お世話になっている会計士さんと政治について話しているときのこと。フェイクニュースを信じている人について批判して,"If they don't know anything about politics, don't say anything at all"「政治について何も知らないなら,黙っておけ」と憤った彼女。
If you cannot say anything nice,don't say anything at all.というフレーズがあります。Niceは「いいこと」というより「気が利いた」という意味かなぁと思っていますが...このフレーズ,刺さります。
私はこれまで,日本にいる家族や友人から一度も「アメリカの〜の状況はどう?」とアメリカについてのことを聞かれたことがありません。当たり前ですが,私ごときが「アメリカでは」とアメリカを語れるわけはないことがみんなわかっているから。もし「アメリカでは~だよ」と言おうものなら,特に手厳しい(?)弟から「へぇ,何でアンタ(私を名前で呼ぶが)にそんなことがわかる(言える)のさ」とか「それはテレビのニュースで言ってたことと同じじゃん」と容赦ないコメントが来るのは明らかです。
ミシガンに研修で来た時,「日本に戻って,決して『アメリカの教育は~』とか『ミシガンの学校では~』とは言ってはいけませんよ。州や学校区によって全く異なるのですから!」と口を酸っぱくして何度も注意されました。私は,アメリカ国内では今の住まいを除いてはボストン郊外とフリント(ミシガン州)でそれぞれ約一か月間生活をしたことがありますが,たった一か月間だったのにフリントはまるで異国かと思うくらいいろんなことが違っていました。
洋画の宣伝でよく「全米中が泣いた」とやっていますが,多民族国家の三億人が同じ価値観を持っているわけはないのはちょっと考えればわかること。あくまで宣伝文句なのに,日本では「そうか!アメリカ人がみんな泣いたのか。よーし私も見よう」なんて,映画を見る前から感動していましたけれど…。
国土は日本の約25倍,人口は約3倍,多民族・他宗教。喫煙できる年齢など様々な法律が州で異なるし,隣の市に引っ越せば学齢制度も変わり,小学6年生が中学1年生となることもある。アメリカ人というのはアメリカ生まれかアメリカ国籍を取得した人なので,日本人だってアメリカ人と呼ばれることもあります。
「今,アメリカで流行っているファッション」とか「アメリカで人気の映画」とか,一部の人達が作っている流行に過ぎない。アメリカ全土で大多数の人が知っているようなニュースは本当に大きなニュースなので,日本のテレビニュースで日本語で放送されます(もちろん,ヤバくて放送できないと思われるものも多い)。逆もそうで,日本の学校の臨時休校のニュースはCBSニュースで知りました。アメリカに住んでいたって,「NYやハリウッドのセレブの間で,今~が人気」というようなことは,日本のニュースで知りますから!日本では北海道から沖縄までの人々が,同じ時間帯にNHKのニュースを見て,20代の独身女性が読むような雑誌の内容は20代独身女性が読み,東京で流行っているものをまねしたり,全国で同じような食べ物が人気になります。ここでは,毎日見るテレビニュースのチャンネルも違いますし,ニュース自体を見ない人も多いかも。「普通の考え」や「一般的な言動」がない。「こういう人は初めて。いろんな人がいるよね」と驚くことがしょっちゅうです。
日本のテレビでトークショー(生放送)を見ていると,よく「ゲストの~さんのことをどう思っているか,ドラマの共演者の方に聞いてみた」というVTRが流されることがあります。渡米して数年経ったある日,これがものすごく違和感となった。共演者の方がどう思おうが,今テレビを見ている私が受けたゲストへの感想だけでいいのではないか。自分でいいと思うことではなく,人がいいと思うことをいいと思うように,マインドコントロールされているのではないか。本を読まなくても,本を読んだ人の感想を聞いてそれを自分の意見にすれば十分だという考え方です。「人からよく見られることが大事」という価値観は日本ではものすごく重要で,それが当たり前でした。日本の政治的な対応が他国からどう評価されるか,アメリカからどう思われているか。…今の大統領を投票するような人が多いアメリカに,ですよ。国際社会における日本の立場は重要ですが,正しい知識に基づいて考え判断したのなら自信をもって進むべきだと思います。学校制度や設備も,日本における3月という月の重要性も何もかも違うので,無知である他国の人がどうのこうの言うのは気にしなくてよい。
先週の金曜日のHBOのトーク番組で,辛口のビル・マー(Bill Maher)が,「日本人は」と切り出したのでドキッとしました。彼は,「日本人は,握手の代わりにお辞儀をするんだよ。俺は握手は元々嫌いなんだよね。何を触った手かもわからないし,握手には特に意味はないしね」と,ゲストにお辞儀。ゲストも,「そうなのよね。タッチするのはこぶしでも肘でもいいし」と笑ってお辞儀。日本への批判ではなく,日本の文化を使って日本の努力を認めて応援している…何ともあったかい雰囲気でした。やはり日本人の気質で,他からの評価を気にしている自分を認識しましたが…。
「日本では放送されていないニュースを観て,アメリカに住んでいる人と話し合ったりして,そして自分がどう考えるようになったか」。これしかないと思います。私ごときがグローバルな視点で物事を考えられるわけはありませんから。
日本のニュース番組はアメリカで見ることができますが,実際に日本で生活をしていないと「それが一体どれほど大変なことか」はわかりません。コロナウィルスのニュースを見たり,日本や他国の家族や友人,元同僚の学校現場の話を聞いたりして…聞くだけなのに気持ちの行き場がありません。寄り添って痛みを分かち合い,共感する。私が手伝えることは何か尋ね,少しでも役に立つのならそれを実行するだけです。