アメリカ人は,やたらとほめる。見知らぬ人であっても,通りすがりやカフェでI like your scarf!といきなり声をかけてくる。

 

これに慣れない頃(今も?)は,実に日本的な反応を示していたものだ。This is very old.(とても古いのよ)とかHere is a hole.(ここに穴が開いていて)等。ほめられ慣れていないので,どう返していいかわからない。気まずさを避けるために,「こんなモノをほめてもらって申し訳ない」と謝ってみたり欠点を挙げて笑いを取ることに走ってみたり…。

 

日本では,お世辞をまともに受け取ってはいけない風潮がある。謙遜が美徳。「肌がきれいですね」→「いいえ,ここに染みが」,「きれいな髪ですね」→「いいえ,白髪だらけで」とか,例え相手が気づいてないようなことでもサービス精神(?)でお知らせしてしまうのではないか。ほめられなけば欠点をお知らせする必要もないのに,とさえ思う。いや待てよ,欠点の告白を誘導するためにほめているのかもしれないのか…?

 

まともに「ありがとう」とか「肌には自信があるの」なんて答えたら,相手は拍子抜けしてずれている人というレッテルを貼られてしまう。「私なんてもう年で…」→「そうですね」と同意してはいけないように,常に自分を卑下し相手をほめる姿勢でいなくてはならない。

 

しかし…わざわざ否定的なことを言う必要があるのか?アメリカではほめた人はそういうネガティブな答えは予期していない。ほめた気持ちを台無しにしてやろうという悪意でもなければ,素直にThank you.と受け止めるのが普通。決まり文句みたいなものだ。さらに,お返しにI love your coat.等と添えれば完璧。いやー,ラクちん。ストレスなし!

 

先日スーパーのレジに並んでいた時のこと。私のすぐ前にいた4歳くらいの男の子が,その前に並んでいた女性のバッグを見てI like your bag.(そのハンドバッグ,素敵ですね)とほめたのである!ほめられた女性も苦笑していた。いやー,こんな小さいうちから,お世辞,おっと社交性が身についているとは。

 

日本では見知らぬ人に話しかけることはなく,増してや持ち物をほめられたりしたらひどく警戒するだろう。アメリカでは大したことなくても皆よくほめるので,一時帰国の時に寂しさを感じるのは私だけではないはず。

 

アメリカはいろんな文化を持つ人の集まりだから,10年前に日本で流行った型の服だろうがダサい絵柄のTシャツだろうがOKだ。あるクラフトクラスを受講した時のこと。汚れてもいい服かエプロン持参だったので,昔もらったウサギのアップリケのついたチェック柄のピンクのエプロンを持って行った。保育園の先生が身に着けるような感じのもので,もらい物をどうこう言うのもナンだが,まあダサくて安っぽいデザイン。一方,他に参加されていた日本人の方のエプロンは上質そうなリネンで,デザインもシンプルで洗練された今ドキのもの。渋い色の刺繍がとっても上品で,明らかに高級エプロン。ところが,アメリカ人の先生を含め,皆から「わ~!かわいい~!!」と大人気だったのは私の子どもっぽいエプロンであった。アメリカではダサいくらいの方が人目を引く。そもそも衣類についてはあまり気にしていないし,そういう人に限って家は豪邸であることがほとんどでもある。

 

日本では太ったのやせたの,顔色が悪いだのネガティブなことをあいさつ代わりにされていたが,最近はどうなんだろう。昔,男性職員から「顔色が悪いけれど大丈夫ですか」と心配されたことがある。特に気分が悪くはなかったし,そんなことを言われたのは初めてだった。それを聞いていた女性職員が「女性に顔色が悪いとかいうものではない」と一喝。その男性職員はとにかくすぐに人の外見についてコメントをし,「同僚の変化にいち早く気が付く気遣いの人」であると思われたいがために無理やり何かしら口にしていたようで…。

 

皆それぞれ悩みや問題を抱えているわけで,それほど親しくなければ気づかないふりというのが尊重することだと思う。親しくないのにプライベートについて何でも聞いてくる人には警戒心が芽生えるし,注意が必要。距離感を保ち,社交的なことやいいことはどんどん口にしたい。