文学部100周年記念雑誌 掲載用原稿


内容は以下。

昨年11月に開催された講演会について。


講師: ジャン=フィリップ・トゥーサン(作家・映画監督)

通訳: 東京大学大学院人文社会系研究科・文学部仏文科准教授 野崎歓氏

司会: 澤田直先生


ジャン=フィリップ・トゥーサン自作を語る

「旅行・移動論―テクストとイマージュ」


作家であり、自身の作品を映像化する映画監督、ジャン=フィリップ・トゥーサン氏による講演会が開催されました。本講演は、澤田直氏(本学文学部教授)司会、野崎歓氏(東京大学大学院人文社会系研究科・文学部仏文科准教授)通訳のもと、「旅行・移動論―テクストとイマージュ」をテーマに展開されました。

当初、氏の作品において場所や地理的条件はさほど重要ではありませんでした。しかし、日本を舞台とした『愛しあう』や、中国にて展開される『逃げる』のように、しだいに場所や旅行、移動といったテーマが意味を増していったといいます。

幾度も来日経験があり、親日家でも知られる彼が小説『愛しあう』にて試みたのは、日本やそこでの生活を自身で再構築すること。彼にとっての創作の努力は、眼前の光景から想起されるイマージュを描くことで、そのためにはその場で描くことをせず、自ら撮影した写真を基に創作を行うのだそうです。時間の経過した、離れた場所から描くことにより、現実と虚構の間にあるものを描くのです。この距離を保つことが重要だといいます。

このような小説の創作方法に対し、映画のそれは全く異なる点が印象的でした。小説において必要な時間の経過や距離が、映画では介在しません。彼は自作の小説を自ら映画化していますが、同じ作品でも、小説と映画は全く別の次元の表現方法であったと語ります。本講演にて上映された最新作の短編映画『逃げる』では、流れるように溢れる色彩鮮やかな光の鮮烈さに目を奪われました。

一般的に作家が自身の作品を映像化する場合、小説の内容に沿って、その文章の正確な映像化を目的とするように思われます。言葉で表現したものを如何に映像で切り取るかを問題とするのではないでしょうか。しかし氏は、小説と映画、どちらも同じ主題を扱い、同じストーリーに沿いながらも、互いに切り離した作品として捉えているようです。とはいえ、目的は互いに共通しています。それは、現実と虚構の間にあるイマージュを描くことで、開かれた作品を創作しようとする点です。

フィクションとノンフィクションの混在した世界を描き出すジャン・フィリップ・トゥーサン氏の活動に、今後も目が離せません。