『なんぞころびやおき　地球慕情篇』

(29)

峠杣一日・著

何処(どこ)も彼処(かしこ)も、脳足(なうた)りんの阿呆許(あはうばか)り。

「やれやれぢゃわい」

しばし、町を散策(さんさく)してゐた兇興翁(きょうきょうをう)。

ふと懐(ふところ)に手を入れると、薬包みがある。

「はて、兇薬(きょうやく)の置き土産(おきみやげ)か？

ええい、儘(まま)よ」

訳がわからぬ儘、自棄のやん八(やけのやんぱち)で丸薬(ぐわんやく)を呑(の)んだ。

卒倒(そつとう)、死亡。

そして、木っ端微塵(こっぱみぢん)に爆発した。

「きょええええっ！」

はっと氣付くと、火神岳(ほのかみだけ)の賽の河原(さいのかはら)。

目の前には、梟(ふくろふ)の姿の兇薬が居(ゐ)る。

「戻ったかぢいさん。

どうだ、俺の丸薬の効能(かうのう)は！

ともあれ、こんな所に長居(ながゐ)は無用だ」

葈耳(をなもみ)姿の兇興翁を咥(くは)へた兇薬梟(きょうやくけう)が、月影(つきかげ)の空へ舞ひ上がる。

「むむ、いくら月夜とはいへ何だか明るいな」

実(げ)に不思議、兇薬の視界(しかい)がどんどん光で満ちてゆく。

「ううーん、眩(まぶ)しいいっ！」

「ぎょええっ！」

堪(たま)らず叫んだ兇薬、その拍子(ひゃうし)に

放(はふ)り出された兇興翁。

が、何とかキャッチ！宙返(ちうがへ)り。

兇薬梟の頭の上に、必死に引っ付く葈耳翁(をなもみぢぢい)。

全天(ぜんてん)を照らす光の正体、それは無数の、否(いな)、無限とも思はるる姫螢(ひめぼたる)の群れであった。

そして、その中に浮かび上がった天の月をも隠す巨大な影。

火神岳の先代閻王(せんだいえんわう)、地蔵尼(ぢざうに)である。

【よいこのみんなの合言葉を唱へよう♪】

〽️

いやさかえ

いのちいやちこ

さいはひよいち

まほらとこいは

みつのたま

南無あれかし大明神

南無あれかし大明神

南無あれかし大明神

つづく。

『なんぞころびやおき 地球慕情篇』(29)