『なんぞころびやおき　天球旅情篇』

⑬

峠杣一日・著

「邪魔者は帰った様で御座(ほざ)る。

いざ、布教三昧(ふけうざんまい)で御座候(ほざさうら)ふ」

兇然法師(きょうねんほふし)が、大きく伸びをし乍(なが)ら言った。

此(こ)の村を梟鏡教(けうきゃうけう)の闇黒(あんこく)に呑(の)み込まうと、狙(ねら)ひを付けて遣(や)って来たのだ。

ところが其処(そこ)には、白鷲天狗頭(しろわしてんぐかしら)の経法印(きゃうほふいん)。

こりゃ面倒(めんだう)と身を潜(ひそ)めて居(ゐ)たのである。

「所詮(しょせん)人間共は皆、多かれ少なかれ薄志(いくぢなし)の燻(くす)ぶりを持っちょる。

私(わい)の飛兇捲(ひきょうけん)で、此処の村人も一網打尽(いちまうだじん)よ」

と投擲(とうてき)の素振(すぶ)りをし乍ら、兇興翁(きょうきょうをう)が嘯(うそぶ)く。

「能書(のうが)きなんか喧(やかま)しい！

とっとと此の村、平(たひ)らげちまふんだ！

ほほほ！」

お冥(おみゃう・兇冥きよみ)の嗤(わら)ひが、鎮守(ちんじゅ)の杜(もり)に谺(こだま)する。

「待ていっ！」

裂帛一声(れっぱくいっせい)、同時にお冥の足元に純白の羽根の矢が突き立った。

やあ、経法印だ。

隠れて居るお冥達に氣付いて居たのだ。

【よいこのみんなの合言葉を唱へよう♪】

いちよあれかし、さいはひよいち。

まほらよいちそはか、南無あれかし大明神！

つづく。

『なんぞころびやおき 天球旅情篇』⑬