「過去の記憶は美化される」という脳の構造をこれほど恨んだことはあっただろうか。


夜の暗闇の中、一緒に眠る彼は私の涙にいち早く気付いた。彼は誰よりも変化に敏感で、誰よりも人の気持ちを汲み取ることに長けていたのだ。あの日の出来事は、暗闇の絶望に反して、その救いの手が一筋の光が射したように感じたのだった。
 

嫌だった想いはいつのまにか脳の中で片隅に追いやられ、そしてそれはいつの日か灰のように散っていく。


蘇ってくる想い出は全て一枚一枚丁寧にラミネート加工された写真のように鮮明に、眩しいくらい清らかに浮かび上がる。


人を思いやるようで実は自己欲求を満たす彼を見透かしてしまう自分が憎い。そして過去のあの人は自己欲求を満たすようで人を思いやることを残酷にも私の心は覚えている。


年齢を重ねるとともに美しい思い出は今以上に募っていくのだろうか。


だとしたら、「早く死にたい」と、毎日のように土色の唇から発せられる祖母の言葉が妙に意味のあるものに感じてきてそれはそれは悍ましいのだ。