田舎に行った。


電車の扉は自分の手でボタンを押さないと開かない。


席に座ると、隣の廃線線路の間から無数の雑草が飛び出している。


当たり前のように「無人駅になりますんで。」と伝える車掌もまた、何も考えず切符を切る。


観光地と言われて行った街は、定休日だらけのシャッター街だった。

「どこからいらっしゃったの?」
優しく微笑みかけるその顔には、乾燥した大地のように四方八方に深く線が入っていた。

「店を閉めることになりました。地域の人に支えられた51年に感謝申し上げます。お店の前を通られる際にはお店を思い出していただけると幸いです。」
商店街の奥では、昔流行った字体で「文具」と書かれた文字が錆び付いて霞んでいる。杖をついた老婆は何も言わずに前を見て歩く。その瞬間、看板がより一層錆びたように見えた。

数十年前に固められたアスファルトの上では、大型トラックが数分おきに通って空気を流す。

走行音は、都会で聞くそれとは比べられないほど目立って聞こえた。

レストランと書かれた窓を覗くと、雑多に椅子が散乱している。

一箇所だけ見つけた土産屋の奥で、雪解けと眩しい空の下、湯気を立てる大きな鍋が映える。慣れた手つきで味噌汁をすくう店員の手もまた、枯葉のように萎びている。

大量の味噌汁が鍋に入れてある。この味噌汁の行き場は人間の胃袋ではない気がした。

ビール腹を拵えた漬物屋の店主は、時折くるお客に丁寧に話しかけている。「また来てください」と言った後、彼にとって当たり前になった文化遺産を見つめるその表情は孤独に慣れたシャッター街を歩く老人と似ていた。

帰りのバスを待ちながら地域独特の音で発せられる日本語の響きに耳を澄ますと、嫌な顔せずに受け答えをする事務員の笑い声が聴こえてきた。

暖かい人のかおりから想像がつかないほどに、北の地に吹き付ける風は冷たい。

深く吹き付ける風に早く帰れと言われている気分だった。

ここで生まれ過ごした短く浅い歴史を持つ人間が必死に勉強して巣立った先は、満員電車なのだろうか。

自動でドアが開く日々の中で、さっさと降りろと大多数に急かされ続けて、ホームのゲロを避けながら帰宅するここ出身の人間は一体いくらいるのだろうか。

都会の整備されたレールには肉の破片が数日おきに飛び散る。

いてもいなくても変わらない世界

レールにこびりつく肉片も、雑草も、結局何も変わらないのかもしれない。