僧侶と哲学者 | ライオンシティからリバーシティへ

僧侶と哲学者

僧侶と哲学者―チベット仏教をめぐる対話/ジャン=フランソワ ルヴェル
 
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父のジャン・フランソワ・ルヴェル はフランス当代一の哲学者、政治批評家。息子のマチウ は分子生物学の学者だったが、スピリチュアルに目覚め、チベット仏教僧侶に。

普通の仏教本と違い、この本はチベット仏教のみならず、父ルヴェルの言い分を通じて、日本人にとって必ずしも馴染み深いとはいえない、西欧哲学やキリスト教の伝統についても知識を深めることができる。
なにより、この本が出色なのは、信条や文化伝統が異なる者同士の対話は、しばしばかみ合わないことが多いのに対し、実にかみ合った議論をしていること。

かみ合っているのは、やっぱり二人が親子だからだろう。

前途多望だった優秀な息子が、世俗の栄達を捨て、自分たちの精神伝統と全く異なる道を選んだことに対して、父は複雑な感情があっただろう。でも、ここでは、そういうドロドロは、すべて昇華されている。

西欧哲学者の父は、自らの矜持を保ちつつ、仏教専門家としての息子に、「分からないから教えて」と、謙虚に質問をする。父の質問を、はぐらかすことなく、息子は誠実に、分かりやすく答える。父は、賛同できないところは賛同できないと言い、自らの考えを述べる。父の言葉に対し、息子が自らの考えを述べる。

一流の知性をもった父子による透明で誠実な対話は、実り豊かだ。

見かけに反して、決して難解すぎる本ではない。何度でも読み返したい。