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青森市内、繁華街から少し入った住宅街。
その店は、静かに佇んでいた。

すでに22時。
店内に入ると先客はなく、
無機質な空間に
ご主人の下駄の音が響く。
時間すらも止まっているようだった。

おまかせで、さっそく握ってもらう。
◾︎ ヒラメの昆布じめ
身が厚い。
筋肉質かなと、想像した歯応えとは異なり柔らかく繊細。昆布の旨みを享受していた。

◾︎ 中トロ
大トロに近いのでは。
手に取り、指に脂を感じる。
じんわり甘く、溶ける。
ゆっくりと口の中に滞在する旨み、それでいて引き際の良い後味。
潔い。

寿司を握ってもらう間、
小さな器で供される、
いわゆるアテが、
今まで経験のないものばかりだ。

◾︎ くちこ
乾燥させていない、生のくちこ。
おちょこを縦に伸ばしたような白い器に、
新鮮なオレンジ色をした、トロっとした身。
つるんといただく。
なめらかな身、鼻に抜ける潮と磯の香り。
田酒山廃純米と交互に、口にちょこちょこと運ぶ。
この小さな動きが楽しくてたまらない。
青森に来たのは、これを味わうために呼ばれたんだ。
そんな運命めいたものを感じた。

◾︎ ボタンエビの味噌和え
ネタ箱に収まるボタンエビは、かなりの大きさ。
これもまた、田酒と良くあう。

◾︎ 干しヒラメ
名前がわからない。あえて言うなら、コハクヒラメ。
味噌と砂糖に漬け、何回も水抜きを行うという。
向こう側が透けて見えそうなくらいの透明感。
木の芽と和えられ、爽やか。

◾︎ シャコのツメ
爪?自分の爪の先ほどの大きさ。
「固いので、ゆっくりお召し上がりください」と、ご主人のひとこと。
口に含み、ゆっくりと噛むと、
ぎゅっとした身が
舌の上でじわじわとその身をほぐされ、
何十倍にも膨らんだかのように、
旨みで口中を支配する。

どれもこれも、
味わったことのないものばかりで、
ひと皿ひと皿に、
目を凝らし、
背筋が伸びた。

寿司は、イカ、ミル貝、トリ貝、シャコ、ウニ、ボタンエビと続いた。

ガリはもちろん、キャベツの漬け物、
春キャベツを浅漬けにし、平たくシート状に、
それをひと口大に切り、3つ供され、
それぞれ、醤油、ゴマ、ゆずの風味でいただいた。

素材を活かす、
どころでなく、魅力が引き出されていた。
少女が化粧を施された、どころでなく、
魔術でもかけられたようだ。

お腹がいっぱいになり、
あがりと羊羹、
オレンジとグレープフルーツのフレッシュジュースをいただく頃、
それまでの緊張の糸がほどけるように、
ご主人とおかみさんが世間話しを始めてくれた。
緊張と緩和。

まだまだ寿司なんて語れないな、
経験が浅すぎて。
だけどやっぱり、
ここには呼ばれて来たんだろう。
まだ出会うべき土地がある、
もっと知るべきことがある、
そう導かれたと思うと、これから先も食との出会いが楽しみだ。

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<br />夜総合点<span style="color: #FF8C00;">★★★★</span><span style="color: #A9A9A9;">☆</span> 4.3
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