阿沙比奈小学校の5年学級では、算数の授業が行われていた。担任の八原進助にクラスメイトの姉川元起が、
「先生のお父さん、何か悪いことをしたのですか?」すると教室全体が凍りついた雰囲気となり、
「い…いや…親父はあんなことしないぞ。たぶん他人の空似じゃないか?」進助は冷や汗をかきながらごまかそうとしていたが、
「”たにんのそらに”って何ですか?」
「あー、そうだなあ…自分にそっくりな人がいるってことかな…君たちだって、そんな人いるんじゃないか?」
「へえーっ」
「こんなくだらんこと問うより、授業続けるぞ」
(あ~あ、先生やパパの秘密知りたかったのにな~)授業が終り放課後に入ると、
「元起、先生のパパを知ってるのか?」帰り道に和志田大海の親友である元起に訊いてみた。
「うん。何度も見ているよ。体つきは先生そっくりだったよ。こないだも学校あたりでうろついてたし」
(やはりそうなんだ…あのハゲ頭、どう見ても先生のパパしか考えられない…)
「パパって、確か空手の選手だったっけ?先生も空手やってたし」
「そうだよ。俺が見たのは丸坊主でサングラスをかけてたよ。見た目893っぽかった」
「でも、どうしてわかるんだ?俺も見たことあるけど、背が高くてスポーツ刈りで、サングラスはしてなかったよ。イメージとは全然違うみたい」
「先生も背が高いもんね。ただ先生の場合、細マッチョだけど、お父さんはガチのマッチョだもの」
「う~ん、先生のパパが怪しい行動を取る人とは思えないもんな。真面目そうだし」
「何者かに洗脳されたような…そんな感じだよ。お母さんもそうみたい。お母さん、といっても伯母さんだけど」
「えーーーっ?!パパもママも?先生は知ってるのだろうか?」
「一緒に住んでないからわからないよ」実は元起、進助の母・可都江は伯母で、すなわち彼女の妹の子供で甥にあたる。伯母の可都江とは元起がよちよち歩きだった頃、祖父の葬儀で母とともに顔を合わせっきりで顔は覚えてなかったそうだ。
「給食まともに食ってなかったから、腹減ったよ~早く帰らなきゃ」二人は帰宅途中の交差点で別れ、我が家に帰った。大海は学校であった出来事を話すと、母のとも子は、
「おかえり、大海。何か変わったことがあった?」
「うん。先生のパパやママが怪しい人物にされている噂なんだ」
「何寝ぼけたこと言ってるの。頭おかしくなったんじゃないの?」
「そんなことないよ。友達から聞いたけど、ごつい体で丸坊主にサングラスかけて、この辺をウロウロしてたよ、って」
「そういう人、いくらでもいるんじゃない?気にしないことよ」
(元起の言ってることが本当なら、先生から洗脳を解いてもらうことだね。いったい、なぜあんな風になってしまったのか…)その後、家族で夕食を済ませ、宿題をしてから寝床についた。
翌朝、大海が起床して朝食を済ませて学校に行くと、教室の雰囲気がいつもと違っていた。担任の進助の父親・則勝がHAGEの幹部の一人、カッツェなのがほぼ確定したのだ。
「先生!お父さん、やっぱり怪しいと思ってたよ。まさか村をめちゃくちゃにしてさ」ところが進助は、
「まだ疑うのか?親父が悪いことするわけないだろうが」
「でも俺は、ちゃんとこの目で見たんだよ。坊主頭でサングラスかけて黒のスーツ姿だったよ」元起は疑う様子はなかった。絶対進助の父親と確信しているのだ。
「サングラスだったら親父なのか、わからないだろ?その話はどうでもいい。授業を始めるぞ」クラスメイトたちは、どうもモヤモヤして授業に集中できない。その時だった。教室の外を覗いてみると、あのスキンヘッド男が運動場の真ん中で仁王立ちしていた。おそらく子供たちの行動を見張ってるのだろう。監視カメラも作動したままだ。
(ヤバい…まさか、そいつだったとは…)
「おい、ちょっと見てくれよ!あの丸坊主のいかつい男が!」
「ん?いなかったぞ。早く自分の席に戻れ!」進助は運動場を覗いたが、人らしきものは見当たらなかった。
(先生の目には何も写らなかったのだろうか…)どうやら、どこかに隠れたらしい。休み時間になり大海たちは、
「逃げるくらいだから、やっぱ怪しいよ。それなのに先生はなかったことにしてさ」
「先生が前に”この辺で不思議なことが起きてる”って言ってたけど、これのことだったのでは…」
「先生の言うことはあてにならねえな。俺たちで徹底追求してやる!」
「そうしよう!それしかない!」さっそく作戦開始、彼らはスキンヘッド男の正体を明かすまで、彼の行動をじっくり観察することにした。村ではあちこちに取り付けられている監視カメラが四六時中作動している。それでも捉えられないように慎重に見張るのだった。しかし、とうとうその場面を捉えられてしまったのだ。すると、その映像がHAGEやブラックインサイドに知らされると、
(あのガキどもめ、何をしているのだ。俺たちに歯向かうとどうなるか、わかってるんだろうな)
「見つけ次第、あいつらを捕まえろ!」HAGE幹部のカッツェは部下たちに命令を下した。
(我々があきらめたと思うなよ…これからが正念場だ。村人どもを我がHAGEおよびシラハタワールドの一員となって我々に仕えるのだ)監視カメラで捉えられた阿沙比奈小学校の子供たちを捕まえるため、部下たちは目を光らせた。子供たちはそれぞれ自分の家に帰ると、和志田大海は血相を変えながら、
「ただいま!俺、この目で見たんだよ!坊主頭の見るからに893風にの男が学校の校庭にいたんだよ!」母のとも子は信じられない様子で、
「おかえり。どうしたの、あわてちゃって。私は見かけないわ。怖くて外を歩けないもの」
「そしたら先生が覗いたとたん、どこかに隠れたんだよ」
「そうなの?でも心配しなくても大丈夫よ。落ち着いて」
「なんでだよ。よくそんな呑気なことが言えるな」
「あのね、馬に乗った仮面を着けた女の人が、すごく強くてね。ピンチになったら敵を倒してくれたの」
「そういえば、見たことがあるなあ…」
「たしか”ダイヤモンド・ヴェール”って」
「そうだ!俺たちには強い味方がいるんだ!きっと、また倒してくれるに違いない!」
「これで村が守れる!私は彼女を信じる!」ダイヤモンド・ヴェールの出現は阿沙比奈村にとってはまさに救世主だ。
(つづく)