昔から書いている日記がある。

小さな頃に買った当時お気に入りだったキャラクターの、可愛らしい絵が書いてある小学生向けの小さなノート。そこには私の歴史がぎっしりと詰まっている。

見返すと、はじめの方は小学生らしい字体で、かつて好きだったテレビ番組やアニメ、流行っていた服や両親との思い出などが書かれていた。
 
ページをめくるに連れていつの間に小学生を卒業し、中学生になると部活動の悩み、受験のことなど、これもまた中学生らしい文章が当時の字体で記されている。

右ページに進むと時代が変化し、様々な私が見れる不思議なノートを手にして、ノスタルジックな気持ちに浸されながらページは進み、ついに私は高校生になっていた。

高校生の私は今の私に近い位置で静かに頭を悩ませていた。主論は大学進学のこと。


留学から帰ってきたあの時の私は周囲の変わり果てた様子に愕然としていた。
朝から死んだように勉強するクラスメイト。毎日遅刻ばかりしていた彼女も、朝から看護系の大学に行くためにご飯片手に勉強していた。


高校1年生だった頃、教室のドアを開けると、そこには教室という大きさでは納まらないくらい大きな世界が広がっていた。毎日元気に挨拶を交わし、昨日のテレビ番組の話、SNSの話、小テストの話、教師の話、ごちゃごちゃと賑やかに盛り上がっている教室に飛び込んでひたすら笑いあった日々。ドアを開けるたびに広がる教室の明るい雰囲気。16歳だった私は、紺色の地味な制服とは裏腹に鮮やかで派手やかな生活を送っていた。


海外から帰国後、その生活は一変してしまった。


思えばあの頃から私は今もまだあの教室に1人取り残されているのかもしれない。

誕生日を盛大に祝ってくれるクラスメイトも、授業を早く終わらせようと必死なクラスメイトも、遅刻ばかりするクラスメイトも、教師にめいいっぱい反抗するクラスメイトも、ちょっとオマセなクラスメイトも、勉強が得意なクラスメイトも


みんなみんな変わってしまった。成長してしまった。

流行っていた青春映画に憧れるあの頃も
男の子が分からなかったあの頃も


時代は変化し、青春映画に出演していた高校生役の役者も今では社会人役が相応しいと感じるほど老けてしまった。

男の子はさらに分からなくなり、欲と欲が渦巻く中で、青かった私は黒く染まってしまった。



こんな時代を乗り越え、寂寥感にかわれながらも必死に勉強し、大学に合格した私は日記にペンを走らせたのであろう。


そこには


今の大学で正しかったのか大変悩んだが、自分の選択に今は満足している。未来の私が悩んだら是非この日記を見返してほしいが、「私」は意外にも大きなことを乗り越えられる力がある。どうか自分を信じてほしい。過去の私は今の私を、今の私は未来の私をより良くしていこうと努力を重ねれば良いことが待っている。


といった内容の文章が書かれていた。


これを久しぶりに読み返し、私にとって激動の時代を乗り越え、大きく成長した18の自分をまずは讃え、しかしながらそれとは真逆に悪い方向に染まって行く今の私に叱咤を入れたい気持ちになった。


どの時代の自分が正しいのかという問いに答えはない。
人間は今しか生きれない生き物だ、という言葉をどこかの著名人が残したらしいが、それは強ち間違いではない。



ただし、時々過去を振り返ってほしい。
過去の自分は自分の人生の最大の教科書であり、そしてそこから学べるものはどんな自己啓発本よりも効果があるのである。1人1人違う人間だからこそ家族や友人やアドバイザーや占い師よりもきっと自分を形成する歴史は、優れた取扱説明書となりうるのである。







過去の私にごめんなさい。