ダブルベッドの上で、身体を押さえつけながら幸せそうな顔をして私を舐め回して蠢く彼の表情は、少年が昆虫を捕まえた時のように無邪気で、全身がぞくぞくした。

セックスを餌とする男と、恋愛の話を一切しなくても成立した数年間がとてつもなく物珍しかった。

2年前、季節外れの海岸沿いで、永遠に連なった東北の雪のような真っ白い肌と、透かすと薄くなるビー玉のようなツルツルした目、海岸に靡くふわふわな猫毛、優しい柔軟剤の香りが、無垢で、潔白で、恐ろしいほど私の心を癒してくれた。


「あの日、めちゃくちゃエッチしたかった」

震える手で出したお金で入ったラブホテルの薄暗い照明に向かって彼はそんな発言をした。

セックスをする勇気もない男に失望したあの日、まずい酎ハイを飲んで動物的感情と葛藤しながら出した彼の「しない」という決断を100%無碍にしていた。本当に失望しなければならないのは間違いなく自分自身の方だ。

やはり彼も他と同様に、身体を交わし、食い尽くしたら他のメスへ寄生するのだろうか。

3畳も満たないカラオケボックスの監視カメラの下で緊張して出した「未来なんて分からないから」という解は今後どのように発展するのだろう。

幼い子がクレヨンで描いたような分かりやすい晴天下を歩いていたら、昨日は伸び伸びしていたであろうミミズがひっそりと干からびているところを見たことがある。こんな未来にミミズは気付いていたのだろうか。

自覚のない場所で状況は余儀無く変化する。半分アスファルトに摺り込まれた無残なミミズを悲観するあの頃の私は、残酷にも己もまたミミズであることを知る由もなかった。