『なんぞころびやおき　天球旅情篇』

③

峠杣一日・著

「大宇宙と云(い)ふのは神仏(かみほとけ)だよ。

其(そ)の中に地球が生まれて、地球の中には国家(こくか)が生まれたよ。

私達一人ひとりは、国家から生まれた家(いへ)の命を生きて居(を)るんだね。

鏡の向かふの自分と見詰め合へば(※第①話参照)、好(よ)く解(わか)るね」

此処(ここ)は因幡国(いなばのくに)、天山(あめやま・氷ノ山ひょうのせん)の麓(ふもと)の村里(むらざと)。

鎮守(ちんじゅ)の森で村人達にお話をして居(ゐ)るのは、老(お)いた山伏(やまぶし)。

やあ、白鷲天狗(しろわしてんぐ)の頭(かしら)、経法印(きゃうほふいん)である。

御魂ケ島(みたまがしま)こと息瑤ノ山斎(おきたまのしま・隠岐諸島)の矢五郎(やごらう)お弓(おゆみ)夫妻(ふさい)の許(もと)で、弓の稽古(けいこ)に励(はげ)むお幽(おいう)の父だ。

「昨今(さくこん)、神仏(かみほとけ)を信じない安本丹(あんぽんたん)が見受けられるけど、すっかり心の鏡が曇(くも)っちゃって、迷妄念念(めいまうねんねん)に捲(ま)かれて居(を)るよ。

鏡は生命の象徴(しゃうちょう)だよ。

昔は水鏡(みづかがみ)だったらうけど、ともかくも其処(そこ)に見えて居(を)るのは神仏から列(つら)なる命、自(はじめ)の命だね。

神仏を信じないと云ふのは自分を信じられないと云ふ事なんだから、何とも締(し)まらない話だよ」

実(げ)に然(さ)う。

家の命を通(とほ)して現れる処(ところ)の自(はじめ)に由(よ)って立ってこその自由であり、自立と云ふものも生まれる。

自(はじめ)無き利己主義(りこしゅぎ)の如きは、迷妄念念の操(あやつ)り人形に過ぎない。

噫(ああ)、明鏡止水(めいきゃうしすい)、霊験無比(れいげんむひ)。

【よいこのみんなの合言葉を唱へよう♪】

いちよあれかし、さいはひよいち。

まほらよいちそはか、南無あれかし大明神！

つづく。

『なんぞころびやおき 天球旅情篇』③