薄桜鬼でもなんでもありません。。


大好きな栗の実さんに、勝手に書かせていただきました。

栗の実さんが話してくださったコトに着想・・・いえ、パクリか (^▽^;)


そんなんちゃうわいっ!


とお感じになると思うのですが。。。


どうかお許しくださいませ<m(__)m>




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またやっちゃった―――


御昼が終わり広間から下げてきたばかりのお湯呑を、炊事場の敷居に躓いて落としてしまったのだ。


この間も揃いのお銚子を割ってしまい、



「ほんまにもう!」



と、奥さんにきつく叱られたばかりだった。



また怒られちゃうな。


親元を離れ、新選組の屯所となっているこのお屋敷で、隊士さんたちのお世話をするという仕事をいただいてふた月。


まだ年端のいかない私に屋敷の人たちは皆よくしてくれるけれど、やっぱり日々の仕事は厳しくて、そうすんなり慣れるというわけにはいかなかった。



もうふた月も経つのに失敗ばかり。


もし、ここを追い出されちゃったりしたらどうしよう。


そんなことになったら私―――



考えれば考えるほど、涙がこみ上げてくる。


けど今はとにかく、目の前に散らばった破片を片づけなくっちゃ……


なんとか自分を励まして、割れたお湯呑のかけらを拾い集めていると



「いっ・・・」



尖った破片が小さな指先を突きさした。

赤い玉のような血はみるみるうちに膨らんで、まるで涙みたいにつぅっと手首へと伝い落ちてゆく。



指、切っちゃった。



もう、やだよ……



いよいよこらえていた涙があふれようとしたその時




「どうしたの?」




急に頭の上から、聞いたことのある明るい声が降ってきた。


振り返ると、そこにはひょいと身を乗り出して覗き込む、そのひとの笑顔。




「あ・・・・・・」



沖田さん―――



こわいこわいと言われている新選組の隊士たちのなかで、この人だけは他とは違う不思議な雰囲気を漂わせている。



いつも、くちびるの端に笑みをたたえて



瞳には常に何かを面白がっているような色が浮かんでいて



そして――



白い肌に光を深くたたえた瞳がとても美しくて。




剣術の稽古のせいなのか、ごつごつと節くれだった大きな手や、着物の袖からのぞくがっしりした強靭な腕は、いかにも刀を握り振り下ろす武士そのもの。


まだ子どもの私から見たって若い沖田さんは、でも一番隊組長としての威厳をきちんと持っていて、他の平隊士さんたちからも厚い信頼と尊敬を寄せられている。


それなのに、縁側に座って月を眺めたり、隊務の合間に近所の子供たちを集めて楽しげに遊ぶ姿は、まるで刀など手にしたこともないような、人を斬るなんてことからはもっとも遠い、優しく無邪気な人にしか見えなかった。



明るくて、それでいて奥には何か不思議な光がともっている。

沖田さんの瞳や笑顔には、人をひきつけてやまないなにかがあった。



突然現れたそんな沖田さんを前に何も返事が出来ないでいると、不意に隣にしゃがみこんで




「怪我してる」




わたしの手を取った。




「あ……こ、こんなの大したこと…」




「大したことないのに泣いてるの?」




クス……といつもの笑顔をこぼしたかと思うと、親指でわたしのまぶたの縁をそっと拭い、そしてそのまま傷ついた指を口に含んだ。




「っ!?……あっ、あの」




指先が、熱くてたまらない。



心臓はどくどくと脈打って、傷口からはますます血が溢れだしていくような気がする。



多分ほんのわずかな時間。



なのに、一瞬で全身の体温が頬に集まって、もう顔を上げていることすらできなくなっていた。



ようやく離してくれた指はもう血が止まっている。



沖田さんは、胸元から出した懐紙でそっとわたしの指を拭いながら、とてもいい考えが浮かんだというように目をまん丸にして言った。




「あ…そうだ!わたしが割ったことにすればいいよ」



「え?」



「わたしが廊下できみにぶつかって湯のみを割った。で、片づけてくれたきみが、怪我をした」



「でもそんなんばれたら……」



「くす、真面目だなあ。大丈夫。ふたりが黙ってれば、ばれるわけないでしょ」



のこりの破片を片付けながらそういう沖田さん。



「さすがに奥さんも、わたしには出て行けなんて言わないと思うよ」



まるで私が抱えていた心配事などすべてお見通しだというふうに、おどけて片目をつむって見せる。



さあ、終わった。


すっかりひとりで割れたお湯のみを片づけてしまうと、沖田さんはパンパンッと手を払って



「ああ、そういえば今夜は七夕だったよね。きみは書いたの?短冊。ここの子どもたちは色々書いてたみたいだけど」



中庭に面した廊下の柱には、笹飾りがくくりつけられていて、昨日このお屋敷の子どもたちが色とりどりの短冊や飾りを紙縒りで結んでいた。



あの大きな笹は、副長の土方さんと沖田さんが、ふたりで切りだしてくれたものだと、大人たちが話しているのを聞いた。


毎日眉間にしわを寄せている土方さんが七夕の笹をけ取って来てくれるなんてとビックリしたけれど、下働きのわたしには関わりのないものだとばかり思っていたから・・・・・




「きみも何か書きなよ」




「えっ」




思わずぶんぶんっと大きく首を振った。




「そんなん、坊ちゃんや奥さまに見られたら、また怒られてしまいますさかい」




「大丈夫、ちゃんと一番上に結んであげる。誰にも見えないようにね」




おいで、と連れて行かれたのは沖田さんのお部屋で


文机の上には、きれいに整えられた文箱があった。


お掃除をするのに何度か入ったことがあるけれど、沖田さんとふたりでいることなんてもちろん初めてで。

そこに沖田さんが立っているだけで、まるで見たことのない場所のように見えてくる。



さあ、と促す手に背中を押されて、気づいたら私は文机の前に座っていた。

おずおずと筆を取って紙の上を走らせると




「へえ、字、うまいんだ」



「いえ、そんな……けど、父さまが、おなごも読み書きはできなあかん、いうて」



「ふうん、どれどれ…」



沖田さんが後ろから覗き込んだ白い短冊には、小さなころからずっと思い続けた願い事が書かれていた。




「いつか天のお星さまをつかまえられますように、か。どうして、お星さまをつかまえたいなんて思うの?」



幼い願い事を見られたのが恥ずかしくて真っ赤になりながら、けれど決してバカにしたり茶化したりしていない沖田さんの表情に少し安心して、わたしはぽつりぽつりと話しはじめた。




「昔から、星を見るのが好きなんです。お月さんもきれいやけど―――」



ひとつひとつはか弱いけど、しっかり自分の光を放っていて。



光が強くなったり弱くなったりしながらも



きらきらと、自分の色を輝かせて。



じっと眺めていればいるほど、輝きがどんどん増えていく。



でも気が遠くなるほど高い空にちりばめられた星に、小さい手では届くはずもなく



けどきっといつか。



この手に捕まえて、わたしもあんなふうに輝いてみたい―――




「なるほど、それでお星さま、か。 じゃあ――名前」



「え?」



「名前書かないと、誰の願い事かわかんないでしょ」



「あ、あの……栗の実、です」



やっとのことでそう答えると、沖田さんはにっこり笑って私から筆を取り、短冊の最後に小さく「栗の実」と書き添えた。








コンチキチン・・・・


七夕の日からしばらくたって、今夜は祇園会の宵山。


少し曇り空だけれど、京の町はみんな浮足立って、お祭りの雰囲気が漂っている。


家の人もみんな浴衣を着て出かけていったし、新選組の隊士さんたちも次々に町へと繰り出していった。


時折風に乗って、遠くから鐘の音が聞こえる気がするけれど、もしかしたら空耳かもしれない。


きっと賑やかなんだろうな。


わたしも、行きたいな―――


洗いものを終え、ふうと手をぬぐいながら中庭に目を遣ると、見慣れた黒の着物がふわりと揺れた。




「あ……沖田さん」




あわててぺこりと頭を下げるわたしに、くす、とあの笑顔を浮かべて




「栗の実ちゃん、ちょっとおいでよ。星がきれいなんだ」



え?



つられて空を見上げても、今夜は雲が出ていて、星なんてどこにも見えない。


不思議に思い隣を見ると、沖田さんはその腕を空に向かって伸ばしているところだった。



まるで伸ばした先にある何かを、掴み取ろうとしているように。




「沖田、さん?」




そこにある何かをぎゅっと握る真似をして、そのままゆっくりと下ろした先は、わたしの顔の真ん前で。



目の前で、手のひらがそうっと開かれた。



思わず覗き込むと、そこには



さっきまで空で輝いていたかのような、小さくて色とりどりの、星のかけら。



「わあ……!」



きれい――――


前に見たことがある。


たしか、金平糖という砂糖菓子だ。




「七夕の夜は雨が降ったからね。おり姫とひこぼしの代わりに、栗の実ちゃんの願いを叶えてあげようと思って」




沖田さん……



それから、と次に出てきたのは、きれいな赤いかざぐるま。



「お祭りだからね。さっき巡察の帰りに見つけたんだ」



そう言って、わたしの帯にさしてくれたかざぐるまは、ふうと吹くとくるくる回って、色がまざる。




「あ、あの、おおきに…けどこんな」



「いつもおいしいお茶を淹れてくれてるの、栗の実ちゃんだよね?」



「え?」



急にそんなことを聞かれて戸惑っていると



「きみが来てから、お茶がとても美味しくなったんだ。栗の実ちゃんの淹れてくれるお茶を飲むとね、なんだかホッとするんだよ」



毎日毎日が気の抜けない仕事の連続なのだろう。
巡察から帰ってくる人たちの表情が、いつもとても厳しいことからもよくわかる。

時には、怪我をして帰ることもあれば、命を落とすことだって。



そんな隊士さんたちの―――沖田さんの、ほんの少しでも役に立っているってことかな……?



金平糖を大事そうにわたしの手に載せて、沖田さんは



「だから、これはほんのお礼。これからも、栗の実ちゃんのおいしいお茶、頼んだよ?」



トントンと人差し指でわたしのおでこをつ突きながら、とびきりやさしい笑顔で言って、じゃあね、とくるりと背を向けた。



頭の後ろで両手を組む、見慣れた仕草。



ただただその後ろ姿を見送っていると




「あ、それから」




両手を組んだまま振りかえって、明るい声で言った。




「いつか本当のお星さま、つかまえに行こう」




あ……




「いつか―――うん、もう少しだけ背が伸びたら……ね?」







コンチキチン……



どこからか鐘の音が聞こえてくる。



もうとっくに見えなくなった背中に向かって、わたしはやっと




「はい!」



と返事をした。



場違いなほど明るくて、とびきり元気な声で。





END




ごめんなさいっ!!!


栗の実さん、ありがとう!!