなのかもしれない。


無知な父を諭す母親は、いつでも悪役のふりをする。

小さな頃の私は、そんな母親の怒鳴り声にただただ怯えていた


この歳になって、この家を正当化するには悪役が必要なことを知ってしまった

そしていつでも悪役が悪でないことも、母が流した涙と震える声によって知らされてしまった

水商売出身の祖母の家柄という呪縛を

母は受け継ぎまいと必死に抵抗し、大きな家を構えてせっせと料理を作る


悪役が強いと勝手に感じ始めたのは
絵本を読んでからか


「会いたい」

数時間前に来たメッセージに、私の指は動かなかった

悲観的になる私をいつでも慰める貴方を思い出した時

急に指が動いたのは

利害を感じたからか

「私も会いたいよ」

血は争えないのだ

セックスも

悪役も