新国立劇場 ヴェルディ『ナブッコ』
新国立劇場開場15周年記念公演
ジュゼッペ・ヴェルディ作曲
『ナブッコ』
指揮◇パオロ・カリヤーニ
演出◇グラハム・ヴィック
出演◇ ルチオ・ガッロ、マリアンネ・コルネッティ、コンスタンティン・ゴルニー、樋口達哉、谷口睦美、安藤赴美子、内山信吾、妻屋秀和 ほか
●5月19日、22日、25日、29日、6月1日、4日◎新国立劇場 オペラハウス
〈料金〉S席26.250円 A席21.000円 B席14.700円 C席8.400円 D席5.250円 Z席1.500円
〈問合わせ〉新国立劇場ボックスオフィス 03-5352-9999
http://www.atre.jp/13nabucco/index.html
演劇キック
観劇予報より
新国立劇場のオペラ公演『ナブッコ』が5月19日に初日の幕を開けた。斬新で衝撃的な舞台である。
ジュゼッペ・ヴェルディが28歳で書いたこのオペラは、1842年にミラノ・スカラ座で初演されるや大成功を収め、ヴェルディは、その名をイタリア中に轟かせることになった。
題材は旧約聖書の「バビロン捕囚」から取っていて、バビロニアに囚われたヘブライ人たちが望郷への思いを歌う感動的な合唱曲「ゆけ、わが思いよ、黄金の翼にのって」は、初演当時、オーストリアの圧政下にあったイタリア人に熱烈に支持され、イタリア第二の国歌といわれるほど親しまれている。
今回の演出は英国のグラハム・ヴィック。現代社会を意識した大胆な読み替えと、ビジュアル・スペクタクルで観客につねに刺激を与えることで知られている彼が、日本の新国立劇場でのオリジナル演出に取り組んで、まさに新鮮で現代的な『ナブッコ』を作りあげている。
まずオープニングから舞台美術に目を惹きつけられる。客入れ時にすでに幕が上がっている舞台は、ソロモン神殿ならぬ現代のショッピングセンターの内部で、上手側には長いエスカレーターがある。それが繋いでいる2つの階に、三々五々買い物中のヘブライ人たちが集まってきて、現代の日常風景のなかで物語が始まる。
ナブッコ率いるバビロニア軍の襲来が告げられ、それによって一気に崩れていく日常、その迫り来る戦争の恐怖の表現がすさまじい。「導入曲」に乗せて恐怖が表現されるのだが、コンテンポラリーダンスのねじれたような動きや震え、歪んだ形などが取り入れられていて、ヘブライ人たちの嘆きや混乱が観客に生々しく突き刺さってくる。このダンス表現に代表される"動き"のインパクトはこの舞台の特色で、バビロニア軍のゲリラが天井からロープで降りてきたかと思えば、階下から飛び出てきたりと、空間の上下をフルに活用してみせる。
衣裳や小道具も凝っていて、ヘブライ人はモノトーンや落ち着いた色合いでスタンダード。バビロニアの軍隊はパンキッシュで毒々しいカラー、それが侵入軍の禍々しさをよりいっそう際立たせる。
小道具として出色なのが紙のショッピングバッグで、ヘブライの女性たちの帽子風になったかと思えば、後半では処刑場に向かう囚人たちの目隠しになる。
これらを手がける舞台美術・衣裳のポール・ブラウンのアイデアとセンスは、奇抜だが物語世界とテーマをよりわかりやすく伝える役割りも果たしていて、たとえばバビロニア軍が祀るベル神の頭部は巨大なキューピーで、彼らの偶像崇拝をカリカチュアするという具合になっている。
【物語】
バビロニア王のナブッコはイェルサレムを侵略しようとしている。ナブッコにはアビガイッレとフェネーナという2人の娘がいるが、アビガイッレはナブッコが奴隷に産ませた娘だった。一方、イェルサレムの大祭司ザッカーリアはフェネーナを人質にとっていたが、フェネーナを愛するイェルサレム王の甥イズマエーレにより彼女は解放され、攻め入ってきたバビロニアは勝利をおさめる。だが、自らを神と宣言したナブッコは稲妻に打たれ正気を失い、王座をアビガイッレに奪われてしまう。アビガイッレは父を幽閉し、ヘブライ人とフェネーナの処刑を命じる。正気を取り戻したナブッコはヘブライの神に許しを乞い、フェネーナを救出、ヘブライ人を解放する。その戦いの中でアビガイッレは許しを求めながら自害する。
タイトルロールのナブッコを演じるのはルチオ・ガッロ。09年『オテロ』のイアーゴをはじめ新国立劇場のオペラではすっかりお馴染みだが、今回はそのドラマティック・バリトンの魅力を生かして、正気と狂気を行き来するナブッコの内面を鮮明に伝えてくる。錯乱から目覚めて「ユダの神よ」と祈るアリアはナブッコの精神性を感じさせて感動的だ。
国家への野心と父への憎しみと抱くアビガイッレには、3月の『アイーダ』でアムネリスを印象的に演じたマリアンネ・コルネッティ。感情を叩きつけるような曲が多いアビガイッレ役だが、卑しい生まれを知って歌うアリアの嘆きや復讐心、2部で父と対峙しての二重唱は聴きどころだ。また死を前にしたアリアは切なく可憐でさえあって、豊かな感情表現と幅広い歌声で観客を魅了する。
ヘブライの預言者・ザッカーリア役はロシア人バスのコンスタンティン・ゴルニーで、民衆に信仰を思い出させるカヴァティーナや、囚われのなかで「バビロニアの崩壊」を預言するソロなど、その確かな実力で重要な場面を引っ張っている。
ヘブライ王の甥であるイズマエーレには日本を代表するテノールのひとり樋口達哉が扮し、姉妹の両方から愛される男性にふさわしい甘い魅力を発揮。また3人の三重奏ではフェネーナへの愛を力強く歌ってみせる。
フェネーナには谷口睦美、新国立劇場では『カルメン』のタイトルロールを演じたこともあるメゾソプラノで、清楚な中に芯の強さを秘めたフェネーナ役を、美しい容姿と伸びやかな歌唱で演じている。
そのほかにナブッコに仕えるアブダッロの内山信吾や、アビガイッレを担ぎ出すベル神の祭司長の妻屋秀和、ザッカーリアの妹アンナの安藤赴美子などがこの物語を深める大きな存在感を出している。
そして、なんといっても『ナブッコ』の魅力を支えているのは劇中に多く登場する合唱で、代表的な「ゆけ、わが思いよ、黄金の翼にのって」は、静かな嘆きから祖国への愛へと次第に高まっていく歌声で、深く心に染みる。そのほかにも幕開きの侵略者への恐怖や、ザッカーリアの預言に続く祈りなど、ヘブライの民の心が揺れ動くさまを、80人の新国立劇場合唱団がダイナミックに伝えてくる。また、合唱団のほかにスタントや助演で28人が参加、スタントのアクロバティックな技術は、戦いに強いアクセントを加えている。
指揮はイタリアの名匠カリニャーニで、テンポよくドラマティックな演奏で、演出の意図をさらに効果的に盛り上げる。
過激でカラフル、猥雑さとスタイリッシュさが綯い交ぜになったヴィックの演出空間で演じられる今回の『ナブッコ』、現代演劇にも通じる時代への鋭い感性と表現に満ちていて、実に刺激的であ
次回公演は『コジ・ファン・トゥッテ』
新国立劇場オペラの次回は、6月3日から『コジ・ファン・トゥッテ』を上演。
『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』を手掛けたモーツァルト&ダ・ポンテの黄金コンビによる最後の作品『コジ・ファン・トゥッテ』。女性の貞節を確かめるために2組のカップルが恋人を交換するという恋愛喜劇を、新鮮な現代ドラマとして描き、大きな話題を巻き起こしたミキエレット演出が再び登場する。
近年世界再注目の演出家となったミキエレットは、現代の若者が集まる夏のキャンプ場に舞台を設定、美しい森の中、光溢れる昼から官能的な夜へと時が進むにつれ移りゆく恋人たちの心象風景を見事に表現し、大絶賛を博した。今回はキャストを一新して、今が旬の歌手による天上のアンサンブルとなる。
ウィーン国立歌劇場、メトロポリタン歌劇場、バイエルン州立歌劇場などでフィオルディリージ役を歌っているミア・パーション、07年にオペラデビュー以来、そのリリックな美声と甘いマスクでスター街道を歩んでいる期待の若手イタリア人テノール、パオロ・ファナーレなど、歌唱力のみならず、容姿と演技力も兼ね備えた世界から選りすぐりの若手歌手らを迎える。指揮は、11年『蝶々夫人』の素晴らしいタクトさばきで日本の聴衆に鮮烈な印象を残したイヴ・アベル。
【あらすじ】
18世紀末のナポリ。青年士官のグリエルモとフェルランドは、美しい姉妹フィオルディリージとドラベッラとそれぞれ婚約を交わしている。二人は老哲学者のドン・アルフォンソにそそのかされて女性の愛が永続的に信頼しうるかどうか、議論をする。アルフォンソは永続する愛など虚像にすぎないのだと二人を諭すが、若者たちは恋人の貞節について「信頼しうる」方に賭けることになった。まず、フェルランドとグリエルモは戦場に出征するふりをして偽りの別れを演じる。その後、二人はアルバニア人に変装して、姉妹を熱烈に口説く。最初は相手にしなかった姉妹だが、小間使いのデスピーナによるさばけた恋の指南も手伝ってか、あの手この手のプロポーズ攻撃に次第に心が揺らいでいく。まず、ドラベッラが姉の婚約者グリエルモに陥落し、ついにフィオルディリージも激しい葛藤の末フェルランドの手に落ちる。「女はみんなこうしたもの」とほくそえむドン・アルフォンソ。新しい二組のカップルの結婚式が行われているところに突如軍隊の帰還が告げられる。変装した男二人はもとの士官の姿に戻って姉妹の前に現れ、恋人の不貞を詰問。姉妹は許しを乞いドン・アルフォンソの種明かしで四人はもとの鞘に収まり、理性を讃えて幕となる。
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
『コジ・ファン・トゥッテ』
指揮◇イヴ・アベル
演出◇ダミアーノ・ミキニエレット
出演◇ミア・パーション、ジェニファー・ホロウェイ、天羽明恵、パオロ・ファナーレ、ドミニク・ケーニンガー、マウリツィオ・ムラーロ ほか
合唱◇新国立劇場合唱団
管弦楽◇東京フィルハーモニー交響楽団
●6/3、6、9、12,15◎新国立劇場 オペラハウス
〈料金〉S席¥23,100 A席¥18,900 B席¥12,600 C席¥7,350 D席¥4,200(全席指定・税込)
http://www.nntt.jac.go.jp/opera/
【取材・文/榊原和子 舞台写真◇三枝近志 】
ジュゼッペ・ヴェルディ作曲
『ナブッコ』
指揮◇パオロ・カリヤーニ
演出◇グラハム・ヴィック
出演◇ ルチオ・ガッロ、マリアンネ・コルネッティ、コンスタンティン・ゴルニー、樋口達哉、谷口睦美、安藤赴美子、内山信吾、妻屋秀和 ほか
●5月19日、22日、25日、29日、6月1日、4日◎新国立劇場 オペラハウス
〈料金〉S席26.250円 A席21.000円 B席14.700円 C席8.400円 D席5.250円 Z席1.500円
〈問合わせ〉新国立劇場ボックスオフィス 03-5352-9999
http://www.atre.jp/13nabucco/index.html
演劇キック
観劇予報より
新国立劇場のオペラ公演『ナブッコ』が5月19日に初日の幕を開けた。斬新で衝撃的な舞台である。
ジュゼッペ・ヴェルディが28歳で書いたこのオペラは、1842年にミラノ・スカラ座で初演されるや大成功を収め、ヴェルディは、その名をイタリア中に轟かせることになった。
題材は旧約聖書の「バビロン捕囚」から取っていて、バビロニアに囚われたヘブライ人たちが望郷への思いを歌う感動的な合唱曲「ゆけ、わが思いよ、黄金の翼にのって」は、初演当時、オーストリアの圧政下にあったイタリア人に熱烈に支持され、イタリア第二の国歌といわれるほど親しまれている。
今回の演出は英国のグラハム・ヴィック。現代社会を意識した大胆な読み替えと、ビジュアル・スペクタクルで観客につねに刺激を与えることで知られている彼が、日本の新国立劇場でのオリジナル演出に取り組んで、まさに新鮮で現代的な『ナブッコ』を作りあげている。
まずオープニングから舞台美術に目を惹きつけられる。客入れ時にすでに幕が上がっている舞台は、ソロモン神殿ならぬ現代のショッピングセンターの内部で、上手側には長いエスカレーターがある。それが繋いでいる2つの階に、三々五々買い物中のヘブライ人たちが集まってきて、現代の日常風景のなかで物語が始まる。
ナブッコ率いるバビロニア軍の襲来が告げられ、それによって一気に崩れていく日常、その迫り来る戦争の恐怖の表現がすさまじい。「導入曲」に乗せて恐怖が表現されるのだが、コンテンポラリーダンスのねじれたような動きや震え、歪んだ形などが取り入れられていて、ヘブライ人たちの嘆きや混乱が観客に生々しく突き刺さってくる。このダンス表現に代表される"動き"のインパクトはこの舞台の特色で、バビロニア軍のゲリラが天井からロープで降りてきたかと思えば、階下から飛び出てきたりと、空間の上下をフルに活用してみせる。
衣裳や小道具も凝っていて、ヘブライ人はモノトーンや落ち着いた色合いでスタンダード。バビロニアの軍隊はパンキッシュで毒々しいカラー、それが侵入軍の禍々しさをよりいっそう際立たせる。
小道具として出色なのが紙のショッピングバッグで、ヘブライの女性たちの帽子風になったかと思えば、後半では処刑場に向かう囚人たちの目隠しになる。
これらを手がける舞台美術・衣裳のポール・ブラウンのアイデアとセンスは、奇抜だが物語世界とテーマをよりわかりやすく伝える役割りも果たしていて、たとえばバビロニア軍が祀るベル神の頭部は巨大なキューピーで、彼らの偶像崇拝をカリカチュアするという具合になっている。
【物語】
バビロニア王のナブッコはイェルサレムを侵略しようとしている。ナブッコにはアビガイッレとフェネーナという2人の娘がいるが、アビガイッレはナブッコが奴隷に産ませた娘だった。一方、イェルサレムの大祭司ザッカーリアはフェネーナを人質にとっていたが、フェネーナを愛するイェルサレム王の甥イズマエーレにより彼女は解放され、攻め入ってきたバビロニアは勝利をおさめる。だが、自らを神と宣言したナブッコは稲妻に打たれ正気を失い、王座をアビガイッレに奪われてしまう。アビガイッレは父を幽閉し、ヘブライ人とフェネーナの処刑を命じる。正気を取り戻したナブッコはヘブライの神に許しを乞い、フェネーナを救出、ヘブライ人を解放する。その戦いの中でアビガイッレは許しを求めながら自害する。
タイトルロールのナブッコを演じるのはルチオ・ガッロ。09年『オテロ』のイアーゴをはじめ新国立劇場のオペラではすっかりお馴染みだが、今回はそのドラマティック・バリトンの魅力を生かして、正気と狂気を行き来するナブッコの内面を鮮明に伝えてくる。錯乱から目覚めて「ユダの神よ」と祈るアリアはナブッコの精神性を感じさせて感動的だ。
国家への野心と父への憎しみと抱くアビガイッレには、3月の『アイーダ』でアムネリスを印象的に演じたマリアンネ・コルネッティ。感情を叩きつけるような曲が多いアビガイッレ役だが、卑しい生まれを知って歌うアリアの嘆きや復讐心、2部で父と対峙しての二重唱は聴きどころだ。また死を前にしたアリアは切なく可憐でさえあって、豊かな感情表現と幅広い歌声で観客を魅了する。
ヘブライの預言者・ザッカーリア役はロシア人バスのコンスタンティン・ゴルニーで、民衆に信仰を思い出させるカヴァティーナや、囚われのなかで「バビロニアの崩壊」を預言するソロなど、その確かな実力で重要な場面を引っ張っている。
ヘブライ王の甥であるイズマエーレには日本を代表するテノールのひとり樋口達哉が扮し、姉妹の両方から愛される男性にふさわしい甘い魅力を発揮。また3人の三重奏ではフェネーナへの愛を力強く歌ってみせる。
フェネーナには谷口睦美、新国立劇場では『カルメン』のタイトルロールを演じたこともあるメゾソプラノで、清楚な中に芯の強さを秘めたフェネーナ役を、美しい容姿と伸びやかな歌唱で演じている。
そのほかにナブッコに仕えるアブダッロの内山信吾や、アビガイッレを担ぎ出すベル神の祭司長の妻屋秀和、ザッカーリアの妹アンナの安藤赴美子などがこの物語を深める大きな存在感を出している。
そして、なんといっても『ナブッコ』の魅力を支えているのは劇中に多く登場する合唱で、代表的な「ゆけ、わが思いよ、黄金の翼にのって」は、静かな嘆きから祖国への愛へと次第に高まっていく歌声で、深く心に染みる。そのほかにも幕開きの侵略者への恐怖や、ザッカーリアの預言に続く祈りなど、ヘブライの民の心が揺れ動くさまを、80人の新国立劇場合唱団がダイナミックに伝えてくる。また、合唱団のほかにスタントや助演で28人が参加、スタントのアクロバティックな技術は、戦いに強いアクセントを加えている。
指揮はイタリアの名匠カリニャーニで、テンポよくドラマティックな演奏で、演出の意図をさらに効果的に盛り上げる。
過激でカラフル、猥雑さとスタイリッシュさが綯い交ぜになったヴィックの演出空間で演じられる今回の『ナブッコ』、現代演劇にも通じる時代への鋭い感性と表現に満ちていて、実に刺激的であ
次回公演は『コジ・ファン・トゥッテ』
新国立劇場オペラの次回は、6月3日から『コジ・ファン・トゥッテ』を上演。
『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』を手掛けたモーツァルト&ダ・ポンテの黄金コンビによる最後の作品『コジ・ファン・トゥッテ』。女性の貞節を確かめるために2組のカップルが恋人を交換するという恋愛喜劇を、新鮮な現代ドラマとして描き、大きな話題を巻き起こしたミキエレット演出が再び登場する。
近年世界再注目の演出家となったミキエレットは、現代の若者が集まる夏のキャンプ場に舞台を設定、美しい森の中、光溢れる昼から官能的な夜へと時が進むにつれ移りゆく恋人たちの心象風景を見事に表現し、大絶賛を博した。今回はキャストを一新して、今が旬の歌手による天上のアンサンブルとなる。
ウィーン国立歌劇場、メトロポリタン歌劇場、バイエルン州立歌劇場などでフィオルディリージ役を歌っているミア・パーション、07年にオペラデビュー以来、そのリリックな美声と甘いマスクでスター街道を歩んでいる期待の若手イタリア人テノール、パオロ・ファナーレなど、歌唱力のみならず、容姿と演技力も兼ね備えた世界から選りすぐりの若手歌手らを迎える。指揮は、11年『蝶々夫人』の素晴らしいタクトさばきで日本の聴衆に鮮烈な印象を残したイヴ・アベル。
【あらすじ】
18世紀末のナポリ。青年士官のグリエルモとフェルランドは、美しい姉妹フィオルディリージとドラベッラとそれぞれ婚約を交わしている。二人は老哲学者のドン・アルフォンソにそそのかされて女性の愛が永続的に信頼しうるかどうか、議論をする。アルフォンソは永続する愛など虚像にすぎないのだと二人を諭すが、若者たちは恋人の貞節について「信頼しうる」方に賭けることになった。まず、フェルランドとグリエルモは戦場に出征するふりをして偽りの別れを演じる。その後、二人はアルバニア人に変装して、姉妹を熱烈に口説く。最初は相手にしなかった姉妹だが、小間使いのデスピーナによるさばけた恋の指南も手伝ってか、あの手この手のプロポーズ攻撃に次第に心が揺らいでいく。まず、ドラベッラが姉の婚約者グリエルモに陥落し、ついにフィオルディリージも激しい葛藤の末フェルランドの手に落ちる。「女はみんなこうしたもの」とほくそえむドン・アルフォンソ。新しい二組のカップルの結婚式が行われているところに突如軍隊の帰還が告げられる。変装した男二人はもとの士官の姿に戻って姉妹の前に現れ、恋人の不貞を詰問。姉妹は許しを乞いドン・アルフォンソの種明かしで四人はもとの鞘に収まり、理性を讃えて幕となる。
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
『コジ・ファン・トゥッテ』
指揮◇イヴ・アベル
演出◇ダミアーノ・ミキニエレット
出演◇ミア・パーション、ジェニファー・ホロウェイ、天羽明恵、パオロ・ファナーレ、ドミニク・ケーニンガー、マウリツィオ・ムラーロ ほか
合唱◇新国立劇場合唱団
管弦楽◇東京フィルハーモニー交響楽団
●6/3、6、9、12,15◎新国立劇場 オペラハウス
〈料金〉S席¥23,100 A席¥18,900 B席¥12,600 C席¥7,350 D席¥4,200(全席指定・税込)
http://www.nntt.jac.go.jp/opera/
【取材・文/榊原和子 舞台写真◇三枝近志 】