日本では,自虐的に,自分のことをおばさんだとかおばあさんだとか呼ぶ女性がいる,とか。ババアと呼ぶのはもっとひどいし,ていねいに「お」をつけてオババと言っても同じこと。「私はあなたの敵ではありません」と親しみをもたせようとしての自称ババアかもしれないが,「キラキラ女子ではない」と言うにしても,この罵り的な呼び方はあまりにも不快。
年齢と共に,太ったり禿げたり深いシワやシミが出て外見が変わってくるが,これは自虐ネタとしてはキツイ。そこへいくと,年齢なら「私の努力では抗いようのない」ものであり,「私も年を取ったけど,あの人の方が5つも上でそれは負けることがない(年齢に勝ち負け!)」から安心安全のネタなのだろう。急に痩せたり一夜にして宝くじに当たって億万長者になって逆転される心配は無用。自分に自信がない人が,個人の力ではどうすることもできない年齢を盾に取っているだけの話です。
あまりにもうるさくて無視できない場合,どう対処すればよいか。
例えば,あなたが50歳で,40歳くらいの人に「私なんてもうババアだから」としつこく言われた場合。うっとうしいので「そうですね」と言ってみたいのは山々だろう(笑)が,それはもうその人には会わないという覚悟があればのこと。内心では「あなたのほうがもっとババアなんだから,私よりみじめったらしいはず」とか思っているから。
さらっと流して,「わかるー、最近物忘れがひどくて手元の文字が見えにくくなってきたのよー。昨日なんか何にもない所で転びそうになって…」と一方的に自分の話をするといい。注意すべきなのは,どうでもいい軽めの話にとどめること。作り話でいい,あくまでも「ババア」という言葉へ対処するための返答なので。間違っても,不整脈だとか血管が詰まっているとか外見ではない深刻な病気を教えるのは禁物。相手も自分をババアなんて思っていないんだから,あなたも本心なんて見せてはいけない。
または,「えっそうなんですか。そうは見えないので…もっとお若いと思っていました」と無邪気を装ってみるのはどうだろうか。さらに,「今までタメ口で話しててすみませんでした。じゃあ,これからは敬語で話しますね」と付け加えてみる。勇気があれば,「自分で(喜んで?)おばあちゃんって言ってるということは,今後は○○おばあちゃんって呼んだ方がいいですか」とか…はさすがにムリがあるか。
謙遜しての自称ババアなのかもしれないが,おばあさんは経験を積んだ敬うべき御老人。こちらがその方を尊敬し教えを請わねばならなくなるということで,「ということは,何でも知っているってことなんですね!いろいろ相談させて欲しいし,あちこち連れて行って下さい!」といいように利用すると,相手も「違う方向に行ったな」...と自虐をやめてくれるかも。これもさすがに白々しいか。
相手はあなたの反応を試そうとして切り出しているので,「そんなことないですよ,私の方が」に続き,「実はレーザーでここのシミを取って」なんて告白しては思うつぼ。あっという間に噂は尾ひれを付けて広がるので,くどいようですが,うっかり気を許してはいけません。
かといって,「あなたより明らかに年上の私はどうなるの!」とか「そんなことないですよって言って欲しいの?」と攻撃したりしては,ただでさえ低いその人の自尊心を深く傷つけてしまいます。相手はそんな反撃は全く予期していない。冗談のつもりだったのよと泣かれては困る。自虐は最大の防衛ですから。
一番いいのはまともに相手にしないこと。「そういえば昔,オバタリアンって言葉もありましたねー。あ、これを知ってるならもうババアですかね!思い出したけれど,おじんとかおばんって言葉もありましたが覚えています?」とか「昔は人生50年って,信じられないわよね。もう死んでもおかしくない年だなんて」と,一般論で相手の期待を裏切る。
「年相応に知識や経験を積んだかと問われると,言葉に詰まりますよね。勉強しないと」としみじみとマジメに答えるのもよし。外見ではなく内面に目を向けると,相手は黙ります。過度な自虐は,中身が成熟していないことの証しだから。
または,「もういい年だから病院の検診もいろいろ受けておかないといけないよねー。マンモグラフィ受けてる?市町村で補助額も違うんだってね」とか「終活には早いけど,断捨離始めたのよ。今年は不用品をどんどん売ろうと思って。早いけど,年賀状じまいも考えてるの」等と現実的な話題に切り替え,ババアという言葉は完全無視するのもいい。無視し続ければ,そのうち何も言わなくなると思う。多分。
日本ではやたらと年齢や容姿のことを耳にしていた(今はどうなのか)ので,自分の年齢や容姿に触れた話題をしない人をおかしいと思う人もいる。それで,「あの人は私より絶対に年上でかわいくないのに,くよくよしていないで明るい。絶対に変だ」と探りを入れてきたり。テレビのトーク番組でも,女優らに「その地味な顔,自分ではどう思いますか」とか「ご自分の(勇気ある)グレイヘアをどう思われますか」などと質問したり,全く余計なお世話。人の容姿の前に,そういう失礼な質問をする性格を何とかして欲しい。そして,視聴者も知りたがってはいけない。性格や言葉は目に見えないので,許されているんだろうなぁ。
何歳に見えますかと聞かれたら、「30歳にも,40歳にも…うーん,50歳にも見えますね。あ,もしかして外見のことを聞いているの?内面ではなくて?」と返すのはどうか。服装や化粧はやたらと若いが,精神年齢は低そうだからという意味がある。悪意があると感じたら,「年齢を当てて欲しいって,よほど自分に自信がないと聞けないですよねー。何歳に見えるって言って欲しいのかしら」とバッサリ斬るのもいい。真面目に相手にしたくないなら,「年齢不詳の方がミステリアスでカッコイイわよ」でごまかすのも。
ちなみに,私は「年齢で人を判断したり対応を変えたりしないから(気にしなくて大丈夫よ)」と答えます。子どもを除いて,人の年齢は聞いたことがない。友人でも年齢は知る必要はありません。人の年齢を知れば,自分の年齢も言わねばならなくなるので聞かないでおくのがいい。相手のねらいはあなたの年齢を聞き出し言いふらすことにあるので,無視するのが得策でしょう。勝ち負けという言葉は嫌いですが…ここは,逃げるが勝ち,ですかね。
もし少しでも正面から向き合おうと思うのなら,アメリカ在住の場合,「アメリカは年齢で人を判断したり区別したりしないで対等なところがいい。ここでは年齢の呪縛から解放されますよね」と同意を求めて気づかせるとか。長期滞在者は年齢による侮蔑的な表現はあまり使わないと思うので,自分が年上なら,「年齢のことを蔑んで言うのはアメリカではやめた方がいいじゃない?日本人にしか言わないんでしょ。それでも謙遜にもならないわよ」と老婆心で諭すのもありでしょう。日本でも不適切ですが,「渡米したてのあなたに言うけど」と前置きして,「アメリカの文化とは合わないから」とか「トラブルに巻き込まれたら大変だし」等と優しく教えてあげれば,全否定された気持ちにならないのでは。
体形や性別や同性愛者,人種による侮蔑で考えると,よくわかる。「私ってチビだし。ちびっ子同士仲良くしよう」とか「日本人の私って黄色人種だから」とやたらと言う人が周囲にいたら,「…だから何なの?」。なぐさめて欲しいのか知らぬが,日本式に「そんなことより。私なんかこんなに太っててさぁ」とネガティブなことの一つでも言わなきゃ場が収まらないのか。カテゴライズしたりグループに入れて精神的にも群れたがる日本人は,周囲を疲弊させるだけ。
自虐的におばあさんと呼ぶ人は,ネガティブ思考で精神的に老けるのも早いだろう。こないだ,76歳の方からメールがきたが「やはり私は老人の部類に入るんでしょうかね~?」と書いてあった。いつも前向きで穏やかな方だ。「ポジティブ思考の人と友人になりたいよねー」と,暗に「あなたは違うよ」と教えてあげるとよい。
自称ババアにしておけば安心して老け込め,老けた言い訳にもなるし,失敗や失礼も許されると思っているのだ。友人も仲間に取り込んで,油断させ老け込ませることができる。いや,油断させておいて,自分はちゃっかりお金をかけてメンテナンスをしていて「オバアさんと言っている割に全然若い!」と言わせるためだったり…とにかく,話題の中心にはいたいが,人と比較しては自尊心を激しくアップダウンさせるなどとかく不安定で,付き合うのが面倒だと思う。
それにしても,おもしろおかしく笑いを取るために自虐ネタを発しているのだろうが,実際におもしろい???全くおもしろくないですよねぇ。年を取らない人はいないので,年齢ネタなら確実に人を巻き込めると思っているから本当に厄介。自虐であっても,年齢や容姿で笑いを取るのは時代に合わない。自分を卑下しているように見せかけ,実際は他を蔑んでいるのだから。もっと他のことでおもしろいことを言えばいいのに。年齢のハナシなんて,ポジティブでなければ実りもなくつまんないでしょう。不毛!
先日,テレビ番組の「あさイチ」のトークショーに市村正親さん(1月28日で74歳)が出ていた。離婚したり大きな病気をしたりされたが,今もなお現役の俳優。視聴者は,悲しむ姿なんかを期待して観たりするのだろうが,ホントに前向きで非常に明るい方だった。自分をカテゴライズせず自然体で…周囲を心地よくさせているのが伝わってきた。
若いうちから自分をおばあさんと呼んでいる人は,40年50年後に自分のことをどう呼ぶのかも聞いてみたい。本当に年を取った時には,自分は負け確定になり(自分で自分を苦しめている),そんな心身の余裕もないか。
人生100年時代に突入したという。自分を老人呼ばわりし,周りを巻き込むのは精神的な老化。悪い影響を受けず,明るく前向きに生きたい。