今年の4月から,日本では成人年齢が18歳に引き下げられた。個人で契約等もできるようになった一方,トラブル(投資詐欺など)への懸念も大きいと聞いた。

 

カルト宗教やマルチ商法は,容易に孤独に付け込んでくる。孤独と言えば,引っ越し。特に海外に引っ越した場合,当然それまでの親族・友人・同僚・近所の方々と離れ,文化の違う国に住むわけなので誰だって戸惑う。 

 

マルチ商法は,販売員と話すことで商品を売りつけるシステムだから,当然あなたの話し相手になってくれる。親身になって悩み事なんかも聞いてくれるのだろう。販売員に悩み事なんて話してはいけません!弱みを見せたら,「いつでも相談に乗りますよ」から,「これを買えばその悩みは解決する」、そして「さらにこの商品を買えば家族みんなが幸福になれる」という方向に持って行かれます。そんなことあるわけないだろ!と思っても騙される。30万円の販売につながるとわかっているなら,2時間くらい愚痴を聞くのはお安い御用ですから。何でもそうだけど,過剰なサービスは怪しいと思った方が良い。

 

孤独や落ち込んでいる時に,販売員から「今度パーティ(マルチのパーティのことなので勘違いしてはいけない)を開くの。日本人もたくさん来るわ」とか「一緒にうちでお茶でもしましょ。あなたのお友達も大歓迎よ」,「何も買わなくていいのよ。見るだけで」,「一度来てみて自分の目で確かめたらいいわ」と優しく声をかけられれば行ってしまう。販売員にお茶なんかごちそうされたら,後でお茶代の数百倍の高額な何か,要らない何かを買うことになります。 

 

「うつになりかけている妻が楽しければ」・「お小遣い(月10万円とか?)の範囲でやっているようだし」とマルチを許容する夫が多いと思われるが,マルチはダメだと家族で理解することが大事だ。いつか,子どもも被害に遭う可能性も高い。海外赴任予定者や留学生向けの研修などで,渡航前にアメリカではマルチが身近にあるということを知らせて欲しい。来てからじゃ遅い。マルチに引っかかれば,己の情けなさや他を勧誘できないストレス等でもっと気分が沈むと思う。

 

心理カウンセラー等から「集まりなんかには積極的に参加するように」・「趣味のサークルに参加して」とか勧められたという人もいるかもしれないが…マルチの集まりという意味じゃないから。    

 

高額商品を買わせられたにも関わらず,「集まって楽しかったし,友達もたくさんできた。みんな親切で楽しかった。購入したものは社交費と思えばいい」・「ちょうど欲しかったんだ」・「これはいいマルチで,他のマルチ商法とは違う」と正当化。「あんなにかわいらしい販売員が悪徳商法をするわけがない。家も豪華で家具もセンスが良くて手作りのスイーツもおいしかった。今度のパーティではスイーツ作りも教えてくれるって」(→お菓子作りの道具のマルチの泥沼へ),「あの人が10年もやっているんだからそれなりに信用のおけるメーカーと言える」,「名前も顔も公表してるのよ。悪いことしてる人は公表しないでしょ」,「あの人は友達もたくさんいておしゃれで素敵。家族も素敵でお仕事(ってマルチの販売員ですが)も持っていてキラキラ輝いている。あんなふうになりたい」,「あの人に認められたい,ダウンラインを増やして好かれたい」。「仲良くなりたいと思っていた〇〇さんもダウンラインに入っている。共通の話題ができた」,「悩み事があったけど販売員さんに救われた。毎日が楽しくなった」,「講師ってカッコいい。一度先生って呼ばれてみたい」(くどいけれど,ただの販売員ですが),「キャンドルやアロマグッズはかわいいだけでなく,家族中で癒されてお得」とまあ…正当化する理由を並べ立てる。

 

どういうわけか,お金持ち・きれいな人=いい人,と思ってしまう。外見ではなく,見えない中身がキラキラしているか見抜かなければいけないのだ。  

 

「うちにはお金はあるから大丈夫」・「アメリカ経済に貢献している」・「アメリカ人講師のクラス(商品販売ですが)だから,会社のESLで無料で受講できる」といったお金の問題じゃない。他人が何をどれだけ買おうが散財しようが関係ないが,マルチは違う。引っかかる人がいれば,ダウンラインが形成されて周辺に広がっていく仕組みになっている。大損被害は必至で,破綻することが前提のピラミッド。友人も信頼もなくします。経済的だけではなく,家庭関係も破綻するかもしれない。

 

ここまで書いてもなお,「日本でのイメージは良くないけど,アメリカはマルチが普通だから」とか「アメリカにいる間だけだから」という人もいると思う。日本ではフライドポテトは健康に悪いから一切食べなかった人が,アメリカではこれが普通の食べ物だし肥満の人も多くて安心,日本人は太っていても細い方だし,と言って食べますかという話だ。どこに住んでいようが,太ったりコレステロール値や血圧が上がり,自分が苦しむことになる。同じことだ。 

 

日本の友人や家族に「アメリカでマルチ商法の商品をたくさん買ってる」とか「マルチの販売員になった」と言ったら,いい顔をする人はいないはずだ。だから,「ネットワークビジネスというアメリカでは普通の仕事形態よ」とか「日本人向けにクラスをやって成功している」,「日本語で説明するお仕事をしてる」と,役に立っているように見せて実態を隠す。マルチとは言わずとも,「次々と人を紹介して商品を売ることで利益を得る仕事」なんて言えやしない。さらには,「在宅でもできるいい仕事。がんばって続けて」と家族が応援してくれていると言う。まさか!家族関係がこじれるから言えないだけとか,説得が難しくて後戻りできないこと等も知っているだけ…。いずれにせよ,巻き込まれては大変なので,関わりを簡単に絶てる友人は離れていきます。家族が一番大変だ。

 

マルチ商法の商品は恐ろしく高価。「安かろう悪かろうと言うし,いい物が高価なのは当たり前」であるが,法外に高価なのだ。そんな価値はない。たっぷりとお金を払ってしまうと,それほどまでの価値がないのにだまされたと認めたくなくなるので,「素晴らし過ぎて市場には出回っていない」とか「特別な人だけが買える」,「商品の説明を十分に受けて納得した」と正当化してしまう。 

 

前にも書いたが,本場(!)アメリカのマルチはすごい。恐ろしい。

 

 

かつてMary Kayという化粧品のマルチ販売員から電話がかかってきたことがある。「おめでとう,あなたが当選したわ(きっと全員に言っている)!無料説明会の権利をゲットよ。都合のいい日はいつ?明後日?それとも週末?住所は?友達を好きなだけ連れて来てね」とどんどん押し切られ,何と訪問日程を設定させられてしまった。仕事から帰宅した夫に話すと,「化粧品の販売員?もしかしてMary Kayとか?マルチで有名だから関わってはいけない」と。自分で電話しても押し入って来そうで断り切れないと思われ,夫に電話で断ってもらった。深く,反省。

 

友だちを何人連れて来てもいいわって...連れて来て欲しいと思っているのは販売員の方なのに,無料だから私が許可を懇願したような言い方にすり替えている。巧みだ。自分の周囲の人達を巻き込むなんて,とんでもない!

 

自分がダウンラインに入れば,商品は安くで買えるが販売ノルマがある。ノルマをこなせなければ自腹を切ることになるので,何としても誰かを勧誘しなければならない。夫の上司の奥さんがマルチをやっていてそれが狭い社会なら...諦めるしかないのかも。だから,絶対にこの連鎖を断ち切り根っこから根絶しなければ,誰かに迷惑がかかる。 

 

渡米してすぐの頃,Creative Memoriesでカッター類を二度ほど購入した。もちろん,マルチだなんて知らなかった。カード作りではなくスクラップブッキングのためのクラフトなので,パンチ類が多い。ボーダーパンチは何というか…レトロというのではなくやたらと装飾に凝っていて,結構おばさんっぽいデザインだ(失礼!)。全体的に好みではなく何年も購入していなかったにも関わらず,10年以上も「今度パーティをするから来て」という案内メールが届いた。行くつもりがないなら,断りであっても返信はしない方がいい。

 

日本人が多い地域は,日本人を専門にビジネスをする(良くない)人も多い。日本の文化にも詳しかったり日本語も話せたりするものだから,つい気を許してしまう。日本語が話せる人に悪い人はいない,みたいな(笑)!外国にいると,Arigatoと言われただけでも「親日家!」とか思ってしまうんです。それが手口だったりもする。いまだについ気を許しがちになる(財布のひもが緩む)ので,用心しないとと肝に銘じている。

 

日本人の方にStampin'Upのトラブルをいくつか相談されたこともある。要らない高価な物を大量に買ったらしく,返品をすすめたがもうできないと言われたそうだ。返品できると言って買わせるが,実際にはできなかったと。まぁそんなものだろう。私に買い取って欲しかったのかもしれないが…結局,段ボールに詰めて日本に持って帰ったそうだ。

 

ペーパークラフトの無料レッスン(ここから既に怪しい)に行って,帰ろうとしたらMary Kayの商品販売が始まったという経験がある人もいる。いろんなマルチを掛け持ちしてるんですね。

 

Stampin’Upのクラス(クラスといっているが単なる実演販売)で,これも帰り際に急にカタログを差し出されて「この中から一人50ドル以上注文して」と言われて断り切れなかったという人が二人も。当然,クラス案内にはそんなことはひと言も書いていない。不誠実なんてレベルではなく,それがやり方なんだろう。ま,書いてあったら誰も来ないからねぇ。結局,無料レッスンとか5ドル程度しか払っていないから,申し訳なくて買ってしまうんです。罪悪感に訴えるケース。それに,日本人は人間関係が崩れることを恐れ,英語で反論しないということを知っている。販売員はそういう日本人の心理をちゃんと心得ているから,はじめっから受講=販売を確信した上で日本人向けにクラスをやっているのです。

 

クラフトのクラスで帰り際にいきなり病気の犬が出てきて,「この犬の治療費にかなりのお金がかかる」と言われて寄付金を渡すように言われたケースも聞いた。いやぁ…これも断り切れないだろう。情に訴えるケース。

 

帰り際に何が出てくるかって…恐ろしい!こういうトラブルを避けるためには,最初からマルチのパーティ(集まり)に参加しないことが肝心で,何かに誘われても販売員ではないことを事前に確認しておくことだ。

 

数年前にコミュニティ教育の一環として地域で開かれるクラフトのクラスに参加したことがある。Google検索すれば講師のプロフィールが見つかるので,事前に調べることが大事。どこにも属していない講師もいるが,使う道具から「〇〇の販売員が講師」だとわかるので,十分に用心して出かける。指導料だけでは利益も出ないし,講師という人に独創性も技術もないから,こういうマルチ商売が多いんですね。

 

マルチ商法の販売員というのは,トレーニングを受けていて独特の雰囲気を持っているという気がする。成功感と自信を前面に出していて,明るく身なりもきちっとしていて,カリスマ的とでもいうのか。カワイイ人に悪い人はいないと思い(笑),あこがれてしまうのだろう。しかし,常に販売のことを考えているから,プライベートと仕事の境目がなく,純粋な友人にはなれない。購入したらもう友人関係ではなく顧客関係(ダウンライン)になる。とにかく,距離をおくこと。

 

商品自体は悪くはないのも多いかもしれないが,市場に出回っているものの何倍もの値段がする。マルチのメーカーのロゴ入りの商品とか使いたくないし…ま,ハマった人にとっては,それは魅力的なロゴなんだろう。何よりマルチというシステムがマズイ。 

 

Close To My Heartというペーパークラフトもマルチで,ものすごく価格が高い。昔,マルチとは知らない頃にガレージセールでいくつか購入したことがある(スタンプセット$30の商品を$5で)。ガレージセールならば少なくともダウンラインに入らなくて済むし,送料や税金もかからない。いい商品もあったが,マルチと知ってからはもう買っていない。

 

私が,他のビジネスの邪魔をしていると捉える人はそれで構わない。ダウンラインに入って大損したり不用品を山のように抱えたり人間関係が破綻したりするというリスクよりも,得るモノが大きいと考える人もいるから。被害に遭って初めて気づく人もいれば,一生を捧げる人もいる(マインドコントロールされて目が覚めない)。自分の経験から,一回被害に遭わなければわからないのかもという気もする。

 

マルチではないが,あまりにも信用のないビジネスをするアメリカ人に言ったことがある。「日本では信用が第一。目先の利益を追求してはいけない。あなたが本当にいい仕事をすればそれは口コミになって,営業はしなくても自然と人が集まる。評判が高まり,結果的にあなた自身のためにもなるのだ」。「うわぁ,いいこと聞いた,教えてくれてありがとう!」と大げさに感激されたが,言うだけ無駄だった。日本人は…いいカモなんです。お金もあるし,3年くらいの滞在で次々にアメリカにやって来るし,ましてや英語で抗議もしないから,適当に扱っても構わないと思っている人もいる。

 

マルチに限らず,悪徳商法やカルト宗教に引っかかる自分は,愚かで恥ずかしい。日本では用心深かった自分なのに,どうしてこんなことにと...世間知らずである自分に落ち込む。希望を抱いていた海外生活でマルチ被害だなんて。誰も教えてくれなかった。何が何でも認めたくない。お金も200万円も使ってしまった。元を取るには,突き進むしかない(誰かを巻き込む)。

 

ダマされるということは,ますます組織を大きくさせ,犯罪を助長していることだ。別の被害者を生み,組織拡大に加担しているということ。誰かを不幸にします。自分だけ被害を受けたのでは悔しいので他の人も同じ目に…ではなく,最初から関わらないこと。

 

大損している人に追い打ちをかけるのはダメージが大き過ぎるので,被害を相談されても「そうだったんですか」くらいしか言えない。私にできることは,このブログで「注意して下さい」と書くことくらい。

 

私が何故ここまでマルチを嫌っているかというと,渡米直前に嫌な出来事があったから。これについては,後で書けたら…と思います。