読書会があって本を楽しむ仲間がいるから

たとえ長い本であっても読めます。

 

 

 

先日の読書会の本はこちら

 

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「砦」

モリー・ハンター 作

田中明子 訳

評論社

 

 

 

二千年前のケルトの世界。

ローマ人の襲撃から部落を守るため、

防御のための完璧な石の砦を考案した若者コルをめぐる、

愛と冒険の物語。●カーネギー賞受賞作品

 

 

この作品は

「はじめに」に書かれているのですが、

作者モリー・ハンターが

「ブロッホ」という名前の

頑丈な建造物の中で

物語を思いついてできた本です。

 

 

 

 

「ブロッホ」は

紀元前1世紀の中頃から紀元後1世紀末に

建てられたといわれる建造物です。

 

 

スコットランド北部とその沿岸からへだたった島々に見られ、

最初に建てられたのはオークニー諸島ではないかと考えられています。

 

現存するブロッホは500以上あるらしく

 

そして、その建物はどれも全て同一の

設計に従って造られているそうです。

 

 

建てられた時代を考えると

ローマ海軍がスコットランド北部の沿岸地帯を

襲って奴隷狩りを行っていた頃ではないかと推測されているそう。

 

 

襲ってくるローマ軍から

自分達を守るための「ブロッホ=砦」を

作った無名の天才を

作者である

モリー・ハンターが思い描き、できた作品です。

 

 

 

ブロッホに思い巡らせ

それを作品にした

モリー・ハンターがすごいよね、と

読書会でも話題になりました。

 

 

1人の方が

オークニー諸島で崩れたブロッホを見たことが

あるそうで

その方がおっしゃるにはシェットランド島には立派なのが残っている

そうです。

 

 

そこから読書会会場のお宅にある蔵書の

ケルトに関する本などを参考にしながら

感想などを述べ合いました。

 

 

 

 

 

 

 

主人公コルは

幼少時にローマ軍が来襲した際、

父は殺され、

母は弟と共に奴隷船に連れていかれ、

本人もケガを追って足に障害が残ります。

 

彼は

彼がいる部族の部族長であるネクタン、そしてその妻に

彼らの子供たちと共に育てられます。

 

 

一方、母と奴隷船で連れていかれた

当時赤子だった弟ブランは

母がアザラシのマントを細く割いて

こしらえた網代船に乗せられて

入江に流れ着き、

奇跡的に命が助かり、

 

海神リアの天意を受けた子として

ドルイド(ケルト民族の祭司)として

育てられます。

 

 

血が繋がる兄弟は

それぞれの別々の場に身を置き、

成長し、

コルが18歳、

ブランが14歳になり

 

 

それぞれのいるところが

互いにぶつかりあう時に

彼らは繋がり、それぞれの天命を果たしていく。

 

 

若いものたちが

懸命にその時を生きていく様、

その感情や行動が本当に生き生きと

描かれていました。

 

 

ここまで書いて

物語を回想すると

兄弟としての時間を

無邪気な時間を

もっと持てたらよかったのに

と思ってしまいます。

 

 

誰かの命の上には

誰かの命の犠牲が伴うこともあって

 

 

死が

今私たちが生きている世界よりも身近で

だから

生が

尊く、

けれども脆く、

 

だからこそ生きているその瞬間が

光を放っていたのかもしれないなあと

思ったりします。

 

 

 

 

 

主人公コルはローマ軍襲来で

受けたケガにより足が不自由になりました。

 

コルは

自分が受けた恐怖の(襲撃の)を夢の中で何度も見るほど

ローマ人の襲撃を恐れています。

 

 

どうやったら自分自身の身を守れるか、

防御の方法として

砦(ブロッホ)=避難場所の建築の構想を練り続けて十数年。

足が不自由になってからずっと砦のことを考えてきました。

 

 

恐れが力となり、彼に砦を作らせようとします。

 

 

 

そんなに力が湧くような事を

私はしたことがあるだろうかと振り返ると、

中途半端な私は成し遂げたこととかない…

 

それも少々恥ずかしいとも思うけれど、

 

成し遂げなくてはならない

命に脅かされることのない世界に

身を置いてきたのだと実感します。

 

 

 

コルの提案で

建築が進められる砦は

大人も子供も部族総出で

建てられていきます。

 

海岸から砦の建設に必要な

大小さまざまな石をみんなで運ぶ。

 

8階建ての建物が

人力で建てられたのです。凄いとしか言いようがありません。

 

作るのに時間がかかったことも

本を読み進めていくうちに感じることができました。

 

 

そうやって完成した砦のローマ海軍に

対してどのような結果をもたらしたのかは

本を読んでもらったらわかります。

 

 

 

 

この物語には

女性たちの活躍も描かれています。

 

 

「砦」に出てくる女性は

族長のコルタンの妻、アヌ、

 

そして。

コルと一緒に成長した族長の2人の娘、

クロダとファンド。

 

 

女性たちが

いざという時

力強くて

 

 

この女たちがカッコよかったです。

 

 

3人とも

部落の族長の家族としての

品格を持っているし

 

そして、愛情深いし

真っ直ぐに愛する人を

観る目を持っていて

 

時に

覚悟を決めている。

 

カッコよかったです。

 

 

 

 

 

ドルイドのこととか

生贄の話とか

書きたいことはあるけれど

まとまりがなくなりそうなのでやめます^^;

 

 

 

 

 

好きなシーンは

砦の真ん中でコルとファンドの会話のシーン

「ぼくの砦がぼくにとって何を意味してきたのかを。ものごころつくころから、

ぼくは力と端正な容姿を崇める人々の間で、障害を持つ者として暮らしてきた。

ぼくにあるものといえば、砦を作る夢だけだった。

だけどその夢自体がぼくにとっては砦だったんだよ、ファンド。

何ものにもそれを壊すことはできず、いかなる敵もそれをぼくから取り上げることはできなかった。

ぼくはぼくの夢の中で生きておれば安全で安心だった。

ぼくにとっては、砦の夢が、ぼくに欠けている力で愛、容姿の端正さだった。

それは完全でありいつまでも持ちこたえ得るものだったから。」(p253)

 

 

 

 

そして、

ファンドに想いを伝え、

 

安全で安心の中で得られる幸せを

獲得するであろう時、

今まで声を出して笑ったことのなかったコルが

笑う。

 

 

安全安心があること、

そして

愛する者がいてくれることで

生まれる力、

 

コルの恐れからの脱出と

心の平穏が訪れることを

心から良かったと思えるのでした。

 

 

 

読書会が終わってから

1週間経ってからこの記事を

書いていますが、

今再び振り返ると

「砦」の物語が私の中に戻ってきて

 

さまざまな登場人物に再びいろいろな思いを馳せることが

できて色々なことを考えてしまう。

 

今回も良い本と出会ったなあ〜。

心からそう思います。

 

 

ただ、

この表紙、

雰囲気を醸し出していると思うけど

崇高な雰囲気があるというか、

少々敷居が高い感じがして

手を伸ばしにくいと思うのは私だけかな?

 

 

 

兎にも角にも

とっても良い本!

大人でも読み応えある本なので

良かったら手にとってみてください!!!

 

 

ブロッホ、自分の目で見てみたいな。

 

 

 

追記

訳は田中明子さん

指輪物語を瀬田貞二さんと共訳された方なのですね