今日はすき焼きだ。 我が家はお昼ご飯がメインだから午後12時過ぎには食べて、少し仮眠した。
まだ美味しさの余韻が残っている。
明日あたりからボツボツと短時間で外出するつもりだ。まずばリハビリ、夏の洋服って昨年は
どんなもの着ていたっけ。浮かばない。ポエム「cocoringの部屋」
頬張ればすき焼きの旨し食卓
連載小説「幸せのパズル3」4
食べたいという誘惑に駆られるとどうにも耐えられなくなった。もう限界だ…。フラフラと家を出た。死のうと思いながらも腹は自然と減る。実にくだらないが極限まで減ると思考が食べることのみに走って他のことは考えられなくなる。飢え死にしたいと思いながらも、とりあえず何か食おう。としかそんな考えしか浮かばずサンダルを突っかけてドアを開けると秋の燃えるような夕焼けが目に刺さった。
…もう限界だ…。そういえば医者が指摘したようなことはあったと、思い当たる節はいくつかある。まず電話だ。実雄は家の固定電話を取らなかった。なぜならば固定電話に掛かる要件、つまりはマンション経営の諸々、苦情など郁美が一手に引き受けていたし、主治医が何度か掛けたと言う電話もその一切は郁美が受けていたのだ。
「セカンドオピニオンを受けてますので心配入りません」
郁美はごく普通のことのようにそう言ったので医者も安心したらしい。郁美が全く食事を摂らなくなった日「悪い、私は外で友達と済ましたから悪いけど三好で何か取って食べて」頭から布団を被り実雄に背中を見せたまま辛そうに言った。そんなときなど「また、昼間っから呑んだのか」と思ったり、ふらふらと足をもたつかせて歩く郁美を見ながら「また、昼間っから呑んだんだろう」ぐらいに思ったこともある。実際、郁美のワイン好きは徹底していて、ここ一ヶ月はかなり目に余ることがあったし、まさか薬でふらついているなど思っても見なかったのだ。
「おい、良い加減にしろよ」
最近、気が合った奥さん連中と昼呑みしてる。という郁美の言葉を鵜呑みにしていたのだ。
郁美は七五歳の実雄とは一〇歳も歳が離れた奥さんで、どちらかといえばシャキシャキと外でも人に好かれるタイプだし、今までにこれと言った大病もない健康そのものの女性で、口数の少ない実雄とは馬があった。子供ができない理由は奥さんにあったので、その分、実雄は郁美に甘えていたし、郁美も実雄にはあれこれとよく世話を焼く奥さんだった。郁美が死んだ後、引き出しの中から「癌の痛みハンドブック」という冊子や、さまざまなところから取り寄せたらしい痛み止めの薬がゴロゴロと出てきた時、実雄は夫としてあまりの不甲斐なさに、死のうと決めて、郁美が飲み残したありったけの痛み止めと睡眠薬をビールで一気飲みしたが、死ねなかった。意識が戻った時、実雄は吐き散らした吐瀉物に塗れて床に転がっていたのだ。